自然科学系

2020年8月21日

研究成果のポイント

・高機能材料として期待される一連の希土類水酸化物クラスター※1の簡便合成法を発見
・希土類水酸化物クラスターの合成は、これまで精密な合成条件管理が必要とされていたが、本手法ではイオン結晶を希土類塩溶液に室温で浸すだけで合成が完了する。
・磁気冷凍材料※2や不均一触媒※3としての利用が期待される。

概要

大阪大学大学院理学研究科の今野巧教授、吉成信人准教授、山下智史助教、中澤康浩教授、大阪市立大学の田部博康特任講師、山田裕介教授らの研究グループは、一連の希土類水酸化物クラスターの簡便な合成法を世界で初めて発見しました。

希土類水酸化物クラスターは、これまで、特別に設計された有機物を使用し、厳密な反応条件管理下での溶液合成が必須となっていました。

今回、今野教授らの研究グループは、以前に同グループが開発した水和カリウム超イオン伝導体結晶※4を希土類イオン溶液に浸すだけで、結晶性を保ったまま結晶内部にキュバン構造※5を持つ希土類水酸化物クラスターが形成されることを明らかにしました(図1)。得られた結晶は、希土類クラスターに特有な磁気冷凍効果および不均一触媒活性を示すことも確認されました。今回示した結晶内でのクラスター合成法は、大掛かりな化学合成設備を必要としない機能性希土類材料の合成手法として有望と考えられます。

本研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に、8月13日(木)に公開されました。

研究の背景と内容

希土類水酸化物クラスターは、分子中に多数の希土類イオンが集積していることから、磁性材料、発光材料、触媒材料などとしての応用が報告されています。しかしながら、希土類イオンは幾何構造が容易に変化するため、希土類イオンの位置を制御するように特別に設計された有機物を利用し、かつ、pH、反応比、反応温度を制御した上での溶液合成が必須となっていました。一方、錯体化学の分野では、予め合成した配位高分子※6等の結晶に対して化学反応を行い、結晶状態を保ったまま新しい化合物に変換する、「合成後修飾※7」と呼ばれる手法が幅広く研究されてきました。

図1 希土類水酸化物クラスターの結晶内合成の模式図

今野教授らは、2018年に、カリウムイオンが結晶中で極めて高い運動性を示す「水和カリウム超イオン伝導体結晶(K6[Rh4Zn4(L-cys)12O]·nH2O)」を開発したことを報告しています。

今回、今野教授らの研究グループは、この結晶中のカリウムイオンを希土類イオンに交換することを目的として、酢酸ルテチウム(Lu(CH3COO)3)の溶液にイオン伝導体結晶を浸す実験を実施しました。その結果、イオン伝導体との電荷バランスから想定される2個ではなく、4個以上のLu3+イオンが結晶中に導入されることを見出しました。さらに、単結晶X線構造解析※8を行うことにより、得られた結晶には、キュバン構造を有する希土類水酸化物クラスター([Lu4(OH)4(CH3COO)3(H2O)9]5+)が形成されていることが判明しました。

反応前後で、イオン伝導体結晶の骨格構造には変化がなく、合成後修飾反応により、このクラスターが導入されています。当該イオン伝導体結晶は、反応前は水溶性を示しますが、クラスター導入後は、不溶性の配位高分子へと変化しています。この反応は、Lu3+イオンとイオン伝導体結晶の反応比の調整を必要とせず、単に、室温において結晶を溶液に浸すだけで進行するものであり、既存の希土類水酸化物クラスターの合成よりも大幅に簡素化されています。

高輝度光科学研究センター(JASRl)の大型放射光施設SPring-8の共同利用施設(BL02B2)での粉末X線回折※9により、希土類イオンのうち、イオン半径の小さいGd3+, Tb3+, Dy3+, Ho3+, Er3+, Tm3+, Yb3+, Lu3+の8種類の元素についてキュバン構造が形成されることが確認されました。これらの結晶は、リン酸エステル類※10の分解を促す不均一触媒として働くほか、Gd3+をもつ結晶は磁場変化により2.6Kから1.8Kへと冷却されることが確認され、磁気冷凍材料としても機能することが確認されました。

