
大阪大学ELSIセンターとNEC、 顔認証技術の適正利用に向けた ガイドおよびリスクアセスメント手法を策定
2024年4月よりNECにおける顔認証事業で検証開始
目次
研究成果のポイント
- ELSIセンターとNECは、共同研究を通じ、顔認証技術の適正利用に向けたガイド「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」および「リスクアセスメントフレームワーク」を策定。
- 「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」:顔認証技術を活用した事業の社会受容性向上に向けた取り組みにおいて留意すべき事項を整理した事業開発ガイド。事業開発の企画・開発・運用のフェーズごとのチェックリスト、リスクアセスメントに活用可能。
- 「リスクアセスメントフレームワーク」:ELSIの観点を取り入れたリスクアセスメントの枠組み。顔認証技術を採用することによる人権・プライバシーやレピュテーションに関連するリスクについて、適切なアセスメントを行うことが可能に。
- 今後も、共同研究を通じて、ELSIに配慮した事業開発の標準プロセスなどの研究・策定に取り組む。
概要
大阪大学社会技術共創研究センター(以下 ELSIセンター)と日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO:森田隆之、以下 NEC)は、顔認証技術の適正利用に向けたガイド「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」および「リスクアセスメントフレームワーク」を策定しました。本共同研究成果をもとに、NECは4月から顔認証事業において検証を開始しています。
策定した本ガイドは2023年10月29日「研究・イノベーション学会」で、本フレームワークは2024年3月8日「電子情報通信学会」で発表されました。
研究の背景
近年、顔認証技術はオフィスやイベント会場のセキュリティゲート、空港での各種手続きなど、社会のさまざまな場面での利活用が広がっています。一方で、顔認証技術を社会に実装する際には、法令順守に加え、利用者に対する倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues;以下ELSI)に配慮する必要があります。
大阪大学は、社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学を目指すことを目標とし、2020年に全学組織の 1 つとしてELSI センターを設立し、新規科学技術の研究開発プロセスに ELSI への配慮を組み込むための手法を研究するとともに、産学での共創の実践に取り組んでいます。
NECは、AIの社会実装や生体情報をはじめとするデータの利活用において、プライバシーへの配慮や人権の尊重を最優先に事業活動を推進するための指針として、2019年に「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定し、事業を推進しています。また、生体認証を活用した共通のIDによって、複数の場所やサービスで一貫した体験を提供する「NEC I:Delight」の実現を目指す事業においても、こうした考え方を基に、顧客やパートナーとの共創を進めています。
両者は、ELSIの抽出と対応策を検討していくために、産学共創の共同研究を2022年9月から本格的に開始※しました。今回、本共同研究を通じ、「10の視点」の策定を2023年10月29日「研究・イノベーション学会」、「リスクアセスメントフレームワーク」の策定を2024年3月8日「電子情報通信学会」で発表しました。
今後両者は、本ガイドを実践していくため、ELSIに配慮した事業開発の標準プロセスなどの研究・策定に取り組みます。
さらに、NECが提供している顔認証のユースケースを題材に、社会実装における課題を解決する取り組みを通じて「安全・安心・公平・効率で誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」に寄与する新たなイノベーションモデルの構築を目指します。
※:2022年9月12日プレスリリース|NECと大阪大学社会技術共創研究センター、顔認証技術を題材とした倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する共同研究を開始
https://jpn.nec.com/press/202209/20220912_01.html
共同研究のウェブページ:https://elsi.osaka-u.ac.jp/research/1717
ガイド「顔認証技術の適正利用に向けた10の視点」について
顔認証技術を活用した事業の社会受容性向上に向けた取り組みにおいて、留意すべき事項を整理した事業開発ガイドです。従来の事業開発は顧客の課題発見と深堀、課題解決のための提供価値を検討することが中心でした。本ガイドでは顧客と市場だけでなく、社会全体にスコープを広げて検討すべき観点を取り入れています。本ガイドは、事業開発の企画・開発・運用のフェーズごとのチェックリスト、リスクアセスメントに活用できます。
図. 事業開発で考慮すべき観点
<10の視点>
視点1.顔認証技術を使う必要性があるか。
視点2.取得するパーソナルデータは必要最小限であるか。
視点3.取得するパーソナルデータの処理プロセスをプロバイダー事業者、サービス事業者およびステークホルダーが把握しているか。
視点4.サービスの精度や生じるかもしれない偏り(バイアス)を把握しているか。
視点5.顔認証が誤った場合に利用者に大きな不利益が生じないように配慮されているか。
視点6.顔認証技術を使えない人/使いたくない人を公平に扱う仕組みになっているか。
視点7.利用者本人が納得してサービスを利用していると確信できるか。
視点8.顔認証および他サービスとの連携により、意図しない影響が生じないか検討されたか。
視点9.利用者および社会へのリスクと対応に関して、プロバイダー事業者とサービス事業者との対話が適切になされているか。
視点10.運用開始後の事後検証が想定されているか。そのような仕組みがあるか。
リスクアセスメントフレームワーク」について
ELSIの観点を取り入れたリスクアセスメントの枠組みです。プライバシー影響評価のリスクアセスメント手法としても活用可能です。これまでは扱いが難しかった人権・プライバシーやレピュテーションに関連するリスクについて、適切なアセスメントを行えるようになります。
図. リスクアセスメントフレームワークの特徴
図. リスクアセスメントのリスクマップ
大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)について
大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)は、2020年4月に全学組織の1つとして大阪大学の中に設立されたセンターで、新規科学技術に係るELSIやガバナンスのあり方などを総合的に研究するとともに、研究開発の実践の支援を通じた研究活動を展開している。
関連記事
過去に例の少ない産学共創のELSI共同研究
大阪大学とNECで顔認証の新ビジネス創出と社会実装を目指す
https://wisdom.nec.com/ja/feature/biometrics/2024020101/index.html