皮膚筋炎の致死的間質性肺炎の治療標的候補はインターロイキンー6である

皮膚筋炎の致死的間質性肺炎の治療標的候補はインターロイキンー6である

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎の新規モデルマウスの解析

2024-4-11生命科学・医学系
医学系研究科教授藤本 学

研究成果のポイント

  • 特徴的な皮膚症状と筋炎・筋力低下を来す皮膚筋炎は、膠原病の一つであり、中でも抗MDA5抗体陽性の患者さんは、時に間質性肺炎が死亡につながることがある重篤な疾患です。本研究では、世界ではじめて本疾患に適合する新規モデルマウスを確立しました。
  • 本モデルマウスを解析し、発症にはI型インターフェロンが必須である一方、間質性肺炎の成立にはインターロイキン‐6が主要な働きをしており、適した治療標的となることを示す結果を得ています。
  • 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎に適したモデルマウスが確立され、病態が詳細に解明されることで、さらに特異的な新規治療法開発への応用が期待できます。

概要

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の沖山奈緒子教授や、同非常勤講師かつ東京女子医科大学膠原病リウマチ内科学分野の市村裕輝助教の研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室の藤本学教授、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの竹田潔教授・香山尚子准教授、筑波大学医学医療系皮膚科学の乃村俊史教授との共同研究で、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者さんの間質性肺炎を模した新規モデルマウスを確立し、この疾患が自己反応性CD4 ヘルパーT細胞で引き起こされていること、間質性肺炎成立には炎症性サイトカインのインターロイキン‐6が重要な働きをしており、特異的治療標的になりうることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米国科学アカデミー機関誌である国際科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)に、2024年4月8日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

膠原病の一つである皮膚筋炎では、特徴的な皮疹と筋力低下を来す筋炎が主要な症状ですが、特異的自己抗体(筋炎特異的自己抗体)がいくつか同定されており、その筋炎特異的自己抗体ごとに臨床症状の特徴があることが分かってきて、診療方針を考えるうえで役立っています。例えば、抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎の成人患者さんでは多くの方で悪性腫瘍が見付かり、癌治療と並行して行う皮膚筋炎の治療法選定が難しくなっていますが、我々の研究グループでは、この抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎を模した筋炎モデルマウスを確立し、その解析を進めています(Okiyama N, Ichimura Y, et al. Ann Rheum Dis. 2021)。このTIF1γ誘導筋炎マウスモデルでは、CD8キラーT細胞が筋炎を引き起こしており、抗TIF1γ抗体そのものには病原性がないことが示されています。

一方で、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者さんでは、内出血を伴う特徴的な皮疹を呈するため、専門医にとって診断は比較的容易であり、また、筋炎はないか軽度である一方、間質性肺炎を合併します。この間質性肺炎は、時に急速進行性で致死的である点が臨床的課題になっていますが、肺という臓器の特性上もあり、病態生理解明は十分に行われておらず、高用量ステロイド投与などの非特異的免疫抑制療法を集学的に行うことで救命率改善の努力が図られているところにとどまっています。MDA5は本来、細胞内ウイルスセンサーであり、2本鎖RNAウイルスを認識して自然免疫応答を誘導するための分子であるため、ウイルス性上気道感染症が発症契機になることが想定されていますが、多くの膠原病と同様に、発症機構は証明されていません。末梢血検体解析などより、I型インターフェロン(IFN)発現が上昇していることは示唆されており、また、抗MDA5抗体抗体価や炎症を示す血清フェリチン値が病勢に応じて上昇することが言われています。しかし、病態を形成する免疫機構の全貌や、抗MDA5抗体そのものに病原性があるのかなどは分かっておらず、その解明の一助となるモデル動物も確立していませんでした。

研究成果の概要

本研究では、マウスMDA5全長タンパクを、構造や翻訳後修飾も哺乳類に近い形で精製し、免疫賦活剤と共にマウスへ投与して免疫を惹起することで、マウスMDA5への自己免疫が誘導しました。さらに、ウイルス感染症を模した免疫賦活剤を経鼻投与すると、1日で回復する肺傷害が惹起できますが、MDA5に対する自己免疫が成立しているマウスでは、肺間質での炎症が延長し、線維化を伴って、間質性肺炎を呈してくることを見出しました(図1)。

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この間質性肺炎を起こしたマウスの傍気管支領域には特にCD4ヘルパーT細胞が浸潤しており、さらに、間質性肺炎を起こしたマウスのCD4ヘルパーT細胞を健康なマウスに移入すると肺炎を再現することが出来ますが、CD8キラーT細胞や免疫グロブリンIgGの移入では再現できないということから、本疾患モデルは、CD4ヘルパーT細胞が病原性細胞である、自己免疫疾患であることが証明されました。実際に、CD4除去抗体治療でこの間質性肺炎発症が抑えられること、一方で、抗体を産生するB細胞系列を遺伝的に欠損しているマウスではこの間質性肺炎を発症出来る、つまりB細胞はこの間質性肺炎発症に必須ではないことも見出しています。

さらに、間質性肺炎症惹起初期と完成時との肺組織を解析し、初期にはI型IFN反応性蛋白Mx1発現が上昇していて、I型IFN受容体を遺伝的に欠損しているマウスではこの肺炎を誘導できないものの、インターロイキン-6(IL-6)の発現は間質性肺炎成立まで一貫して上昇が顕著であること(図2)、さらにはIL-6標的療法である抗IL-6受容体抗体療法が間質性肺炎を治療できることを見出しています(表1)。

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これらの結果は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎では、発症初期にはウイルス感染症や免疫賦活剤経鼻投与によって引き起こされる、I型IFN発現など自然免疫活性化が間質性肺炎の「土壌」として重要であり、MDA5特異的CD4ヘルパーT細胞が間質性肺炎の「種」として病態を形成しており、さらに線維化を伴う間質性肺炎成立にはIL-6が必要で、このIL-6は本疾患における治療標的のひとつであることを示唆されています(図3)。

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研究成果の意義

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の患者さんでは、間質性肺炎が命を脅かします。本モデルマウスが確立したことによって、肺局所を含めた詳細な免疫機構を解析することが可能になり、疾患に最適な新規治療ストラテジーの開発に結び付くことが期待されます。

特記事項

【論文情報】
掲載誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 論文タイトル: Autoimmunity against melanoma differentiation-associated gene 5 induces interstitial lung disease mimicking dermatomyositis in mice
DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2313070121

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

免疫賦活剤

成体における非特異的な自然免疫活性化を誘導する物質。本研究では、MDA5抗原を免疫するときに完全フロイントアジュバントと百日咳毒素を用い、急性肺炎症を起こすためには、2本鎖RNAウイルスを模したPoly (I:C)の経鼻投与を用いている。