AI技術を用いてマイコプラズマ否定試験を省力化

AI技術を用いてマイコプラズマ否定試験を省力化

iPS細胞由来治験製品の品質試験に有効

2019-2-14生命科学・医学系

研究成果のポイント

・AI技術を用いたマイコプラズマ否定試験判定ソフトを開発
・開発した判定ソフトを医師主導治験へ導入する方針はPMDAと合意済み
・細胞加工製品の開発促進と他の検査への応用に期待

概要

大阪大学(本部:大阪府吹田市)大学院医学系研究科の澤芳樹教授(心臓血管外科)らと、大日本印刷株式会社(本社:東京都新宿区、以下:DNP)は、人工知能(AI)技術を応用し、第十七改正日本薬局方参考情報に掲載されているマイコプラズマ 否定試験を自動で判定する細胞画像解析ソフトを開発しました。この解析ソフトは、大阪大学にて実施予定のヒト(同種)iPS細胞 由来心筋細胞を用いる医師主導治験の治験製品に対する品質試験に導入予定です。本案件は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と合意済みで、今後は複数の臨床検体を用いて検証を行った後に、医師主導治験へ導入する予定です。なお、AI技術を用いた細胞画像判定ソフトの医師主導治験への導入は日本初になる予定です。

これまでマイコプラズマ否定試験は、訓練を受けた者が目視で確認して汚染の判定を行っていたため、判定者の養成に時間と費用がかかっていました。また試験ごとに多くの時間と労力が必要であり、検査にかかる費用、時間、労力が製品開発の課題(障壁)の一つと考えられていました。

今回、澤教授らとDNPの研究グループは、AI技術を応用し、再生医療等製品の品質試験として必須であるマイコプラズマ否定試験の判定を、プログラムを用いて行うことにより、判定者の養成を不要とし、また試験ごとの判定時間を大幅に短縮することに成功しました。

図1 本研究成果のイメージ

研究の背景

これまで、大阪大学大学院医学系研究科では、ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを用いて重症心不全に対する治療法の開発を進めています。移植する細胞に対しては無菌性を高度に管理する必要があり、マイコプラズマ汚染の有無の検査が必要不可欠となっています。このマイコプラズマ否定試験では、日本薬局方に記載された試験方法で実施し、判定は人が目視で行っているため、その熟練度や判定にかける労力が膨大となるという課題がありました。

研究成果

本研究では、適切な試薬等を用いてマイコプラズマ否定試験(指標細胞を用いたDNA染色法)を実施し、判定に必要な教育データを取得し、AIの教育データとして提供しました。AI技術を用いてプログラム(判定プログラム)を作成し、実際に同一検体を用いて、人での目視及び判定プログラムでの判定結果(細胞を1000個計測する中にマイコプラズマに汚染した細胞が5個以上で陽性と判定される)を比較しました。今回用いた画像データでは、人の目視確認では誤答が生じた「マイコプラズマを5CFU(Colony Forming Unit )となるように添加した検体」の汚染においても、判定プログラムは正答し、目視判定が困難である低い濃度での汚染に対しても適切な判定ができました。また、判定に人で約120分かかるところ、判定プログラムでは約5分と大幅な時間短縮も達成できました。

特記事項

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の以下のプログラムの支援のもと実施しました。
【事業名】再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発)
【課題名】iPS心筋等をモデルとした再生医療等製品の製造管理及び品質管理として実施する日局マイコプラズマ否定試験の効率化・省力化システムに関する研究開発
【代表者】宮川繁(大阪大学大学院医学系研究科最先端再生医療学特任教授(常勤))

本成果は、2019年2月19日に開催される『平成30年度「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発)」成果報告会』にて、代表研究者の宮川繁が発表します。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学
http://www2.med.osaka-u.ac.jp/surg1/

用語説明

マイコプラズマ

細胞壁を持たず、非常にサイズの小さい細菌。医薬品等では、その製品がマイコプラズマに汚染されていなかを出荷前に確認している。このマイコプラズマに汚染されているかどうかを確認する試験をマイコプラズマ否定試験と言う。

iPS細胞

(人工多能性幹細胞)/京都大学の山中伸弥教授が作製に成功した、細胞に特定の遺伝子などを導入することで、さまざまな細胞への分化が可能になる万能細胞。再生医療への応用が期待されている。

Colony Forming Uni

コロニー形成単位といい、微生物、細菌等を寒天培地といった、その微生物、細菌等が生育する固体培地上に播種した際に生じるコロニー数をいう。微生物、細菌等がそのサンプルに多く含まれる場合は、コロニー形成数も多くなる。