2015年5月21日

本研究成果のポイント

・10兆分の1秒以下に時間的な揺らぎを抑えることができる光技術を用いて、実世界の信号であるアナログ信号を現代のテクノロジーで扱いやすいデジタル信号に変換する全処理を実現
・現在のアナログ・デジタル変換の性能が飽和した後の、次世代技術確立の端緒につく成果
・本技術により、将来の光通信分野をはじめ、様々な応用分野で消費電力の増加を解決し、豊かで持続可能なグリーン社会の発展へ貢献することに期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の小西准教授らの研究グループは、世界で初めて10兆分の1秒(100フェムト秒)を超える“ジッタ”※1 (通信における時間の揺らぎ)性能を持つ高精度アナログ・デジタル(A/D)変換※2 の全ての処理を光技術で実現しました。これにより、現在の電気的A/D変換の性能が飽和した後の、次世代技術確立の端緒についたものと位置づけられます。

今後、将来の光通信分野をはじめ、様々な応用分野で用いられるA/D変換の高性能化(高精度化・高速化)に伴って懸念される消費電力の増加を解決し、豊かで持続可能なグリーン社会の発展に貢献するものと期待されます。

また、宇宙・環境観測などの応用分野において、将来的な大容量化に限界が見えてきた広帯域光通信における超高画質映画などの大容量の情報処理や、取得困難であったブラックホールのような現象等の測定が可能となることも期待されます。

本研究成果は、5月11日にIEEE Photonics Journal Volume 7, Issue 3(2015)に掲載されました。

研究の背景

A/D変換は、実世界に存在する連続的なアナログ信号をコンピュータなどで用いられるデジタル技術で扱えるようなデジタル信号に変換する重要なインターフェース技術として幅広い分野で用いられています(図1) 。例えば、A/D変換器の高性能化により環境計測において計測可能な距離の分解能が飛躍的に向上したり、クラウド※3 とデータセンター※4 間で4K超高精細映画をわずか数秒でダウンロードできるようになります。

近年、日進月歩のこのような応用分野において、さらに高周波なアナログ信号に対応可能な高精度なA/D変換の実現が求められており、400ギガビット級の光伝送技術の研究成果においても高性能な電気的A/D変換を用いた目覚ましい成果があげられています。

(例:NTT、既存100G光ケーブルで400Gの安定通信技術を確立 http://ascii.jp/elem/000/000/991/991883/)。

一方で、将来的な電気的A/D変換器の高精度化は、“ジッタ”による信号のサンプリング※5のタイミング揺らぎにより10兆分の1秒程度(100フェムト秒程度)で限界を迎えると推定されており、その先の更なる高精度化のための次世代技術の確立を目指して、10兆分の1秒(100フェムト秒)を超える“ジッタ”抑制が可能な光サンプリング技術が注目されています。また、サンプリングの高精度化に伴い、必要な電気的A/D変換器の数が増加するために消費電力増加の問題が顕在化してきています。

このような背景のもと、今回、将来的に消費電力の増加や“ジッタ”による高精度化と消費電力低減の制限となる電気的A/D変換器を全く用いずに高精度A/D変換の全ての処理を光技術で実現することを試み、10兆分の1秒(100フェムト秒)を超える“ジッタ”の条件での動作実験に世界で初めて成功しました(図2図3 )。高精度A/D変換の光化に向けた各処理の検討については、国際会議(2013年度)などで報告(Best Paper Awardなどを授賞)してきていますが、今回、これまで検討してきた各技術を結集することにより、電気的A/D変換器における“ジッタ”の限界を超える条件での高精度A/D変換の全処理の光化の実験に世界で初めて成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

高精度光A/D変換の成功は、現在の電気的A/D変換の性能が限界を迎えた後の次世代技術確立の端緒についたものと位置づけられます。実世界の信号を現在のデジタル技術で取り扱うためには、まずアナログ信号をデジタル信号に変えるA/D変換が必要不可欠です。例えば、データセンタにおける4K超高精細映画の大容量データ転送においてもアナログ信号で伝送されてきたものをデジタル信号に戻す必要があります。このA/D変換を情報の入口とする通信インフラの充実により、これらを基盤とした安心・安全・快適な社会の高度で持続的な発展への寄与が期待されます。

特記事項

本研究成果は、総務省の「戦略的国際連携型研究開発推進事業」の支援を得ました。

参考図

図1 A/D変換の全処理を光技術で実現

図2 高精度A/D変換のデジタル信号出力

図3 高精度A/D変換のジッタ性能

用語解説

※1 ジッタ
電子回路での熱雑音やショット雑音などに起因して信号に生じる時間的な揺らぎのこと。A/D変換において 時間の基準となるサンプリングパルスを用いてアナログ信号をサンプリング(取得)する際に、そのタイミングが揺らぐと異なるタイミングの信号が誤ってサンプリング(取得)され、映像の乱れが起きるなど、通信精度が下がる原因となる。

※2 アナログ・デジタル変換
一定の時間間隔と一定の信号の強さの間隔で離散的にアナログの信号を切り出してデジタル信号にする変換。

※3 クラウド
データをインターネット上に保存する使い方やサービスのこと。さまざまな環境のパソコンやスマートフォンなどからデータにアクセスすることができる。

※4 データセンター
ユーザーのデータなどを保存したサーバを預かり、インターネットへの接続や保守・運用サービスなどを提供する施設のこと。

※5 サンプリング
アナログ信号から一定の時間間隔で離散的にデータを取得(標本化)すること。

参考URL

研究室HP
http://www-photonics.mls.eng.osaka-u.ac.jp/

論文情報
●IEEE Photonics Journal
http://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=7098317
●研究室HP(総務省プロジェクトの特設ページ)
http://www-photonics.mls.eng.osaka-u.ac.jp/mlsphhpg/con_j/ADC_Topics_KONISHI201505-1.pdf

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