生命科学・医学系

2018年4月19日

研究成果のポイント

・創薬研究において動物愛護の観点を重視
・わずか2回の低分子化合物溶液※1塗布で、アトピー性皮膚炎(AD)モデルマウス※2の作出に成功
・AD様皮膚炎発症に至る過程を単純化することで2次的影響を最小限にすることができ、新薬創出の可能性が拡がった

概要

大阪大学大学院工学研究科の和田忠士招へい教授らの研究グループは、わずか2回の低分子化合物溶液塗布で、アトピー性皮膚炎(AD)モデルマウスを作出することに成功しました。本研究成果により、AD様皮膚炎発症に至る過程を単純化することで2次的影響を最小限にすることができ、新薬創出の可能性が拡がりました。

本研究成果は、Industry on Campusの考え方に基づき、2013年から2018年に大阪大学大学院工学研究科と株式会社陽進堂が設置した核酸制御(陽進堂)共同研究講座と日本大学医学部との共同研究による成果です。簡単な作業でAD様モデルマウスを作出できる条件を決定することができ、従来法に比較して、実験用マウスにかかる負担を大幅に減らすことができました。これは、創薬研究において動物愛護の観点を重視したものと言えます。

本研究成果は、2018年4月16日(月)に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックレポーツ)」に掲載されました。

図1 実験用マウス

研究の背景

実験動物を用いた薬効評価や毒性試験は、医薬品の開発過程や医薬品としての認可を受ける上で必須となっています。人の病気の症状と似た症状を示す疾患モデル動物を有効利用した創薬により、これまでに様々な病気に対する数多くの治療薬が創出されました。一方で、年を追うごとに動物実験への批判は世界的に強まる傾向があります。日本の「動物愛護法第41条」では、動物実験を行う際には代替法の使用(Replacement)、使用する動物数の削減(Reduction)、実験動物の苦痛削減(Refinement)に表される3Rの原則に従うことを規定しています。本研究グループは、昨今の動物実験に対する批判を十分に考慮し、3Rを遵守した動物実験を行うことが研究に従事する者の責務であると考えました。

これまでの一般的なADモデルマウス作出手法は、低分子化合物である2,4-dinitrofluorobenzene(DNFB)※3をマウス頚背部に連続的に塗布し、血清中Immunoglobulin E(IgE)値※4が上昇することを指標としていました。低分子化合物溶液を用いたAD様モデルマウスの作出法に関する論文を過去約20年間分調べたところ、従来法では平均して4.2週間に渡り塗布を行い、実験期間中の塗布総数の平均値は10回でした(130報分から計算)。ハプテンの塗布期間については、数週間から長いものでは約2ヶ月と長期にわたる場合も見つかりました。実験期間の短い論文(1週間から2週間)では、塗布間隔も短く設定され、毎日連続塗布するものや1日おきに塗布するものも含まれていました。短い塗布間隔を長期間に渡って行った論文もありました。1週間に複数回のDNFB塗布を行う従来法は、発症した皮膚炎が治癒する前に次の塗布を行うため、実験動物であるマウスに過度の苦痛を与えていました。

本研究の成果

実験開始1日目に研究用マウスの背中に第1回目のハプテン塗布を行い、2週間後にもう一度、同じところに第2回目のハプテン塗布を行います。このわずか2回の作業により、2回目の塗布日以降に、AD様症状である引っ掻き行動と湿疹などの皮膚症状を再現性良く観察することができました。過去の報告でこのように塗布間隔を長く取ったものは存在しません。また、アトピー性皮膚炎患者では血清中のIgE値が上昇し、T helper type 2(Th2)※5優位な免疫反応を示すことが報告されています。

今回のモデルマウスでは、2回目塗布の5日後に血清中のIgE値上昇が観察されました。背中の炎症部分の皮膚症状は、組織学的解析からアトピー性皮膚炎患者の皮膚症状と酷似していることがわかりました。具体的には上皮の肥厚化に伴う海綿状変化と角質層の脱落(びらん形成)、また、リンパ球や肥満細胞※6などの各種免疫細胞の有意な浸潤が認められました。さらに、Th2優位な免疫反応の指標となる炎症性サイトカインの発現上昇を確認しました。

以上の結果から、今回の論文で報告している改良法により、AD様症状を示すモデルマウスの作出に成功したと言えます。少ない作業工程(2回の塗布)と短期間(2週間)処理により、従来法に比較してマウスに対する負荷を大幅に低減することができました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

動物愛護の精神は、創薬研究において最大限重視されなくてはなりません。今回の研究により、実験条件を見直すことで実験動物への苦痛軽減を実証しました。本研究グループの報告がきっかけとなり、実験動物に対するこれまでの研究を見直す転換点となることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年4月16日(月)に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックレポーツ」に掲載されました。核酸制御(陽進堂)共同研究講座は、2018年1月31日で終了しています。
タイトル:“A murine model of atopic dermatitis can be generated by painting the dorsal skin with hapten twice14 days apart”
著者名:Ayaka Kitamura1,2,3, Ryohei Takata1,2,3, Shin Aizawa4, Hajime Watanabe1,2, and Tadashi Wada1※.(※責任著者)
所属
1.大阪大学大学院 工学研究科 核酸制御(陽進堂)共同研究講座
2.大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 渡邉研究室
3.株式会社陽進堂
4.日本大学 医学部 機能形態学系 生体構造医学分野

用語説明

※1 低分子化合物溶液
今回の実験では、DNFBという低分子化合物をアセトンとオリーブオイルに溶かした薄い黄色の混合溶液を用いた。

※2 モデルマウス
人の病気に似た症状をマウスで再現したもの。

※3 2,4-dinitrofluorobenzene(DNFB)
2,4-ジニトロフルオロベンゼン、炎症反応を誘導するために用いた、分子量186の化合物。

※4 Immunoglobulin E(IgE)値
アレルギー疾患を持つ患者の血清中で高値を示し、アレルギー反応において中心的な役割を果たす分子の一つ。

※5 T helper type 2(Th2)
Th2細胞はヘルパーT細胞に分類され、寄生虫やアレルギー反応の際に働くと考えられている。

※6 リンパ球や肥満細胞
免疫細胞に属し、アトピー性皮膚炎部位に集まってくる。

研究者のコメント

アトピー性皮膚炎モデルマウスを低分子化合物の塗布により作出した多くの論文が、繰り返し塗布を行う手法を採用していた。今回の研究成果により、短期間に何回も塗布を行う必要があるという従来の既成概念を塗り替え、同時にマウスへの苦痛軽減も達成された。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 核酸制御(陽進堂)共同研究講座
http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/yd/

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