2019年4月17日

研究のポイント

・セルロースの基礎光学特性である固有複屈折の値を解明しました。
・これまで推定されていたセルロースの固有複屈折値は、試料や測定方法によって大きく異なっていましたが、試料と手法を抜本的に改良することで解析に成功しました。
・液晶ディスプレイなどオプトエレクトロニクスのコントラスト向上や画面の虹ムラ・光漏れを低減する光学補償部材として、セルロースの高度利用が期待されます。

概要

大阪大学産業科学研究所の上谷幸治郎助教、古賀大尚准教授、能木雅也教授の研究グループは、身近な天然高分子セルロースの基礎的な光学性能である固有複屈折※1を解明しました。

これまで実験的あるいは計算的に予測されたセルロースの固有複屈折は、使用する試料や方法によって大幅に異なっており、具体的解明に至っていませんでした。

今回、上谷助教らの研究グループは、最適な試料並びに測定手法を精査適用することで、セルロース分子鎖の持つ固有複屈折が従来予想より高いことを解明しました。

本成果により、セルロースナノファイバーから作る紙材料「ナノペーパー」を「光を制御する紙」として用いることが可能となり、低い熱膨張性、高い熱伝導性、フレキシブル性を併せ持つ高機能な光学補償部材※2として活用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「ACS Macro Letters」に、2月22日(金)付で公開され、同誌の表紙に採択されました。

図1 セルロースの配向性試料によって光の位相差が制御できる

研究の背景

木材などから得られるセルロースナノファイバーは、成膜すると柔軟で高強度かつ低熱膨張性の「透明な紙」になることが知られ、フレキシブル・ディスプレイの透明基材など光学用途への応用が期待されています。しかし、セルロースが持つ基礎的な光学制御性能「固有複屈折」が明確でなく、位相差を制御する本格的な光学部材としての活用に対してボトルネックになっていました。

これまで、セルロースの固有複屈折値は実験や計算から予測されていましたが、用いるセルロース試料や導出方法によって値が大きく異なり、具体的に解明されていませんでした。課題点を整理したところ、従来よく使用された再生セルロース※3試料では、(1)分子鎖の形態(コンフォメーション)が一定しない、(2)解析に必要となる分子鎖配向性が正確に求まらない、(3)測定精度を向上させるため測定点を増やして分布解析することが必要、といった点が挙げられました。

上谷助教らの研究グループでは、(1)望ましいセルロース試料として、分子鎖が伸び切って結晶化し、分子レベルの形態が安定しているナタデココ由来セルロースナノファイバー※4を選定しました。(2)段階的な配向フィルム化処理を行い、2次元X線回折法により分子配向性を精密に決定しました。(3)フィルム状試料の面内における光学位相差マッピング像を観測し、1視野における11万点以上の位相差データを個別の測定点とみなして綿密な分布解析を行いました。その結果、セルロースの固有複屈折が従来予想値のみならず多くのプラスチック類よりも高いことを見出しました。

さらに本研究で開発した配向性ナノファイバーフィルムは、光学特性と伝熱性を同時制御可能であることが判明しました。本材料は従来のプラスチックフィルムやガラス基板にはない「複合機能フィルム」として薄型化と排熱に同時に寄与することから、光学デバイスの高機能化が期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、フレキシブル電子デバイスの透明基材として用いられるセルロースナノファイバー製の「ナノペーパー」に位相差制御性を付与し、「光を制御する紙」として本格的な光学用途への活用が期待されます。

また固有複屈折が判明したことにより、これまでX線回折法等の手法で配向性が求まらなかった非晶性セルロース試料(セロファン膜・レーヨン繊維など)でも、複屈折測定から精密な配向性が導出可能となるため、様々なセルロース素材の精密な工学応用が推進されます。

特記事項

本研究成果は、2019年2月22日(金)(日本時間)に米国科学誌「ACS Macro Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Estimation of the Intrinsic Birefringence of Cellulose Using BacterialCellulose Nanofiber Films”
著者名:Kojiro Uetani, Hirotaka Koga, Masaya Nogi

なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(17K18169)、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(JPMJMI17ED)、「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」のCOREラボ共同研究プログラム(20186002)の助成を受けて行われました。

用語解説

※1 固有複屈折
高分子の化学構造により決定される基礎光学特性の一つで、屈折率の最大異方性を示す指標です。値が大きい場合、光の位相差を制御する性能が高いことを示します。

※2 光学補償部材
液晶ディスプレイなどに使われる位相差や偏光状態を制御するフィルム部材で、高品位な表示のために視野角やコントラスト、色づきなどを制御する重要な役割を担います。

※3 再生セルロース
木材パルプなどを溶剤で溶かし、貧溶媒に再析出(再生)させて得られる非晶性セルロースで、成形性が高い反面、セルロースの分子形態を制御しにくい問題があります。

※4 ナタデココ由来セルロースナノファイバー
酢酸菌(バクテリア)が生合成したセルロースナノファイバーで、ナタデココの主成分です。セルロース分子鎖がまっすぐ束なって結晶化し、分子の形態が安定しています。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 自然材料機能化研究分野
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/nmat/

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