希少疾患「BWCFF症候群」による口唇口蓋裂に アクチン分子の異常動態が関与することを解明

希少疾患「BWCFF症候群」による口唇口蓋裂に アクチン分子の異常動態が関与することを解明

2024-11-5生命科学・医学系
歯学研究科准教授黒坂 寛

研究成果のポイント

  • 希少疾患であるBaraitser-Winter cerebrofrontofacial (BWCFF) 症候群の病態の一つ「口唇口蓋裂」に、アクチン分子の異常動態が関連する事を発見。
  • 希少疾患の病態解明は、原因が不明である事や疾患の希少性から困難だったが、担当医や未診断疾患イニシアチブ(IRUD)との協力、疾患モデル動物(ツメガエル)の作製を含む共同研究を通じて、原因究明から疾患発症メカニズムの解明までをシームレスに行うことが可能に。
  • BWCFF症候群のさらなる病態解明や、関連疾患の診断および治療法の開発に貢献。

概要

大阪大学大学院歯学研究科 大学院生の辻本貴行さん(博士課程)、黒坂寛准教授、山城隆教授、広島大学両生類研究センター 鈴木誠助教、荻野肇教授、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)らの研究グループは、希少疾患であるBWCFF症候群において、アクチン分子が上皮細胞において異常な動態を示す事が原因で口唇口蓋裂を引き起こす可能性があることを解明しました(図1)。

これまでBWCFF症候群の病態はアクチン分子の病的バリアントが原因である事は知られていましたが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多く残っていました。

本研究の成果は、BWCFF 症候群のさらなる病態解明や、関連疾患の診断および治療法の開発に貢献するものです。また、希少未診断疾患の診断、原因究明は、本研究のような多分野融合型研究が必須です。今後の希少疾患研究のロールモデルとなりうる成果です。

本研究成果は、英国科学誌「Human Molecular Genetics」に、9月13日(金)に公開されました。

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図1. 変異型アクチン分子は細胞接着部位に局在できない事を発見

研究の背景

希少疾患は、その患者数や学術研究の少なさから、病態に未解明な部分が多く残されています。BWCFF症候群もその一つで、病態解明のために更なる研究が求められています。特に、BWCFF症候群ではアクチン分子の病的バリアントが原因で発症する事は知られているものの、口唇口蓋裂などの全身の様々な形態形成異常がどのように引き起こされるかは不明でした。

また、遺伝性希少疾患の包括的な理解には、正確な診断、原因に即した機能解析などが必須となりますが、それらの研究を一つの施設で行うには限界があり、多分野に跨る研究チームと協力し研究を遂行する必要があります。

研究の内容

今回、研究グループは最先端の臨床遺伝学や疾患動物モデルの作製を行う複数グループと共同研究を行い、BWCFF症候群において口唇口蓋裂などの全身の様々な形態形成異常がどのように引き起こされるかについて調べました。アクチン分子は上皮細胞において細胞接着部位に局在する事が知られていますが、今回の研究で同定した病的バリアントをもつアクチン分子は細胞内における局在が異常となる事により胎生上皮細胞の挙動に影響している事が分かりました。

研究グループは、アフリカツメガエルにゲノム編集技術を用いて、人工的に病的バリアント付近に遺伝子変異を導入したBWCFF症候群モデル動物の作製を広島大学両生類研究センター 鈴木誠助教、荻野肇教授の協力を得て行い、同疾患の病態解明を行いました。この作製したアフリカツメガエルの顔面を顕微鏡にて観察し、口の幅が野生型で平均833μmであったのに対しBWCFF症候群モデル アフリカツメガエルでは平均455μm と短くなる事を発見しました。これらの変化はBWCFF症候群の症状の一部を反映していると考えており、アフリカツメガエルが口唇口蓋裂などの顔面形成不全の発症メカニズムを研究する上で有用なツールである事を示しています。 これらのことから、BWCFF症候群ではアクチン分子が上皮細胞において異常な動態を示すことで、口唇口蓋裂を引き起こす可能性があることを解明しました。全身に症状が現れる遺伝性疾患の病態解析には動物モデルの作製が必要ですが、細胞を扱う研究と比較して時間とコストが大幅にかかります。今回の研究では動物モデルのなかでも比較的研究時間やコストが少ないアフリカツメガエルを用いて、効率的に研究を進める事が可能でした。近年ゲノム医療の急速な発展により多くのバリアントが報告されており、今後はこの様な機能解析が医療の発展や科学技術の向上に必要不可欠です。本研究は大阪大学大学院歯学研究科、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)大阪大学解析センターにて病的バリアントの同定から機能解析の一部、広島大学両生類研究センターにて動物モデルの作製、解析を行いました。臨床と基礎生物学の融合研究は、未だに治療方法の少ない希少疾患の病態解明、診断、治療方法の開発に必要不可欠なものです。

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図2. BWCFF症候群のモデル動物を用いた解析

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の成果は、BWCFF症候群のさらなる病態解明や、関連疾患の診断および治療法の開発に貢献するものです。 また希少未診断疾患の診断、原因究明は本研究の様な多分野融合型研究が必須であり、今後の希少疾患研究のロールモデルとなる事が期待されます。特に培養細胞やアフリカツメガエルを用いた効率的な疾患メカニズムの解明は、希少疾患患者や国の医療費負担や研究費の軽減に貢献する事が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年9月13日に米国科学誌「Human Molecular Genetics」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Compromised actin dynamics underlie the orofacial cleft in Baraitser-Winter Cerebrofrontofacial syndrome with a variant in ACTB
著者名:Takayuki Tsujimoto, Yushi Ou, Makoto Suzuki, Yuka Murata, Toshihiro Inubushi, Miho Nagata, Yasuki Ishihara, Ayumi Yonei, Yohei Miyashita, Yoshihiro Asano, Norio Sakai, Yasushi Sakata, Hajime Ogino, Takashi Yamashiro and Hiroshi Kurosaka
DOI: https://doi.org/10.1093/hmg/ddae133

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤B(顎顔面形成不全を伴う未診断稀少疾患の遺伝的原因の究明:19H03858)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の一環として行われ、広島大学両生類学研究センターの鈴木誠助教、荻野肇教授の協力を得て行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

希少疾患

日本では、患者数が日本国内で5万人未満の疾病が希少疾患とされています。希少疾患には遺伝子の異常によって起こるものが多く、症状や治療法が普通の病気と大きく異なることがあります。

Baraitser-Winter cerebrofrontofacial (BWCFF) 症候群

非常にまれな遺伝性疾患で、アクチン分子の異常により主に脳、顔、そして骨の発達に影響を与える病気です。

アクチン分子

アクチン分子は、細胞の中にある非常に小さなタンパク質で、主に細胞の形を保ったり、動いたりするために重要な役割を果たしています。

病的バリアント

病的バリアントとは、体の設計図である遺伝子の病気の原因となる変化の事です。

希少未診断疾患

希少未診断疾患とは、非常に珍しくて、まだ原因がわかっていない病気のことです。このような病気は、患者の数がとても少ないため、医師でも診断が難しい場合があります。そのため、原因を調べたり、新しい治療法を見つけるために、特別な研究や検査が必要になります。