新型コロナ感染禍の当事者の声から社会現象を読み解く

さまざまな立場から見えた「異なる景色」をありのままに記録する

2021-3-23社会科学系

研究成果のポイント

  • 新型コロナ感染禍の当事者へのインタビューによって、感染禍という社会現象を読み解いた
  • 感染禍によって人と人のつながりが希薄化したことで、その重要性が明らかになった
  • 感染禍によって、日本の医療が決定的な資源不足状態にあることが明らかになった

概要

本インタビュー集は、今般の新型コロナウイルス感染禍にさまざまな立場で関わられた方々に、なるべくありのままにその経験をお話しいただいた語りの記録です。新型コロナウイルス感染症に関わる方々がなさった経験は一人一人異なります。それらの「異なる景色」を記述することが私たちの最大の目的ですが、それを未だ感染禍にある今のタイミングで、より多くの方々に読んでいただきたいと考えて、研究の成果を急ぎ取りまとめ、公開に至りました。

本研究成果は、2021年3月15日(月)(日本時間)に研究プロジェクトのウェブページで公開しました。

研究の背景

2020年1月に突如出来した新型コロナウイルス感染禍は、人間行動、そしてその総体としての社会構造を大きく変容させる可能性を孕んでいます。私たちの研究グループは、人間科学を標榜する研究者として、こうした緊急事態への人々の反応とその変化を把握することで、ポストCOVID-19社会の見通しをつけ、ウイルスとのある種の共生を目指して何をどのようになすべきかを探求することは喫緊の責務だと考えました。そこで、社会心理学・現象学・行動経済学の3つのアプローチによる学際的共同研究を企画し、構造化を行わずにご自身の経験について自由に語っていただくインタビューを行いました。

研究の手続きと結果

新型コロナウイルス感染禍にさまざまな立場で当事者として関わった方々(合計21名、そのうち本インタビュー集への収録・公開をお認めいただけたのは18名)に、主としてオンライン・インタビューでお話を伺いました。対象者の内訳は、感染経験者5名と、感染医療に何らかの形で従事している専門職16名です。感染経験者のご職業はもちろんのこと、医療従事者も医師(大学病院の各科医師、民間病院の感染症科医師、開業内科医)、看護師(病院、訪問)、保健所職員など多岐にわたる属性をお持ちです。

タイトルにあるとおり、本インタビューでは、関わる立場によって「異なる景色」を記述することが最大の目的でした。実際に新型コロナウイルスに感染された方でも、経験した症状によって全く異なる景色が見えており、医療従事者も、重症者の治療に当たっていた人たちと、中等症・軽症の患者の治療に当たっていた人たちで全く見えている景色が異なるからです。また、研究メンバー3名が感染禍を見る学問的視点も、社会心理学・現象学・行動経済学とそれぞれ異なります。3つの視点を交錯させることで、感染禍という現象の立体的な像を浮かび上がらせることを意図しました。以下、それぞれ多様な対象者の視点と研究者の視点が交錯するインタビューを重ねる中で、共通して浮かび上がってきた問題を2つご紹介します。

まず「人と人のつながりの希薄化」です。感染者が不幸にも亡くなる場面でも家族はそばにいることができない。あるいはそもそも入院患者に家族が面会することはできない。感染していなかったとしてもほとんどの高齢者施設で面接が制限された。あるいは誰かが重症になったとしても、家族もまた感染者あるいは濃厚接触者であるので、病院で十分な説明を行うこともできない。あるいは幼い子どもがいる家庭で母親が感染した場合、まだ言葉を解さない子どもであっても母親は隔離しないといけない、など様々な形で人と人とのつながりが断たれる場面が語られました。感染禍は、人と人とのつながりがいかに広範なものであり繊細なものであるかを、それが不可能になったことによって露わにしたと言えます。

もう一つは「日本の医療の決定的な資源不足」です。医療における資源、結局のところはマンパワーは、新型コロナウイルス感染症の拡大以前からすでに決定的に不足していました。感染の拡大にともなって急性期医療のひっ迫はすぐに他領域の医療資源をも圧迫することになり、保健所は感染症対策以外の業務をすべてストップしたとしても対応しきれなくなりました。あるいはもともと資源が不足していた在宅医療でも、感染症の患者が出現するに先立って対応が難しくなっていきました。こうした医療資源のひっ迫は、本インタビュー実施後(いわゆる「第3波」)に大きな帰結を生んでいます。それは、入院の可否、あるいは入院時に延命治療をしないという了解をとる、あるいは人工呼吸器を使用できないことを前提に搬送するといった、これまでにはなかった水準でのトリアージ(医療・治療の優先度の選択)が行われたことです。

いずれの問題も、感染禍という未曾有の事態が引き起こしたものではありますが、決して一過性のものではありません。今後、語りの内容をより綿密に分析し、また、この共同研究で平行して実施している、社会心理学・行動経済学の立場からのパネル調査や国際比較調査等で得られた結果などとも対応づけながら、「当たり前の生活」を営むために何をすべきか、継続的に情報を発信していきたいと考えています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本インタビューを通して見た「景色」は、マスメディア報道等によって語られるそれとはかなり違うものだった、というのが私たちの実感です。これを広く共有することで、より多くの方にそれぞれの「異なる景色」を追体験していただくことが、今の状況をより正確に理解することにつながると考えています。

特記事項

本研究成果は、2021年3月15日(月)(日本時間)に研究プロジェクトのウェブページで公開しました。

https://sites.google.com/view/hsp2020/InterviewTranscripts
三浦麻子・村上靖彦・平井啓(編)
『異なる景色:新型コロナウイルス感染禍に際する感染経験者・医療従事者へのインタビュー記録』
なお、本インタビューの実施及び刊行は、令和2年度大阪大学大学院人間科学研究科ヒューマン・サイエンス・プロジェクト分野間共同研究「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍における人間科学:実態調査と介入研究による探求」の一環として行われました。

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