2019年4月16日

ヒューマン・インターフェイス研究が生み出すVirtual Reality(バーチャルリアリティ)

「電気を使って味の感じ方を変える」―安藤准教授の研究グループは、味物質のイオンが味細胞に流れることで塩味を感じる脳内の情報処理の仕組みを応用して、人の体に電極を装着し電気を流すことでイオンの流れを変化させ、塩味の感じ方を制御する研究を進める。研究が進めば、将来、電気を利用して塩味以外の味覚も感じることができるようになるかもしれない。ヒューマン・インターフェイス研究が生み出すVirtualReality(バーチャルリアリティ)の一例だ。
安藤准教授はこの他にも、VR技術を応用して、熟練の医師が手術する様子を追体験し効果的に内視鏡手術のトレーニングを行える装置を開発するなどの研究も行ってきた。

 

情報技術は本当に世界を良くしているのか

「情報技術は本当の意味で世界を良くしているのか。現に、情報技術の発展は、知的作業の効率を上げ、大量の情報処理を可能にした反面、SNS疲れ、ネット炎上・いじめ、フィルターバブル※など、さまざまな社会問題を引き起こしています。AI(人工知能)技術も、人の暮らしや仕事をサポートする反面、想定していなかった心的問題を起こす可能性があります」と安藤准教授。
安藤准教授はこれまで、「無意識的に人間を補助するインターフェイス」の開発などに携わってきたこともあり、「無意識が、人の思考や行動に及ぼす影響力の強さ、その怖さを知っています。進展が著しいAIに関しても、人が機械に尊厳を奪われることがないよう真剣に考えるべき時期が来ていると思います」と警鐘を鳴らす。

※フィルターバブル=インターネットで利用者の行動特性に合わせた情報ばかり表示されることにより受け取る情報に中立性を欠く状態

情報技術は人の心を豊かにする

安藤准教授が進めるプロジェクトのキーワードである「ウェルビーイング」とは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を意味する概念。安藤准教授は今、日本特有の価値観や関係性に着目し、「日本型ポジティブ・コンピューティング(より良く生きるための情報技術)」を社会実装し、ウェルビーイングを促進するためのガイドラインを策定したいと今後の展望を語る。
安藤准教授が考える日本型ポジティブ・コンピューティングは、答えをさらっと出せる便利さだけでなく、人の心を豊かにするプロセスとして活用できるものでなくてはならないという。「幸せとは何かを考え、それを情報技術を用いて実現するシナリオを数多く収集し、様々な選択肢として公開したい。それこそがウェルビーイングのガイドラインとなるのではないかと考えています」

新しい情報技術が内包する問題を予測する

試みとして、子どもから高齢者までの一般市民に「自分にとってのウェルビーイング」を考えてもらうワークショップを開催している。「ウェルビーイングを実現するには『こういうものがあったらいいね』というシナリオと、必要な情報技術を考え、それを4コマ漫画で表現してもらっています。」ワークショップはシナリオ集めの場でもあるのだ。
このワークショップのもう一つの目的は、「自分たちが発想した情報技術について、その便利さとは異なる弊害も同時に想像し議論してもらうこと。多様な世代の人が、そのようなトレーニングを重ねることで、今後生まれてくる新しい情報技術が内包する問題を、それが世に出る前に予測し対策を行えるはず」と説明する。

新しい学問分野の構築をめざす

このような活動を通じて日本社会に馴染む情報技術のプラットフォームづくりを目指す安藤准教授。今後の目標は「ウェルビーイングを、一つの学問分野として体系づけること。答えのない学問ですが、答えを探すだけが研究ではなく、大事なのは解き明かしていくプロセス。後輩の研究者にも、自分でプロセスを作っていけるような研究をしてほしい」と言葉に力を込める。

●安藤 英由樹(あんどう ひでゆき)
1997年愛知工業大学工学部卒業、99年同大学院工学研究科修士課程修了、04年東京大学情報理工学研究科 論文博士(情報理工学)取得。00年理化学研究所ジュニア・リサーチ・アソシエイト、01年科学技術振興事業団研究員、03年株式会社エーアイ技術員、04年NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員を経て、08年から現職。

(2018年7月取材)

 

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