CO₂と水の利点を活かした新たな岩石破砕法を開発

CO₂と水の利点を活かした新たな岩石破砕法を開発

地熱エネルギー抽出に適した高性能地熱貯留層の造成技術として期待

2024-5-31自然科学系
工学研究科助教緒方 奨

お読みいただく前に

日本の地熱資源は大変豊富であるにもかかわらずうまく活用しきれていない現状を変えるため、CO2を活用して地熱資源を開発し、地熱発電につなげる取組がおこなわれています。

流体を高圧で注入し岩石を破砕する「フラクチャリング」により、地熱で温められた流体(地熱流体)が浸透し溜まることのできる場所(貯留層)を人工的につくることができれば、浸透性などが不十分であり開発が困難であった地熱資源からもエネルギーを抽出できるようになります。研究チームは高温高圧の火山岩帯で、CO2を活用したフラクチャリングによる地熱貯留層(浸透性き裂ネットワーク)の造成を目指しました。

研究成果のポイント

  • 火山岩での「CO2によるフラクチャリング」と「水によるフラクチャリング」のそれぞれの特徴及びそのメカニズムを解明し、CO2と水の利点を共に活かした新たなフラクチャリング手法を開発。
  • 開発手法は、地熱エネルギー抽出に適した、複雑なき裂パターンと高い浸透性を兼ね備えた高性能地熱貯留層を造成する上で有効な技術であり、特にCO2を活用した地熱発電の推進における大きな貢献に期待。

概要

CO2を活用した地熱資源の開発と発電の実現を目指した、カーボンリサイクルCO2地熱発電プロジェクトが2021年より日本国内で推進されています。このプロジェクトでは、CO2を用いてフラクチャリング(流体圧入による岩石破砕)を行い、地下の高温高圧な火山岩帯に人工の地熱貯留層(浸透性き裂ネットワーク)を造成することで、天然の地熱貯留層が無くとも地熱エネルギーを抽出できるようにする計画が考えられています。

今回、東北大学大学院環境科学研究科の渡邉則昭教授・坂口清敏准教授らの研究グループと、大阪大学大学院工学研究科の緒方奨助教(附属フューチャーイノベーションセンター若手卓越教員)・大学院生の前田悠太朗さん(博士後期課程)らの研究グループは、地熱技術開発株式会社(GERD)代表取締役の大里和己氏と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)再生可能エネルギー事業本部の寺井周氏らとともに、地下の高温高圧な火山岩帯に高性能な人工地熱貯留層を造成するための新技術を開発しました。具体的には、CO2を岩石内に先行注入した後に続けて水を注入することで、CO2と水の利点を共に活かすことのできる新たなフラクチャリング手法です(図1、図2)。この開発手法により、水のみを用いていた従来の一般的なフラクチャリングよりも、複雑性や浸透性に優れたき裂ネットワークをより少ない刺激で火山岩中に造成できることが確認されました(図1)。これらは、地熱開発時の地震発生リスクの低減や、地熱エネルギーの抽出において非常に優位な特性であり、本研究成果は高性能な人工地熱貯留層の造成、ひいてはCO2地熱発電の更なる推進に大きく貢献することが期待されます。  

本研究成果は、地熱分野の国際学術雑誌「Geothermics」に、2024年4月5日付で掲載されました。

20240531_3_1.png

図1. 模擬地熱環境で本小松安山岩に対しCO2と水を併用した新たなフラクチャリング手法を適用した場合の岩石破砕の特徴 (写真中の黄色い線がき裂を表す) (a):CO2と水を併用した本小松安山岩のフラクチャリング試験より得られたき裂パターン、(b):CO2と水を併用した新たなフラクチャリング手法の概念図

20240531_3_2.png

図2. 模擬地熱環境で実施した、火山岩へのCO2ないし水を用いたフラクチャリング実験より把握された岩石破砕の特徴 (写真中の黄色い線がき裂を表す) (a):水を用いた本小松安山岩のフラクチャリング試験より得られたき裂パターン、(b):CO2を用いた本小松安山岩のフラクチャリング試験より得られたき裂パターン

