2014年9月13日

本研究成果のポイント

・ジャガイモの有毒ステロイドグリコアルカロイド(SGA)生合成に関わる酵素遺伝子「SSR2」
・植物のコレステロール生合成機構解明への手がかり
・SSR2遺伝子を標的とした有毒成分の少ないジャガイモ育種の可能性

リリース概要

理化学研究所(理研、野依良治理事長)、キリン株式会社(磯崎功典社長)、東京工業大学(三島良直学長)、大阪大学(平野俊夫総長)、広島大学(浅原利正学長)、日本大学(大塚吉兵衛学長)、千葉大学(徳久剛史学長)は、ジャガイモに含まれる有毒な「ステロイドグリコアルカロイド(SGA)」※1 の生合成に関わる酵素遺伝子「SSR2遺伝子」を同定しました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)統合メタボロミクス研究グループの斉藤和季グループディレクターと澤井学研究員、キリン株式会社基盤技術研究所(近藤恵二所長)の梅基直行主任研究員、東京工業大学大学院理工学研究科の大山清助教、大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授と關光准教授、広島大学、日本大学、千葉大学の研究者らの共同研究グループ※2 の成果です。

ジャガイモの芽や緑化した皮の近辺には、食中毒の原因となるα-ソラニン、α-チャコニンなどのSGAが含まれていることが知られています。ジャガイモの育種において、SGA含量を低く抑えることは重要な課題の1つとして考えられています。SGAはコレステロールを中間体として生合成されると考えられています。しかし、一般に植物に含まれるコレステロールは少ないため、詳しい生成機構は明らかではありませんでした。

共同研究グループは、酵母での異種遺伝子発現系を用いた酵素機能評価により、SGA生成に必要なコレステロール生合成の酵素遺伝子としてSSR2遺伝子を同定しました。このSSR2遺伝子発現を抑制、ならびにSSR2遺伝子を破壊した遺伝子組換えジャガイモでは、SGA含量が非遺伝子組換えジャガイモに比べ低いことを見いだしました。今回の成果は、将来のSSR2遺伝子を標的としSGAの含有量を低く抑えたジャガイモ育種につながるものと期待できます。

本研究の一部は、農林水産省農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「作物における有用サポニン産生制御技術の開発」(独立行政法人生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業「作物における有用サポニン産生制御技術の開発」より移管)などの支援を受けて行いました。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Plant Cell』に掲載されるに先立ち、オンライン版(9月12日付け)に掲載されます。

背景

ジャガイモ、トマトを含むナス科植物には、有毒な「ステロイドグリコアルカロイド(SGA)」が含まれる場合があります。代表的なものとして、ジャガイモではα-ソラニン、α-チャコニンが主なSGAで、芽や緑化した皮の近辺に比較的多く含まれ、ジャガイモ食中毒の原因物質とされます(図1)。ジャガイモのSGA含量を低く抑えることは、ジャガイモ育種において重要な課題の1つと考えられます。

SGAはコレステロールを中間体として生合成されると考えられています。しかし、一般の植物に含まれるステロール※3 の中では、コレステロールの含有量は少ないため、これまで植物におけるコレステロールの詳しい生成機構は明らかではありませんでした。

研究手法と成果

植物が有する主なステロールである24-アルキルステロールとコレステロールの主な化学構造上の違いは、24位アルキル基※4 の有無です。24位アルキル基は、メチル基転移反応と24(28)位還元反応を受けて生成されます。アブラナ科のシロイヌナズナでは、DWF1が24-アルキルステロール生合成における24(28)位還元反応を触媒します。一方、ヒトを含む動物では、DWF1のホモログ(相同体)※5 のDHCR24が、コレステロール生合成における24(25)位還元反応を触媒します(図2)

共同研究グループは、ジャガイモ、トマトで発現している遺伝子群の中に、DWF1およびDHCR24のホモログと考えられるタンパク質の遺伝子が2種類含まれていることを見いだし、「SSR1」、「SSR2」と命名しました。これらの遺伝子の働きを明らかにするため、出芽酵母での異種遺伝子発現系を用いてSSR1、SSR2の酵素機能を評価しました。その結果、SSR1は24(28)位還元反応の触媒活性を顕著に示し、SSR2は24(25)位還元反応の触媒活性を顕著に示しました(図2)。この結果から、SSR1遺伝子が24-アルキルステロール生合成に、SSR2遺伝子がSGA生合成中間体であるコレステロールの生合成に関与していると考えられます。

