SDOHは世界保健機構（WHO：World Health Organization）によって「人々が生まれ、成長し、生活し、働き、年齢を重ねる環境で健康上の結果に影響を与える医学的でない要因」と定義され、提唱されています。人々の健康を考える上で、予防可能な死亡のうち医学的な要因はわずかとされ、残りの大半がヘルスケアや社会経済学的な要素、周囲の環境などのSDOHの要素が占めると言われています。すなわち循環器病においてもSDOHは発症予防・重症化予防に大きく関わっていると考えられています。

例えば、医療機関から遠方で生活している人と、医療機関の近くで生活している人では、心筋梗塞や脳梗塞を発症してから医療機関に辿り着くまでの時間が異なり、結果として健康に格差が生じると考えられています。これらの不平等な格差をうみだす SDOHは大きく「社会的経済状態・就労問題」「教育レベル・リテラシー」「ヘルスケアのアクセスと質」「近隣・環境問題」「コミュニティからのソーシャルサポート」の5つのドメインに大別されています。

本論文では、既報の循環器病に関連するSDOHの評価ツールがどのように展開されているのか、また、SDOHの各項目の循環器病の転帰との関連性を明らかにしています。近年、循環器病のSDOHの評価ツールへの関心の高まりが2018年頃から急速に見られ、大半の研究は米国を中心としており、アジア各国からの報告は十分ではないことが明らかになりました。さらに、様々な複合的要因の相互作用とフィードバックループから成立するSDOHに関しては、これらすべてを包括的かつ同時に評価するツールが現状ないことも明らかになりました。

本論文により、Healthy People 2030で定義される5つのSDOHの主項目をそれぞれ単一および複数のドメインに渡って評価するツールが同定されました。対象の文献は2018年から飛躍的に増加しており、心血管疾患分野における近年のSDOHの関心の高まりとその評価ツールの実態が明らかになりました。

SDOHのスクリーニング/アセスメントツールに関するレビューは国内外でも報告はなく、循環器領域でのSDOHの研究推進に貢献するものと考えます。またSDOHの枠組みは地域特異性が高いため、国や地域に応じた適切な適用と調整を行う必要があり、今後国内を含め、さらなる研究の展開が期待されます。本研究の結果を踏まえ、循環器病とSDOHとの関連に対する理解を深めるとともに、効果的な介入策の開発と実装を促進するために、さらなる臨床研究と社会的実施プログラムが今後より一層必要になります。