図2 合成された希土類水酸化物クラスターの構造

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、複雑な構造をもつ有機物の使用や精密な合成条件の設計を行わずとも、イオン結晶を用いた結晶内合成により、希土類水酸化物クラスターを簡便かつ効率よく合成できることが示されました。今回提示した結晶内合成法が、高機能希土類クラスター材料の合成手法の新しい選択肢として加わると考えられます。

特記事項

本成果は、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」(研究総括:山本尚 中部大学教授)、研究課題名:「新物質観をもつイオン性固体の創製と新機能創出を導く錯体分子技術の開拓」 (研究代表者:今野巧 大阪大学教授、研究期間:平成25年10月~令和2年3月)、および日本学術振興会 科学研究費助成事業(研究代表者:今野巧 大阪大学教授、研究期間:平成30年4月~令和3年3月、研究代表者:吉成信人 大阪大学准教授、研究期間:平成31年4月~令和4年3月)の支援を得て実施されました。

ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に、8月13日(木)に公開されました。
DOI:10.1002/anie.202008296

用語説明

※1 希土類水酸化物クラスター
希土類元素は周期表の3族に分類される元素を指し、通常、3価の陽イオンとして存在します。酸素原子と強い結合を形成することが知られています。2つ以上の希土類イオンと水酸化物イオン(OH-)からなる分子を、希土類水酸化物クラスターと呼びます。希土類イオンが集まることにより、優れた固体機能性を示すことが知られています。

※2 磁気冷凍材料
物質に加えられる磁場を減少させた際に、外部から吸熱する効果を、磁気冷凍効果と呼びます。コンプレッサーや冷媒を必要としないという利点が存在し、極低温を達成するための冷却方法としても利用研究されています。

※3 不均一触媒
化学反応を加速するものを一般に触媒と呼びますが、特に、固体の触媒を不均一触媒と称します。反応後に、反応溶液から触媒を回収することが容易であることが利点ですが、溶液中に分散する触媒(均一触媒)よりも反応効率が下がる点が課題とされます。

※4 水和カリウム超イオン伝導体結晶
今野教授らの研究チームが開発した、L-システイン(L-H2cys)、ロジウムイオン、亜鉛イオン、カリウムイオン、水分子から構成される化合物(K6[Rh4Zn4(L-cys)12O]·nH2O)で、水和カリウムイオンの自由運動に基づく極めて大きなイオン伝導率を室温で示す結晶性材料です。2018年11月2日大阪大学プレスリリース「世界初!水和カリウムイオンによる超イオン伝導を発見」をご参照ください。 http://osku.jp/r0640

※5 キュバン構造
8つの原子が立方体状に配列した構造をもつ分子の形状を指します。今回の希土類水酸化物クラスターの場合、4つの希土類イオンと4つの水酸化物イオンが交互に配列したキュバン構造を形成しています。

※6 配位高分子
金属イオンと有機物や無機物(配位子)が配位結合により無限に結合した化合物を指します。金属-有機構造体(MOF)などと称されることもあります。

※7 合成後修飾
一度合成した化合物、特に固体として単離した化合物に対して、化学反応を施し、別の化合物へと変化させる手法です。無機化学の分野では、古くから研究が進められ、近年では配位高分子を用いた合成後修飾反応が広く研究されています。

※8 単結晶X線構造解析
結晶性物質にX線が照射されると、様々な方向にX線が回折されます。この回折の方向や強度は、結晶内部の電子密度分布の情報を含んでいるため、これを解析することにより、結晶中の分子構造を決定することができます。金属錯体の場合、単結晶試料を用いたX線構造解析が一般的です。

※9 粉末X線回折
結晶性物質にX線を照射した際、物質により固有の角度でX線が回折されます。この性質を利用して、粉末状の検体に対して、物質の種類、純度、粒子径などを調査する手法が粉末X線回折です。

※10 リン酸エステル類
殺虫剤や除草剤といった農薬として利用されている化合物です。農薬散布後の空気中、あるいは残留農薬として農作物中や土壌中に残存するリン酸エステルを効率的に分解する方法が求められています。

研究者のコメント

分子性結晶においては、一般に、結晶内化学反応の過程で結晶の品質が低下するため、精密な固体構造の決定に至るまで、様々な試行錯誤を要しました。最終的には、大型放射光施設SPring-8およびPAL(韓国、浦項市)を利用した実験を行うことにより、研究成果発表に至りました。

参考URL

理学研究科 今野研究室HP
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/konno/index.html

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