アルコール低濃度域における脳機能変化を発見
道交法下限域の呼気アルコール濃度でも、運動の抑制に関わる脳活動が変化することが明らかに
研究成果のポイント
体内アルコール低濃度時においても、運動抑制に関する反応時間の延長と筋電図・脳活動の変化を引き起こしました。このことは、飲酒運転になるかならないか程度の呼気アルコール濃度でも、衝動的な行動を防ぐ認知プロセス、つまり衝突や轢過の回避に影響を与えることを示しました。
概要
札幌医科大学医学部神経科学講座・篠崎助教および大阪大学大学院医学系研究科法医学教室・松本博志教授らの研究グループは、健康な成人を対象に、低用量アルコール摂取による体内低濃度(呼気アルコール濃度0.15mg/L)で行動と脳活動に及ぼす影響を調査しました。ストップ・シグナル課題という、運動を突然に止めなければならない課題を行っている最中の脳活動について、機能的MRIと筋電図の同時計測を行いました。その結果、体内低濃度であっても、反応時間の延長や筋電図の変化とともに、右下前頭皮質と呼ばれる運動抑制に関与する脳部位の活動が増加することを発見しました。道交法での酒気帯び運転は、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上と定められています。これらから、飲酒運転になるかならないか程度の呼気アルコール濃度でも抑制制御、たとえばブレーキを踏むことやハンドルを切る等の回避行動を行うときの脳活動が変化することを示しました。
図. 運動の抑制に関わる脳活動の変化
抑制制御に失敗すると、低用量アルコール摂取でも大脳の右半球において脳活動が増加しました(Shinozaki J, Matsumoto H, Saito H, Murahara T, Nagahama H, Sakurai Y, Nagamine T. 2024. Low blood concentration of alcohol enhances activity related to stopping failure in the right inferior frontal cortex. Cereb Cortex. 34(3))。
研究の背景
アルコールは人間の機能に多様な影響を与えます。これまでの飲酒に関する研究では、高用量アルコール摂取が注意力の減少や反応時間の延長などとともに、関連する脳活動に変化をもたらすことが示されてきました。また、飲酒運転の厳罰化で事故数は激減する一方で、飲酒した翌朝に重大な事故を起こすことがあります。そこで今回、低用量のアルコール摂取で、ヒトの行動と脳機能に影響を与えるとの仮説のもと研究を行いました。
研究の意義、今後への期待
本研究は、飲酒運転の法的規制ぎりぎりの体内アルコール濃度でも行動と脳活動に影響を及ぼすことを明らかにしました。この知見は、アルコール摂取に関する法律やガイドラインの検証に貢献するとともに、アルコールと生体の関係に関する生理学に新たな知見を提供するものです。今後、より現実的な運転環境やシミュレーション設定での研究を通じて、体内低濃度域のアルコールが、日常生活や車の運転に対してどのように影響を与えるか明らかになることが期待されます。
特記事項
<論文発表の概要>
研究論文名:Low blood concentration of alcohol enhances activity related to stopping failure in the right inferior frontal cortex(低濃度アルコールは右下前頭皮質において停止失敗に関する活動を亢進させる)
著者:篠崎淳(札幌医科大学)、松本博志(大阪大学)、齊藤秀和(札幌医科大学)、村原貴史(潤和会記念病院)、長濱宏史(札幌医科大学)、櫻井佑樹(札幌医科大学)、長峯隆(札幌医科大学)
公表雑誌:Cerebral Cortex(国際科学誌)
公表日:2024年3月9日(オンライン)
本研究はJSPS科研費 JP24700264, JP26870465, JP17K00207, JP23659369, JP15K21731 の助成を受けたものです。