新鉱物「北海道石」を北海道の2産地から発見

新鉱物「北海道石」を北海道の2産地から発見

2023-6-14自然科学系
総合学術博物館招へい研究員石橋 隆

研究成果のポイント

  • 新鉱物「北海道石」を発見した。これは、国際機関により承認・登録された
  • 北海道石は有機化合物の鉱物であり、地層中の生物の化石が火山の地熱を受けてできる
  • 北海道石を含むオパールは、紫外線照射により美しい蛍光を発する
  • 北海道石は、石油生成の謎を解く鍵になる情報を含んでいる

概要

北海道河東郡鹿追町および北海道上川郡愛別町の山林より、新鉱物「北海道石(ほっかいどうせき)、 学名:hokkaidoite(ホッカイドウアイト)」を発見しました。この鉱物は令和5年1月に国際鉱物学連合で承認・登録されました。北海道石は、炭素および水素のみよりなる有機化合物「ベンゾ[ghi]ペリレン」の天然結晶であり、紫外線を照射すると美しく蛍光する希少な鉱物です。現在、産地は保護のため一般公開はしておりませんが、登録記載のため採取された標本等を、とかち鹿追ジオパークビジターセンター、北海道大学総合博物館、環境省・上士幌町ひがし大雪自然館、北海道博物館で展示予定です。

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図. 北海道石 黄緑色(蛍光)部分

研究の概要

公益財団法人 相模中央化学研究所 田中陵二 主任研究員(兼務:東海大学客員教授)、日本地学研究会 萩原昭人、大阪大学総合学術博物館 石橋 隆 招へい研究員(資料部所属)、九州大学大学院理学府 井上裕貴の研究グループは、北海道河東郡鹿追町および上川郡愛別町の山林より、世界初となる新鉱物「北海道石」を見出し、令和5年1月に国際鉱物学連合において命名承認・登録を受けました (登録番号IMA2022-104)。これはまた、日本における初めての多環芳香族炭化水素鉱物の例でもあります。北海道石は、鹿追町では火山中腹にかつて存在した古温泉により形成されたオパール中に含まれており、愛別町では鉱山跡の石英(二酸化ケイ素)よりなる鉱脈の空隙に淡黄色板状の結晶として産します。特に鹿追町においては、オパールの中に微細な淡黄色樹枝状結晶として多量に見られ、紫外線照射により美しい黄色~黄緑色蛍光を発します。北海道石は、炭素および水素のみよりなる有機化合物「ベンゾ[ghi]ペリレン」の天然結晶です。これは、コロネンと呼ばれる有機化合物の天然の前駆物質であると考えられ、北海道石の産出は従来詳細な情報がなかったコロネンの生成メカニズムや純粋になるプロセスの有力な情報を与えるものです。本研究の成果は、5月26日に開催される日本地球惑星科学連合2023年大会において口頭講演およびポスター発表されます。

現在、北海道石の産地は保護のため一般公開はしておりませんが、記載のため採取された北海道石および関連鉱物の標本等を、とかち鹿追ジオパークビジターセンター、北海道大学総合博物館、および環境省・上士幌町 ひがし大雪自然館で展示される予定です。なお、展示する標本(試料)は、土地所有者の事前了解や各種法令に基づく許可を得た上で採取されたものです。

詳細な説明

多環芳香族炭化水素(PAH)はその特異な電子的性質から、光機能性材料をはじめとして様々な材料分野で利用される有機化合物です。これは、有機化合物の中では高い熱安定性を有し、燃焼ススなどにも少量見いだされます。そのうち、コロネンと呼ばれる、芳香環が7つ連結した物質は天然にも存在し、高温でも最も安定なPAHとして、地質年代上の破局的高温イベントなどの証左にもなっています。コロネンは原油中にもごく微量含まれますが、ときおり純粋な結晶として天然に産出することがあり、これはカルパチア石という名称で知られる有機化合物の鉱物です。しかし、なぜコロネンなどのPAHが地質学的作用で純粋な結晶になるのかは、現在まではっきりとした証拠がありませんでした。一方、北海道河東郡鹿追町では、火山の中腹にオパールを産し、これは紫外線照射により蛍光を強く発することが2014年頃より知られていました。しかし、このオパールの蛍光の原因は、国内外で検討されたものの、全く不明でありました。

