自然科学系

2020年8月22日

研究成果のポイント

・原子層超伝導体※1NbSe2薄膜に、表面弾性波※2と呼ばれる高周波電場の波を照射すると、負の抵抗が観測されました。
・この負の抵抗は、電流がゼロ(ゼロ電流)の付近で実現し、抵抗の値自体も負になる現象で、半導体で実現する有限バイアス下の負性抵抗※3と異なる新現象です。
・周期的な外場を駆動することで、所望の量子状態を実現できる「フロッケ・エンジニアリング※4」への適用や、新しい超伝導デバイスへの展開が期待されます。

概要

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻大学院生の横井雅彦さん(当時博士後期課程3年)、荒川智紀助教、新見康洋准教授らの研究グループは、同研究科宇宙地球科学専攻の青山和司助教、東京大学の福山寛名誉教授(当時理学系研究科物理学専攻教授)、東京大学理学系研究科附属知の物理学研究センターおよび物理学専攻の小林研介教授と共同で、原子レベルに薄い超伝導体NbSe2微結晶に、表面弾性波と呼ばれるGHz帯域の振動外場を加えることで、超伝導状態にも関わらず、ゼロ電流近傍で抵抗が負になる現象を発見しました。

2005年の単層グラファイト(グラフェン)の発見以降、粘着テープを用いることで、簡便に原子層レベルで薄い「原子層薄膜」が作製できるようになりました。最近では、磁気をもつ強磁性や、抵抗値がゼロ(ゼロ抵抗)を示す超伝導も原子層薄膜で実現することが実験的に明らかになっています。このような原子層薄膜は通常の薄膜成長と異なり、基板と薄膜との原子配列の整合性を考慮する必要がないため、様々な基板を用いることが可能です。

そこで研究グループは、超伝導体NbSe2原子層薄膜を、圧電基板LiNbO3に転写し、LiNbO3上に準備した櫛型電極に高周波電場をかけることで、格子の歪みに起因した「表面弾性波」と呼ばれるGHz帯域の波を、原子層超伝導体に照射しました(図1上図)。その結果、通常ゼロ抵抗が観測される温度(超伝導転移温度TC)以下で、(図1下図)に示すように、低温になるにつれて、また表面弾性波のパワーを強くするにつれて負抵抗の大きさが増大することを発見しました。半導体でも負性抵抗は実現しますが、半導体で観測される負性抵抗は、電圧と電流の微分値が負になるものの、抵抗の絶対値自体は負にはなりません。一方、今回本研究グループが発見した負抵抗は、抵抗の絶対値自体が負になるという新しい現象です。この技術は、周期的な外場を駆動することで、所望の量子状態を実現できる「フロッケ・エンジニアリング」への適用や、超伝導体を用いた量子コンピュータに新機能を付与することも期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、2020年8月22日(土)午前3時(日本時間)に公開されました。

図1 (上図)本研究で用いた原子層超伝導体NbSe2薄膜と表面弾性波を組み合わせたデバイスの模式図、及び光学顕微鏡像。(下図)観測された負抵抗の温度依存性。

研究の背景

表面弾性波は、圧電効果のある基板に交流電場をかけることによって基板表面に生成される弾性波のことで、特定の周波数帯域をもつ電気信号を発生、もしくは検出できるフィルターとして、携帯電話などをはじめ、さまざまなデバイスに応用されています。近年、この技術を用いて、物質中の電子状態や磁気状態を制御しようとする研究が活発に行われています。そこで新見准教授らの研究グループは、原子レベルで薄い超伝導体に着目しました。原子レベルほどの薄さの薄膜の研究は、2005年に報告された単原子層グラファイト(グラフェン)の発見以降、様々な物質に対して行われるようになり、近年では原子層レベルで薄い磁性体や、ゼロ抵抗を示す超伝導体の研究も行われています。

