最小フェリ磁性に対する近藤効果を理論的に解明

最小フェリ磁性に対する近藤効果を理論的に解明

2022-5-31自然科学系
理学研究科徳田将志

研究成果のポイント

  • 最小フェリ磁性と近藤効果の関係に着目
  • 最新の量子デバイスを用いて温度制御等による複数の量子もつれ状態実現を予測
  • 近藤効果下での最小フェリ磁性体を通した電気伝導性の抑制を発見

概要

大阪公立大学大学院理学研究科 西川 裕規 講師と大阪大学大学院理学研究科 徳田 将志 大学院生(博士後期課程3年/日本学術振興会特別研究員)は、最小フェリ磁性に対する近藤効果に着目し、理論的な解明を試みました。その結果、温度等のパラメータに依存して、複数の「量子もつれ状態」を経由した近藤効果が発生する事を明らかにしました。また通常、磁性体を通した電気伝導は近藤効果により増幅しますが、最小フェリ磁性体の場合は抑制されることを発見しました。

本研究での最小フェリ磁性状態は、最新の量子デバイス(量子ドット)を用いて実際に構築が可能と考えられ、今後は実験的研究による再現やさらなる研究の進捗が期待できます。

本研究成果は、2022年5月12日、米国物理学会誌「Physical Review B」に掲載されました。

研究の背景

鉄やレアアースといった磁性原子を含む化合物には、高性能の磁石や高温で超伝導になるものがあり、次世代の産業技術に繋がる可能性があります。それゆえ、磁性原子団の持つ磁性と、それを取り巻く自由電子との競合による物理(近藤効果)を研究することは、基礎的研究に留まらず応用面においても重要です。近年、ナノテクノロジーの発展により量子ドットと呼ばれる人工的な磁性原子に相当する系を実際に作製することが可能となり、磁性に対する近藤効果についても、より複雑な内容を理論および実験の両方で検証可能となりました。

研究の内容

本研究では、T字型の格子状に配置した4つの量子ドットで発現する最小のフェリ磁性状態に着目しました(図1)。これにリード線を接続すると、リード線から来る自由電子の「磁石としての性質」が近藤効果によってフェリ磁性を打消そうとします。また、近藤効果が起こると通常は電気伝導度が増幅します。本研究では、最小フェリ磁性状態に近藤効果が起こるとどうなるかを理論的に研究しました。

磁性の打ち消し合いの度合いはエントロピーで表すことができ、この値がゼロになると磁性が打ち消された近藤状態を意味します。エントロピーの計算結果を示す図2の階段状のグラフのステップ部分では、イラスト内の青色で囲んだ部分が、実効的に量子もつれ状態にあることを示しています。これらのことから、最小フェリ磁性状態は温度とドット間の結合度合に依存して、複数の量子もつれ状態を経ながら近藤状態になることが確認できました。その上、近藤状態にも係わらず電気伝導度は抑制されることがわかりました。

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図1. T字型格子点構造とリード線からなる系。

20220531_1_2.png

図2. エントロピーの計算結果。色の異なるグラフはドット2と3の結合度合を変更したもの。
t3/tが小さいほどドット2と3は実質的に離れていることを意味する。

期待される効果

本研究対象の最小フェリ磁性状態は実際に量子ドットで十分実現可能であるので、今後、本研究内容の実験的検証が期待できます。また本研究で見出した「最小フェリ磁性と近藤効果の競合による量子もつれ状態の段階的な組み変え過程」の今後の研究を通して、同じく量子もつれ状態を扱う量子情報理論分野等とのシナジー効果が期待できます。

特記事項

<掲載誌情報>
【発表雑誌】Physical Review B 105, 195120 (2022). (IF=4.036)
【論 文 名】Kondo effect in Lieb's minimal ferrimagnetic system on the T-shaped bipartite lattice
【著  者】Masashi Tokuda and Yunori Nishikawa
【掲載URL】https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.105.195120

<資金情報>
JSPS科研費 JP20J20229

SDGsの目標

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

フェリ磁性

応用上重要なフェライト等の持つ磁性状態。結晶中に逆方向の2つの磁化があり、互いの磁化の大きさが異なるため全体として磁化が存在する。

近藤効果

磁性原子を少数含む希薄磁性金属合金で、自由電子がその磁性と競合する効果。電気抵抗、磁性、超伝導など、物理学の分野で非常に重要な現象として知られている。

量子もつれ状態

互いに離れた系間に強い相関をもたらす量子力学に特徴的な状態。

エントロピー

状態の乱雑さを表す物理量。エントロピーが大きいほど、選べる状態の数が多い。