AIによる空調の自動運転で30%以上の省エネを実現
―快適性と省エネを両立する空調の自動運転技術を大学キャンパスで実証―
研究成果のポイント
- AIによる空調の自動運転技術を開発し、大阪大学キャンパスでの実証実験において暖房で快適室温を維持しつつ30%以上の省エネに成功
- 冬のオフィスビルでは照明やパソコン、在室者の発熱により暖房を停止しても快適室温が維持されることが多くあるが、その見極めが困難なため空調の運転に活用できておらず多くの無駄があった
- 昨今の電気代高騰を受けた節電に加え、電力需要削減によるカーボンニュートラルの実現に向けた実用化に期待
概要
大阪大学 大学院情報科学研究科の谷口一徹准教授らの研究グループは、ダイキン工業と共同で人工知能(AI)による空調の自動運転技術を開発し、大学キャンパスでの実証実験において暖房の30%以上の省エネを達成しました。将来的には既存のビルでも大幅な省エネの実現が期待できます。
近年のオフィスビルは建物の断熱性能の向上や室内のパソコンや照明などの発熱により暖房を停止しても快適室温が維持される場合があることが知られています。しかし暖房を停止できるかの見極めが極めて困難で、多くの無駄がありました。谷口准教授らが開発した自動運転技術は、部屋の暖まりやすさや冷めやすさをAIで学習し、暖房が不要な場合は積極的に運転を停止することで、快適性を維持しつつ大幅な省エネを実現します。
開発された空調の自動運転技術は大阪大学の情報系の研究室で実証実験が行われ、冬の暖房運転において快適性を維持しつつ30%以上の省エネを達成しました。今回実験が行われた研究室では多数のパソコンが常時稼働しており、典型的なオフィスと同様の環境です。空調の自動運転技術は安価な計算機で実装可能で、既設の空調機のリモコンを遠隔操作します。そのため、既存のビルにも比較的容易に導入が可能です。昨今の電気代高騰を受けた節電に限らず、カーボンニュートラルの実現に向けた実用化が期待されます。
本研究成果は、9月25日 (月)にApplied Energy誌にて発表されました。
図1 AIによる空調の自動運転技術
研究の背景
近年、カーボンニュートラルの実現に向けて、エネルギー消費量の削減が強く求められています。特に空調は建物の消費エネルギーの約4割を占めることが知られており、快適性と省エネを両立させる空調のエネルギーマネジメント※1が注目されています。
近年のオフィスビルは断熱性能の向上により高い省エネ効果が得られています。加えて冬はパソコンや照明などの室内発熱により暖房負荷が非常に小さく、暖房を停止しても快適室温が維持される場合があることが知られています。しかし、暖房を停止できるか否かは部屋の使われ方や気象条件により日々異なるため、その見極めは非常に困難でした。そのため、低い暖房負荷の状態で効率の悪い状態での運転を続けるケースがあり、多くの無駄がありました。
研究の内容
谷口准教授らの研究グループでは、部屋の暖まりやすさや冷めやすさをAIで学習し、15分おきに最適な空調の設定温度を求める自動運転技術(図1)を開発しました。この自動運転技術は室温や空調機の運転データ、気象情報のデータを集約してその関係をAIで学習し、部屋の暖まりやすさや冷めやすさを考慮して正確に室温変化を予測します。そして、無駄な暖房にならないよう積極的に停止することで、快適性を維持しつつ大幅な省エネを実現します。
空調の自動運転技術は大阪大学 大学院情報科学研究科の研究室の空調に取り付けて、2022年12月~翌年3月にかけてさまざまな条件で実証実験が行われました。2022年12月1日と12月8日に実施された実証実験では朝7時から夜6時まで室温を25度に維持することを目標に手動でON/OFF操作をした場合(12月1日実施)と提案手法による自動運転(12月8日実施)を比較しました(図2)。その結果、提案手法は目標温度を維持しつつ、運転時間を大幅に削減して消費電力量を6kWh削減し約33%の省エネを達成しました。同様の実験は別日にも行い、平均3割程度の省エネ効果を確認しました。
手動操作(12/1実施):7時に手動で空調を起動して18時に手動で空調を停止した場合(総消費電力量:18.3kWh)
提案手法(12/8実施):7時から18時の間に設定温度を維持するように自動運転をした場合(総消費電力量:12.3kWh)
→10:45に空調を停止しても室温は下がらず維持されている(空調が不要な時間帯を判別して空調を停止)
図2 情報科学研究科A402室での実験結果:提案手法は手動操作に比べ暖房運転の積算消費電力量を6.0kWh削減
本研究成果が社会に与える影響
今回開発した空調の自動運転技術により、オフィスビルの暖房の大幅な省エネが期待できます。特に、既存の空調機に比較的容易に導入可能なため、実用化や普及へのハードルも低いのが大きな特徴です。このような技術がさまざまなオフィスビルに設置されることで2050年のカーボンニュートラルの実現への大きな貢献が期待されます。
近年、超スマート社会の実現に向けて、AIやIoTを活用したサイバーフィジカルシステム※2に関する研究が盛んに行われています。今回開発された空調の自動運転技術はサイバーフィジカルシステムの一種で、その社会実装の成功例と言えます。今後の超スマート社会の実現に向けて更なる発展が期待されます。
特記事項
本研究成果は、9月25日 (月)にApplied Energy誌で発表されました。
タイトル:“Data-driven Online Energy Management Framework for HVAC Systems: an Experimental Study”
著者名:Dafang Zhao, Daichi Watari, Yuki Ozawa, Ittetsu Taniguchi, Toshihiro Suzuki, Yoshiyuki Shimoda, Takao Onoye
なお、本研究は、JSPS科研費22H03697、21J10312の助成を受けたものです。また、大阪大学 大学院工学研究科 下田吉之教授、大阪大学 サステイナブルキャンパスオフィス 鈴木智博准教授の協力を得て行われました。
SDGs目標
参考URL
谷口 一徹 准教授
研究者総覧URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/35a6c3856b2f188d.html
用語説明
- エネルギーマネジメント
建物内のエネルギー使用を一元管理するサービス。建物内の環境(室温や湿度)や使用者の状況に応じて、最適な機器運転を実現することで、省エネと快適な環境を両立させる。
- サイバーフィジカルシステム
物理世界 (実世界) とサイバー世界を密に連携させて新たな価値を生み出すシステム。物理世界のデータをIoTなどで収集してサイバー世界で分析/最適化し、その結果を物理世界に反映させる一連の流れを繰り返し行い新たな価値を生み出すシステム。さまざまな社会課題の解決にその活用が期待されている。