研究の背景

世界第三位の地熱資源量を活かしきれていない日本の地熱発電の現況を変えていくために、従来の地熱発電で用いられてきた天然の地熱貯留層に頼らない、非従来型の地熱発電の必要性が高まっています。2021年より、日本国内では、新たな非従来型地熱発電の一つとして、CO2を活用し地熱資源の開発と発電を行う、カーボンリサイクルCO2地熱発電プロジェクトが独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)により開始されています。本プロジェクトでは、高温高圧の火山岩帯にある地熱資源を主な開発対象としており、CO2を用いたフラクチャリング、すなわちCO2フラクチャリングにより人工の地熱貯留層(浸透性き裂ネットワーク)を火山岩帯に造成することで地熱資源を開発していく計画が予定されています。

しかし、地熱資源が存在している様な高温高圧環境(地熱環境)での火山岩のCO2フラクチャリングに関する先行研究は存在しておらず、火山岩帯に地熱貯留層を造成する上でのCO2フラクチャリングの特徴や最適な実施手法などが明らかになっていませんでした。

研究の内容

そこで本研究ではまず、地熱環境における火山岩へのCO2フラクチャリングの特徴を把握するために、水によるフラクチャリングとCO2フラクチャリングを比べた場合の違いを室内実験より調べました。具体的には、火山岩である玄武岩と安山岩の中に円柱状の孔を設け、そこへ水ないしCO2を注入していくフラクチャリング試験を温度250℃・封圧30MPaという模擬地熱環境で実施しました。

その結果、CO2によるフラクチャリングの場合は、水によるフラクチャリングよりも低い注入圧力においてより複雑性の高いき裂パターンが形成される一方で、水によるフラクチャリングと比べき裂の開口量が小さくなるという特徴が示されました(図2(a))。つまり、火山岩帯での地熱貯留層造成においてCO2フラクチャリングは、き裂形成に必要な注入圧力が小さいことによる誘発地震発生リスクの低減、き裂パターンが複雑であるためき裂内外での熱交換が行われやすいことによる抽熱性能の向上、という大きな利点を持つことが分かりました。しかしその一方で、き裂の開口量が小さいという特徴から、き裂ネットワークの浸透性(抽熱性能を左右)が低下する懸念も持ち合わせていることが分かりました(図2(b))。

続いて、この様なCO2の利点を活かしつつ懸念点を改善する方法を検討するため、室内実験で把握されたCO2フラクチャリングの特徴が発現するメカニズムを数値シミュレーションにより調べました。具体的には、火山岩内の流体流れや変形・破壊(き裂の形成・開閉)の相互作用を計算可能な数値モデルを新たに構築し、先に実施した室内実験(玄武岩と安山岩への水ないしCO2を注入していくフラクチャリング試験)を模擬した数値シミュレーションを実施しました。シミュレーションの結果から、水よりも粘性の低いCO2を火山岩に注入する場合は、孔壁から岩石内部へCO2が浸透しやすく、それに伴う圧力変化により岩石の変形・損傷が複数箇所で生じるため、破砕に要する注入圧力が低減されるとともに複雑なき裂パターンが形成されやすいということが示されました(図3(b))。また、CO2が岩石内のき裂以外の領域にも浸透していくことで、き裂内外の圧力差(き裂開口の駆動力)が小さくなるため、CO2フラクチャリングではき裂の開口が抑制されやすいということもわかりました(図3(b))。一方、水の場合はCO2より粘性が高く岩石内部に浸透しにくいため、高い注入圧力で孔壁から単純に伸びる様なパターンのき裂が形成されてしまうものの、き裂内外の圧力差は大きくなるため開口量が拡大しやすいということが示されました(図3(a))。

