工学系

2019年7月10日

研究成果のポイント

・独自のナノ構造作製技術により、10nmオーダーのナノ立体構造体の作製と伝導特性評価を実現。
・ナノサイズ化したマグネタイトでは転移特性が失われるという通説を覆し、欠陥などの外的擾乱因子を除いた純粋なマグネタイトは、優れた伝導特性(転移特性)を示すことを発見。
・固体物理の最も重要な未解決問題の1つであるマグネタイトの金属-絶縁体転移の機構解明が期待。
・10nmサイズでも動作可能な強相関ナノエレクトロニクス、スピントロニクスへの展開の可能性。

概要

大阪大学産業科学研究所のルパリ・ラクシット特任助教(研究当時)、服部梓助教(研究当時 JSTさきがけ研究者兼任)、田中秀和教授の研究グループは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の、内藤泰久主任研究員、島久主任研究員、秋永広幸総括研究主幹と共同で、三次元方向全てが10nmサイズを持つ強相関酸化物※1であるマグネタイトFe3O4※2のナノ構造体の作製を実現し、極微ナノ試料において初めて相転移特性を観察しました(図1)

マグネタイトは金属-絶縁体転移(フェルベー転移)※3によりその電気伝導度が大きく変わることが知られており、基礎、応用の両面から注目されている材料です。これまでマグネタイトはナノサイズ化すると、欠陥の密度上昇により相転移が消失すると報告されていました。しかし、服部助教らのグループの持つ高品質なナノ構造体を作製できる技術と産業技術総合研究所の10nmの微小間隙(かんげき)を有する電極作製技術を組み合わせることにより、ナノ構造化を実現し、mm-μmサイズの大きなサイズの試料よりも欠陥密度が低く、マグネタイトが本来持つ優れた転移特性を引き出せることを実証しました。これにより、固体物理の最も重要な未解決問題の1つであるマグネタイトの金属-絶縁体転移の機構解明や、10nm以下のサイズでも動作するナノエレクトロニクスデバイスへの展開が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Nano Letters」に、7月9日に公開されました。

図1 研究の概要:独自のナノ細線作製技術とナノギャップ電極によりFe3O4の10nm領域での相転移を初観察。ナノ空間の抽出により、欠陥密度が低く、マグネタイト本来の優れた転移特性が現れることを解明。

研究の背景

マグネタイト(図2)は金属-絶縁体転移によりその電気伝導度が100倍以上変わることなどから、80年以上に渡り精力的に基礎学術研究が行われてきました。また、ナノエレクトロニクス展開を目的として、ナノ細線、ナノ粒子など様々な手法でナノ構造化が進められてきました。しかし、これまではナノ構造化(サイズ減少)により転移の消失や、抵抗変化率の低下が報告されており、ナノ構造体での優れた転移特性の観察は難しいと考えられていました。その理由として、マグネタイトで特徴的にみられるアンチフェイズバウンダリー(異相境界)※4などの欠陥が挙げられます。欠陥の多くはサブ-数ナノメートルサイズであるため、ナノ構造体ではサイズの大きい薄膜試料などに比べて欠陥の影響を大きく受け、転移特性など物性が低下していました。

服部助教らのグループでは、単結晶化した3次元ナノテンプレート基板の側面を起点とし、nm精度でサイズを制御したナノ構造作製手法(3次元ナノテンプレートPLD法(pulse laserdeposition:パルスレーザー堆積法))を開発し、高品質なナノ構造体を実現してきました。この手法によりマグネタイトで欠陥が少なく、優れた転移特性を示すナノ構造体を実現しました。作製したナノ構造体にも欠陥は存在しますが、欠陥の少ない領域を選び出すことで、薄膜試料よりも5倍以上変化率が上昇することを発見しました(図3)。これはマグネタイトの本来持っている特性が、欠陥(主にアンチフェイズバウンダリー)の影響を受けずに抽出できたためです。