研究グループは、圧電基板であるLiNbO3上に櫛型電極を作製し、数GHzの高周波電場をかけることで、表面弾性波を発生させ、原子レベルに薄い超伝導体に照射しながら、超伝導体の抵抗を測定しました。3種類の薄膜超伝導体(NbSe2、NbS2、Nb)で測定を行ったところ、NbSe2薄膜だけ、負の抵抗を示すことが分かりました。実は、NbSe2のみが、超伝導転移に加えて、電荷密度波※5転移を低温で起こしていて、電荷密度波が、表面弾性波によって変調を受けることが原因で(図2)、NbSe2薄膜だけ負の抵抗が現れうることを、理論モデルとの比較から明らかにしました。

図2 本研究で得られた結果を、電子がサーフィンをしているイメージで表した模式図 ©M. Yokoi。左から右に表面弾性波の波(青色)が来たとき、もともとペアを組んで進んでいたアップスピン(赤矢印)とダウンスピン(青矢印)の電子が、ペアを崩されながら表面弾性波の方向と同じ方向へ、つまり負の抵抗が生じる方向に進んでいる様子を描いている。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

半導体における負性抵抗は、エサキダイオード(トンネルダイオード)として増幅、発振回路に応用されています。本研究で明らかにした負抵抗は、抵抗の値自体が負になるもので、半導体における負性抵抗とは本質的に異なりますが、例えば、超伝導体をベースとした量子コンピュータに組み組むことで新しい機能が付与できる可能性があります。また表面弾性波のような周期的な外場を駆動することで、超伝導状態と負抵抗状態を自由に変調できるフロッケ・エンジニアリングへの応用も期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年8月22日(土)午前3時(日本時間)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:"Negative resistance state in superconducting NbSe2 induced by surfaceacoustic waves"
著者名:Masahiko Yokoi, Satoshi Fujiwara, Tomoya Kawamura, Tomonori Arakawa, Kazushi Aoyama, Hiroshi Fukuyama, Kensuke Kobayashi, and Yasuhiro Niimi
DOI:10.1126/sciadv.aba1377

なお、本研究は、科学研究費(JJP16H05964, JP17K18756, JP19K21850, JP26103002, JP19H00656,JP19H05826)、マツダ財団、島津科学技術振興財団、矢崎科学技術振興記念財団、SCAT研究助成、村田学術振興財団、豊田理研スカラー、加藤科学振興会からの支援の下、行われました。

用語説明

※1 原子層超伝導体
単層グラファイトのように、劈開性のある超伝導物質を、単原子層もしくは数原子層レベルまで薄くしても超伝導性が発現する場合がある。このような物質群は、原子層超伝導体と呼ばれる。本研究で用いたNbSe2やNbS2も原子層超伝導体の1種である。

※2 表面弾性波
物質の表面を伝播する振動モードで、レイリーモードとも呼ばれる。本研究では、圧電基板であるLiNbO3上に、互いに入れ違いになった櫛型の電極を準備し、GHz帯域の交流電場をかけることで、基板の歪みによる波を誘起できる。

※3 負性抵抗
負性抵抗には、大きく分けて2種類あり、抵抗の値自体は、正であるものの、有限バイアス下で電圧の電流に対する微分値が負になるものと、抵抗の値自体がゼロバイアス下で負になるものがあり得る。エサキダイオード(トンネルダイオード)で実現する負性抵抗は、微分値が負になるもので、抵抗の値自体は負にならない。しかし、今回の表面弾性波のように外部から仕事を与えることで、抵抗の値自体が負になり得る。

※4 フロッケ・エンジニアリング
周期的な振動外場をかけることで物理系を制御し、望みの量子状態を実現する方法のこと。

※5 電荷密度波
通常、物質中の原子は規則的に並んでいる方がエネルギー的に安定であるが、ある条件が整うと、わずかに歪んで配列した方がエネルギー的に安定になる。この歪みによって、自由に動けていた電子が動きにくくなり、抵抗が増大する。

参考URL

理学研究科 小林研究室HP
http://meso.phys.sci.osaka-u.ac.jp/index.html

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