最後に、これらの実験と数値シミュレーションより把握できた点をふまえ、CO2の利点は損なわず、懸念点を改善できるような新たなフラクチャリング手法を開発しました(図1)。具体的には、CO2を岩石内に先行的に注入した後に水を注入していくことで、CO2を水で後押しするフラクチャリング手法を提案しました(図1(b))。このフラクチャリング手法は、CO2でき裂を発生させた後、水でそのき裂を更に開口させ浸透性を増大させることを意図しています(図1(b))。実際にこのフラクチャリング手法を温度250℃・封圧30MPaという模擬地熱環境での火山岩に適用した結果、水よりも低い注入圧力で複雑なパターンのき裂ネットワークが造成されるだけでなく、造成されたき裂ネットワークの浸透性はCO2または水のみを用いたフラクチャリングのケースよりも高いということが確認されました(図1)。

20240531_3_3.png

図3. CO2フラクチャリングの特徴が発現するメカニズムを数値シミュレーションにより分析 (a) 模擬地熱環境での水を用いた火山岩フラクチャリング試験の数値シミュレーションより得られた岩石内の流体圧分 (b) 模擬地熱環境でのCO2を用いた火山岩フラクチャリング試験の数値シミュレーションより得られた岩石内の流体圧分布

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で得られた成果は、非従来型地熱発電の生命線となる、フラクチャリングによる人工地熱貯留層(浸透性き裂ネットワーク)造成における新たなアプローチを提供します。

人工地熱貯留層の造成に関する従来の研究では、主に水やCO2のどちらかを単一で用いるフラクチャリングが行われてきました。本研究では、CO2と水を上手く併用することによって、CO2の利点(破砕圧力の低減、き裂パターンの複雑化)と水の利点(き裂の開口量・浸透性増大)を併せ持ったき裂ネットワークを造成可能であることを示しました。このき裂ネットワークは、地熱エネルギーの抽出において優位となる種々の特性を兼ね備えたものであり、従来のアプローチでは実現困難です。

この様に本研究の成果は、高性能な人工地熱貯留層を造成する上で高いポテンシャルを有する新たなアプローチを提示するものであり、非従来型の地熱発電、特に日本国内で推進中のCO2を活用した地熱発電(カーボンリサイクルCO2地熱発電プロジェクト)の実現に大きく貢献することなどが期待できます。 また、地熱資源以外の様々な地下資源の開発に対しても応用が期待できます。

特記事項

本研究成果は、2024年4月5日に米国科学誌地熱分野の国際学術雑誌「Geothermics」(オンライン)にオンライン掲載されました。

タイトル:“CO2 fracturing of volcanic rocks under geothermal conditions: Characteristics and process”  
著者名:Kohei Takuma、 Yutaro Maeda*(責任著者)、 Yuto Watanabe、 Sho Ogata*(責任著者)、 Kiyotoshi Sakaguchi、 Eko Pramudyo、 Daisuke Fukuda、 Jiajie Wang、 Kazumi Osato、 Amane Terai、 and Noriaki Watanabe*(責任著者)
DOI: https://doi.org/10.1016/j.geothermics.2024.103007

本研究は、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の受託研究(カーボンリサイクルCO2地熱発電技術)により実施されたものです。また、本研究の成果の一部は、JST創発的研究推進事業(JPMJFR216Y)、JSPS科研費挑戦的研究(開拓)(JP21K18200)、JSPS科研費基盤研究B(JP22H02015)の助成を受け得られたものです。

参考URL

緒方 奨 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/31751e421aaa4974.html

大阪大学大学院工学研究科附属フューチャーイノベーションセンターテクノアリーナ領域
革新的マルチスケール・マルチフィジックス 岩石力学の創出
https://sho-ogata.jp/

渡邉 則昭 教授 研究者紹介
https://www.r-info.tohoku.ac.jp/ja/34d05e0675b52d4f5edac1be3d4512c9.html

東北大学大学院環境科学研究科 渡邉研究室
http://www2.kankyo.tohoku.ac.jp/komai/member.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を