 我々の研究グループは最近、日本のプレート沈み込み帯での炭素元素の循環過程を研究しています。この研究において、北海道上川郡愛別町にて、紫外線照射により強い蛍光を発する鉱物結晶を複数種見いだしました。また、ほぼ同時に鹿追町の蛍光性オパール中の蛍光原因物質も併せて検討を行いました。その結果、これらのひとつは日本新産鉱物であるカルパチア石であり、さらに、現在までに報告例のなかったベンゾ[ghi]ペリレンを構成成分とする鉱物が多数含まれていることをつきとめました。後者については、記載に必要な構造や化学組成などのデータを収集し、新鉱物「北海道石 (hokkaidoite)」として国際鉱物連合に提出し、令和5年1月に承認・登録されました(登録番号IMA2022-104)。二産地のうち、記載に十分なデータが取得できた鹿追町の産地を主模式産地とし、愛別町の産地は副模式産地として設定しました。両産地より得られた標本のうち、データ取得に用いたものは主模式標本および副模式標本として国立科学博物館に収蔵されています。

 北海道石の化学組成はコロネンに対し炭素原子が2つ少ないベンゾ[ghi]ペリレンであり、地質学的なコロネンの生成は、このベンゾ[ghi]ペリレンを経由していることが推測されます。このようなコロネン分子の生成メカニズムは、従来は理論計算によって予測されていましたが、本研究により天然からの多量の産出をもってそれを裏付けることができました。

石油や石炭など、地質学的成因による有機化合物は、地下深部や海底に堆積した古生物の遺骸が高い圧力や温度により変質して生じるものと推測されています。北海道石においても、同様に地下深部に眠る古生物遺骸への、火山活動による熱または高温の水(熱水)の作用により生じた熱安定性分子であることが予想されます。熱水による地層中の有機物の変質と輸送は、熱水性石油という石油の生成において重要なものです。本研究における北海道石を代表とする有機鉱物は、熱水による変質が極端に進行した熱水性石油の一種とみなすことができ、この機構の解明は現在においても謎が多い石油生成機構の一つの解としての意義があります。

また、鹿追町の産地では、大雪山国立公園の火山中腹にかつて自噴してした古温泉により沈澱形成した珪華中に大小のオパール脈がみられ、ここに北海道石やカルパチア石が含まれています。この脈ははっきりとした層状を示し、層によって包有される有機化合物の種類が全く異なります。これは、熱水によりベンゾ[ghi]ペリレンやコロネンなどの有機成分が運ばれ、特定の成分から順に結晶化を起こすという分別結晶化現象が起こっていることを示しています。

このオパールは、肉眼でもオレンジ色~ベージュ色の層状を示しますが、紫外線照射により青~黄色~オレンジなどの色とりどりの蛍光を発する、世界でも類を見ない美しく貴重なものです。緻密な部分は、研磨して宝飾品にすることも十分可能です。北海道石やカルパチア石などの有機鉱物は、黄色~黄緑色の蛍光を発する層に含まれており、このオパールの美しい蛍光を生み出す鍵になる成分であることがわかりました。このオパール産地は戦前より大雪山国立公園内であるにもかかわらず、最近は盗掘されたおそれのある品がインターネットなどで多数売買されている状況です。この新鉱物「北海道石」を含むオパールとその産地について、地質学的・鉱物学的な重要性の啓発も併せ、後世に受け継げるよう保全することが喫緊の課題となっています。

