世界初!リンパ球が狭いリンパ節(砦)でスムーズに動くしくみを解明

世界初!リンパ球が狭いリンパ節(砦)でスムーズに動くしくみを解明

免疫細胞のパトロール機構には脂質が重要

2016-1-25

本研究成果のポイント

・免疫細胞の一種:リンパ球が「免疫系の砦」であるリンパ節のなかでスムーズに動くには、リゾホスファチジン酸 (LPA) という脂質が重要であることを世界で初めて実証。
・狭いリンパ節の中をリンパ球がどうしてスムーズに動くことができるのか、そのしくみはわかっていなかった。
・LPAおよびその受容体を標的とした新たな免疫制御法の開発が期待される。

概要

数多くの免疫細胞が密集して存在するリンパ節は、異物の侵入に対して免疫反応を起こす「免疫系の砦」として機能します。免疫反応の開始には、免疫細胞の一種であるリンパ球 がリンパ節を活発に動き回り、抗原 の刺激を受けとることが重要です。しかし、スペースが限られるリンパ節のなかを、どうしてリンパ球がスムーズに動くことができるのか、そのしくみはよくわかっていませんでした。

大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座(免疫制御学)の梅本英司准教授、同大学未来戦略機構の宮坂昌之特任教授、フィンランド・トゥルク大学の竹田彰研究員らは、リンパ球の動きにはリゾホスファチジン酸(LPA)という脂質が重要な役割を果たすことを世界で初めて明らかにしました。リンパ球が動き回る際の足場となる細胞がLPAを産生し、LPAがリンパ球上のLPA受容体 (LPA 2 ) に作用することで、細胞が密集したリンパ節の狭い空間でもリンパ球はスムーズに移動することが可能になります。

本研究成果は、LPAおよびその受容体を標的とした新たな免疫制御法の開発に役立つものとして大いに期待されます。また、LPAの前駆物質はキャベツや大豆に多く含まれ、一部の生薬にはLPAそのものが含まれることから、食事と健康の観点からも今後の研究が期待されます。

本研究成果は、英国の生命科学雑誌「eLife」誌電子版に2016年2月2日に公開されます。

野生型マウスのリンパ節では、リンパ球が動く際の足場となる細胞がオートタキシンという酵素を分泌し、リゾホスファチジン酸(LPA)という脂質を産生します。LPAがリンパ球上のLPA受容体に作用すると、リンパ球はスムーズに動くようになります。一方、オートタキシンを欠損するマウスではLPAが産生されないため、リンパ球はスムーズに動くことができません。

研究の背景

リンパ節は異物の侵入に対する免疫反応を起こすのに中心的な役割を果たします。免疫反応を起こすには、リンパ球がリンパ節(=砦)のなかを活発に動き回り、抗原と出会うことが重要ですが、数多くの細胞が密集して存在し、スペースが限られるリンパ節のなかを、どうしてリンパ球がスムーズに動くことができるのか、そのしくみはよくわかっていませんでした。

研究グループは、リンパ球が動く際に足場となる細胞がオートタキシンという酵素を高発現することに着目しました。オートタキシンはリゾホスファチジン酸 (LPA) という脂質を作り出すため、リンパ球の足場となる細胞のみでオートタキシンを欠損するマウスを作製したところ、このマウスのリンパ節ではLPAの産生量が減少し (図1) 、二光子顕微鏡 という特殊な顕微鏡でリンパ球の動きを観察したところ、リンパ球の運動性が減少していました (図2) 。

LPAの受容体としてLPA 1 からLPA 6 の6種類が知られています。これら受容体のなかでもリンパ球はLPA 2 を発現し、LPA 2 を欠損するリンパ球ではリンパ節での動きが減少することが判明しました。さらに、野生型のリンパ球にLPAを添加すると、丸いリンパ球が細長く変形し、高密度の3次元ゲル中でも活発に動き回りましたが、LPA 2 を欠損するリンパ球は、LPAを添加してもそのような形態変化は認められず、ゲル中での運動性も低いままでした (図3) 。

本研究の成果より、リンパ球がリンパ節を動く際の足場となる細胞がLPAを産生し、LPAがリンパ球上のLPA 2 に作用することで、リンパ球は活発に動くということがわかりました。また、LPAはLPA 2 を介してリンパ球の形態を変化させることで、リンパ球は狭いスペースでも効率よく移動できるようになります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、リンパ球の動きを促進する因子としてLPAを見出しました。LPAは慢性炎症部位や一部の癌細胞でも産生されることから、本研究は、LPAおよびその受容体を介したリンパ球の動きを標的とした新たな免疫制御法の開発につながる可能性があります。

また、LPAの前駆物質はキャベツや大豆に多く含まれ、一部の生薬にはLPAそのものが含まれることから、食事と健康の観点からも今後の研究が期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国の生命科学雑誌「eLife」電子版に2016年2月2日に掲載予定されました。

論文タイトル
“Fibroblastic reticular cell-derived lysophosphatidic acid regulates confined intranodal T-cell motility”
(繊維芽細網細胞由来のリゾホスファチジン酸は狭いリンパ節内でのT細胞運動性を制御する)

また、本研究は科学研究費補助金・新学術領域研究「免疫四次元ダイナミクス」(領域代表:高濱洋介)、研究課題名:「二次リンパ組織ストローマ細胞の性状と機能」(研究代表者:宮坂昌之、研究分担者:梅本英司)の一環として行われました。

本研究は、大阪大学、慶應義塾大学、秋田大学、スイス・ザンクトガレン カントナル病院、フィンランド・トゥルク大学との共同研究で行われました。

参考図

図1 野生型マウスおよびオートタキシン欠損マウスのリンパ節におけるLPAの分布
オートタキシン欠損マウスではリンパ節におけるLPAシグナルが減少していた。水色:血管内皮細胞、黄色:リンパ節の髄質

図2 野生型マウスおよびオートタキシン欠損マウスのリンパ節におけるリンパ球の動き
野生型およびオートタシキン欠損マウスのリンパ節におけるリンパ球の動きを二光子顕微鏡で観察した。すべてのリンパ球が図の中心からスタートするように配置して、個々のリンパ球の軌跡を表した。オートタシキン欠損マウスではリンパ球の動きが低下していた。

図3 野生型マウスおよびLPA2欠損マウスのリンパ球の形態変化
野生型およびLPA 2 欠損マウスのリンパ球にLPAを添加し、その形態を観察した。緑は培養プレートに接着しているリンパ球の面積を表す。 野生型マウスのリンパ球にLPAを添加すると、丸いリンパ球は形態を変化させ細長くなった。LPA 2 欠損マウスではそのような形態変化は認められず、プレートに接着したままであった。

参考URL

用語説明

リンパ球

免疫応答を担う免疫細胞の一種。主にT細胞とB細胞からなる。リンパ節などの免疫器官で抗原刺激を受けて活性化し、抗原を除去する。

抗原

免疫応答を誘導することのできる物質。通常、病原体等の異物に由来する抗原は、活性化したリンパ球により体内から除去される。

二光子顕微鏡

1つの蛍光分子を2つの光子で同時に励起する顕微鏡。透過性が優れており、生きたまま生体組織の深部を観察することができる。