多言語対応・安否確認システムの実用化がスタート

多言語対応・安否確認システムの実用化がスタート

パニック・ボタンで緊急時に位置情報と周囲の音声を記録、Facebook、LINEにも自動送信できる

2018-4-20社会科学系

研究成果のポイント

危機に面した時に重要なのは、いかにその状況を必要な人に知らせることができるか、また、情報を受け取った側が、救援体制をとるときの資料をいかに準備することができるかである。従来の安否確認は閉鎖型の組織管理の範囲での情報収集にとどまっていたが、この度開発したアプリ「Cared.jp」では、送信先の設定を行えば、複数の人々に、被災状況に関する十分な情報を同時送信することができる。また受信者は、受け取った情報を必要な地域に転送することができる。本成果により、安否情報の見える化を実現することができた。

概要

大阪大学大学院国際公共政策研究科グローバル・リスク・ソリューションズ・センター(GRSC)の塚本俊也招へい教授は、スマートフォンで簡単に安否確認の連絡ができる多言語対応のアプリ「Cared.jp」を開発しました。

使用者は、本アプリをダウンロードし、年間ワンコイン(年間登録料500円)でクラウド上に登録すると、あらかじめ設定した相手に、使用者の安否、位置情報、コメント、現地連絡先などの安否確認メッセージを、母国語で、メール、SMS、Facebook、LINEなど複数の媒体で同時に送信することができます。グループ送信も可能なため、海外研修や国内災害時に、大学などの教育機関であれば、学部、専攻、研究室やクラス、グループごとの安否確認をこのアプリだけで管理し、対応することが可能です。

行政機関等が本機能を活用・分析することで、被災状況の分布を俯瞰し、いち早く救援のための効果的な対応を措置することが可能になると考えられます。

現在、6か国語(日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語)での対応が可能となっており、2019年3月末までに10言語以上に対応する予定です。

本アプリは、2018年4月20日に実用化されました。

研究の背景

厚生労働省は1月26日、外国人労働者数は127万8670人、外国人を雇用している事業所数は19万4595か所(2017年10月末時点)に達し、いずれも過去最高を更新したと発表しました。在留外国人数は年々増加傾向にあり、また訪日外国人もすでに年間2400万人を超えています。今後、様々な防災に関する対応において、「多言語対応」が基本原則になると考えられますが、市区町村レベルでのインバウンド対策への経費は十分確保することができていないのが現実で、外国人増加にみられる対策は急務と考えられています。

塚本招へい教授らの研究グループは、緊急時や災害時の情報提供は、自治体ごとに検討するのではなく、共通項目は、どの自治体でも統一されたフォーマットでの提供が必要であると考え、共通の多言語プラットフォーム作りを支援する体制を整えてきました。

本研究成果の内容

本アプリは、通常の安否確認機能に加え、テロ対策、突然な犯罪、災害に有効なシステムとして「パニックボタン」機能を備えています。この機能は、使用者が突発的なテロや事件、災害などに巻き込まれたとき、赤い非常用の「パニックボタン」を2度押しするだけで、音声や周辺の音が10秒間録音され、録音データと位置情報がメール、SMS、Facebook、LINEなどで登録先に自動送信されるものです。受信者は、録音されたアプリ使用者の声や音と位置情報に、ニュース速報などを突き合わせることで、本人の置かれた状況を察知する手がかりを得ることができます。

また、4段階のトリアージ判定情報の登録や国籍検索の機能も備えており、どの地域にどのような被災者がいるかを、迅速に把握することが可能です。

行政機関等が本機能を活用・分析することで、被災状況の分布を俯瞰し、いち早く救援のための効果的な対応を措置することが可能になると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、海外に留学する日本人学生や、インバウンドで日本を訪れる外国人が母国語で家族や行政機関に安否情報を同時に複数の媒体に送信できるシステムとして、普及することが期待されます。

今後、塚本招へい教授らの研究グループは、企業との連携により、より迅速に、15言語で、またWeChatやカカオトークなど海外で多用されているコミュニケーション・アプリからでもアクセスできるように、開発を進める予定です。また、災害時にWi-Fiを無料開放する企業とも連携することにより、Wi-Fi接続することで多言語災害ニュースなどを受信可能なシステム設定などの開発が期待されます。

研究者のコメント

大阪大学国際公共政策研究科グローバル・リスク・ソリューションズ・センターでは熊本地震の際、全世界から90名弱の翻訳ボランティアの協力を得て、災害情報のニュースや、自治体、弁護士による外国人向け相談の資料などを12言語に翻訳しました。今後、南海トラフ巨大地震が発生した場合、きわめて広い範囲で、多言語での災害情報の提供や避難誘導、避難所支援が必要であり、ボランティアだけでは十分な対応ができなくなると考えられます。アプリの年間登録料500円の費用の一部は、このインバウンド対策のために用いていきたいと考えています。

緊急時に本アプリを活用してもらうためには、普段から使い慣れてもらう必要があるため、現在、このアプリを常時使えるように、大学の講義の出席確認などに活用できないか検討しています。また、日本に来ている留学生や技能実習生のために、日本生活におけるリスクや生活情報を学ぶことができる多言語対応のEラーニング・プログラムを導入することも検討しています。

参考URL

大阪大学 大学院国際公共政策研究科 グローバル・リスク・ソリューションズ・センター
http://www.grsc-osaka-u.com/