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図1. コロネンの分子構造(左:全原子の配列構造、右:有機化学的略記構造)

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図2. ベンゾ[ghi]ペリレンの分子構造(左:全原子の配列構造、右:有機化学的略記構造)

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写真1. 北海道石を含むオパール(鹿追町産.紫外線照射下、黄色く蛍光する部分が北海道石).©田中陵二
https://www.flickr.com/photos/fluor_doublet/52418859202/sizes/4k/

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写真2. 鹿追町産地における北海道石を含むオパールの産状(横幅 60 cm.紫外線照射下.黄色~黄緑色蛍光を示す部分が北海道石を含むオパール層).©田中陵二
https://www.flickr.com/photos/fluor_doublet/52383650567/sizes/4k/

特記事項

【学会情報】 発表学会名:日本地球惑星科学連合2023年大会
発表タイトル:北海道石.新規な多環芳香族炭化水素鉱物とその生成メカニズム(Hokkaidoite. New Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Mineral and its Formation Mechanisms)
著者:田中 陵二1,2、萩原 昭人、石橋 隆3、井上 裕貴4 (1. 相模中央化学研究所、2. 東海大学理学部化学科、3. 大阪大学総合学術博物館、4. 九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻)
講演番号:SCG48-11 (2023年5月26日(金))

【学会情報】 発表学会名:日本地球惑星科学連合2023年大会
発表タイトル:北海道で産出した多環芳香族炭化水素鉱物のキャラクタリゼーションとその多様性(Characterization of Various Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Minerals Found in Hokkaido)
著者:井上 裕貴1、田中 陵二2、石橋 隆3、萩原 昭人(1. 九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.相模中央化学研究所、3. 大阪大学総合学術博物館)
講演番号:SCG48-P01 (2023年5月26日(金))

用語説明

多環芳香族炭化水素

炭素6個の六角形のベンゼン環(芳香環)骨格が複数個、六角形の辺を共有するように連結(縮合)し、周囲に水素が結合した炭化水素化合物。環が2個のナフタレン、3つのアントラセンとフェナントレンなどは、工業的に生産され身近にもある。環数の多いものは主に有機化合物の燃焼により生じ、分解されることなく環境中にとどまるため、環境汚染物質としても知られる。

コロネン

組成式 C24H12の、芳香環7つよりなる多環芳香族炭化水素化合物(図1)。黄色針状結晶になり、酸素不在下では1000℃の高温にも耐える高い熱安定性をもつ。天然においては、約2億5,100万年前の古生代―中生代境界(P-T境界)の地層中に含まれており、その時点で地球レベルでの大規模な火災が起こったことの証拠にもなっている。

カルパチア石

天然における、コロネンを構成成分とする鉱物。1955年にトランスカルパチア(ウクライナ)で初めて発見され、その後ロシアやカリフォルニア(アメリカ合衆国)等で相次いで産出が報告された。黄色針状結晶であり、紫外線照射により強い青色~黄緑色蛍光を示す。日本で発見されたのは、本研究が初めてである。

オパール

結晶になっていない(非晶質)、水を含んだ二酸化ケイ素の鉱物。美しいものは研磨加工され、宝石として珍重される。構造色を示すノーブルオパールと、そうでないコモンオパールとに分類される。

ベンゾ[ghi]ペリレン

組成式 C22H12の、芳香環6つよりなる多環芳香族炭化水素化合物(図2)。レモン黄色の板状結晶であり、クロロホルムなどの有機溶剤に溶ける。天然においては、コロネンに伴って微量に産するほか、石油等にも痕跡量含まれることがある。本研究で発見した北海道石は、これを構成成分とした天然の結晶である。

国際鉱物学連合

鉱物学の発展と鉱物名の統一を目的とする、38か国の学術団体により構成される国際組織。新鉱物の発見時においては、新鉱物・命名分類委員会によりデータが検討され、委員の投票により新鉱物とその命名の承認・登録が行われる。