さらに共同研究グループは、RNA干渉法※6 によりSSR2遺伝子の発現を抑制した遺伝子組換えジャガイモ、ならびに試験的にゲノム編集法の1つであるTALEN法※7 によりSSR2遺伝子を破壊した遺伝子組換えジャガイモを作出しました。これら遺伝子組換えジャガイモのSGA含量を分析した結果、非遺伝子組換えジャガイモのおよそ1割に低下していました。このことはSSR2遺伝子がSGA生合成に関わっていることを支持します。

今後の期待

今回の成果により、将来、SSR2遺伝子を標的としてSGA量を低く抑えたジャガイモの育種が可能となると期待できます。

原論文情報

Satoru Sawai, Kiyoshi Ohyama, Shuhei Yasumoto, Hikaru Seki, Tetsushi Sakuma, Takashi Yamamoto, Yumiko Takebayashi, Mikiko Kojima, Hitoshi Sakakibara, Toshio Aoki, Toshiya Muranaka, Kazuki Saito, and Naoyuki Umemoto.
“Sterol Side Chain Reductase 2 Is a Key Enzyme in the Biosynthesis of Cholesterol, the Common Precursor of Toxic Steroidal Glycoalkaloids in Potato”.
The Plant Cell, 2014, doi: 10.1105/tpc.114.130096

参考図

図1 ジャガイモのSGA
ナス科植物には、有毒な「ステロイドグリコアルカロイド(SGA)」が含まれる場合がある。代表的なものとして、ジャガイモのα-ソラニンとα-チャコニンで、芽や緑化した皮の近辺に比較的多く含まれる。

図2 24(28)位還元反応と24(25)位還元反応の1例
SSR1は、24(28)位還元反応の触媒活性を顕著に示し、24-アルキルステロール生合成に関わると考えられる。SSR2は、24(25)位還元反応の触媒活性を顕著に示し、SGA生合成中間体であるコレステロール生合成に関わると考えられる。

用語解説

※1 ステロイドグリコアルカロイド
窒素原子を含むステロイドの配糖体。ナス科植物等が生成蓄積することが知られている。ジャガイモではα-ソラニン、α-チャコニンが主なステロイドグリコアルカロイドとして知られ、ジャガイモ食中毒の原因物質とされている。

※2 共同研究グループ
理研環境資源科学研究センター統合メタボロミクス研究グループの斉藤和季グループディレクター(千葉大学大学院薬学研究院教授)と澤井学研究員、同センター生産機能研究グループの榊原均グループディレクター、小嶋美紀子技師と竹林裕美子テクニカルスタッフ、キリン株式会社基盤技術研究所の梅基直行主任研究員、東京工業大学大学院理工学研究科の大山清助教(兼 理研客員研究員)、大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授(兼 理研客員主管研究員)、關光准教授(兼 理研客員研究員)と安本周平大学院生、広島大学大学院理学研究科山本卓教授と佐久間哲史特任助教、日本大学生物資源科学部青木俊夫教授らで構成。

※3 ステロール
3位にヒドロキシ基を有し、炭素数27のコレスタン骨格を基本とする化合物群。コレステロール、24-アルキルステロールなど。

※4 アルキル基
飽和炭化水素鎖(アルカン)の化学構造に由来する置換基。メチル基、エチル基など。

※5 ホモログ(相同体)
共通の祖先を持つと考えられるもの。遺伝子、タンパク質についても用いられる。

※6 RNA干渉法
標的遺伝子配列の一部に相当する二本鎖RNAによって、標的遺伝子の発現を抑制する手法。

※7 TALEN法
Transcription Activator-Like Effector Nuclease法。ゲノム編集法の1つ。DNA配列特異的に結合する部分(Transcription Activator-Like Effector)とDNAを切断する部分(Nuclease)から構成される。結合部分は標的とする遺伝子配列特異に結合するよう人工的に設計することができるため、ゲノム上の標的遺伝子配列に結合し、DNAを切断することができる。切断されたDNAはその修復過程において、ある程度の頻度で欠損、挿入変異が発生するため、標的遺伝子の破壊(改変)が起こる。他に近年著しい発展をみせるゲノム編集法としてZFN法、CRISPR/Cas9法が知られている。

参考URL

研究室Webサイト
https://sites.google.com/site/muranakalabjpn/home
研究内容
https://sites.google.com/site/muranakalabjpn/research

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