さらに、今回の成果によって、高品質なマグネタイトのナノ構造体の実現により、マグネタイトの相転移の起源といわれているトライメロン※5という準粒子のサイズなどの正確な見積もりを可能としました。トライメロンの生成・消滅はマグネタイトの相転移と直結しているため、そのダイナミクスを理解することが重要です。これまで主流であった薄膜などの大きなサイズの試料では、非常に小さいトライメロンの情報は平均化されて埋没してしまいますが、今回実現した高品質なナノ構造体での研究により新たな情報が得られ、フェルベー転移の機構の理解を可能にすると期待されます。

図2 マグネタイトの構造

図3 ナノ細線試料での優れた転移特性。同じ作製条件の薄膜試料より5倍以上の変化率を示すナノ構造体を作製できた。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、固体物理の最も重要な未解決問題の1つであるマグネタイトの金属-絶縁体転移の機構解明へとつながります。また、10nmサイズでも動作可能な強相関ナノエレクトロニクス、スピントロニクスへの展開が可能となると期待されます。今回用いたナノ構造作製技術はマグネタイト以外の物質群にも適応可能で、ナノ物性物理、ナノテクノロジー技術の発展へ幅広い応用が見込まれます。

特記事項

本研究成果は、7月9日に米国科学誌「Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Three-dimensional Nanoconfinement Supports Verwey Transition in Fe3O4 Nanowire at 10 nm LengthScale”
著者名:Rupali Rakshit, Azusa N. Hattori, Yasuhisa Naitoh, Hisashi Shima, Hiroyuki Akinaga, and Hidekazu Tanaka
DOI: 10.1021/acs.nanolett.9b01222

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」研究領域における研究課題名「遷移金属酸化物のナノ空間3次元制御による省エネルギー駆動機能選択的相変化デバイス創製」(研究者:服部梓)の一環として行われました。また、本研究の一部は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(Grant Numbers 16H06011, 26246013)の助成を受けて行われました。

用語説明

※1 強相関酸化物
主に3d遷移金属で構成される金属酸化物で、物質の中で電子同士の間に働く有効なクーロン相互作用が強いもの。電子・スピン・軌道の秩序状態は僅かな摂動(温度、磁場、キャリア濃度)で融解し、相転移を起こす。相転移に付随して、電気的、磁気的、光学的に劇的な変化を示す物質群。

※2 マグネタイト(Fe3O4)
マグネタイトは古代ギリシア時代から既に知られており、磁石(magnet)の語源になった物質。図2のような逆スピネル型の結晶構造を持ち、酸素を中心とする八面体頂点の半分にFe2++イオンが(Aサイト)、残りの八面体頂点の半分と四面体頂点にFe3++イオンが配置している(Bサイト)。複雑な電荷秩序状態から基礎研究の対象物質として80年以上に渡り精力的に研究されているだけでなく、スピントロニクス応用などの観点でも注目されている。

※3 金属-絶縁体転移(フェルベー転移)
温度によって水が氷に変化するように、同じ物質でありながら金属⇔絶縁体と相変化すること。主に温度変化によって引き起こされる。マグネタイトでは1939年にフェルベー(Verwey)によって発見されたことから、フェルベー転移と呼ばれ、バルク試料では123Kで起こる。

※4 アンチフェイズバウンダリー(異相境界)
結晶中で原子の配列に関する位相がずれている境界。二元合金の規則相で頻繁に現れることが知られている。マグネタイトの場合は、格子定数a(=0.840nm)に対しa/4分の位相がずれたアンチフェイズバウンダリーが形成され、アンチフェイズバウンダリーの平均間隔は約50nmと報告されている。

※5 トライメロン(trimeron)
低温の絶縁体状態で形成される電荷の秩序状態を構成している準粒子。3つのBサイトFe原子上に非局在化した電子からなる三量体で、1つのFe2++と2つの隣接するFe3++から構成され[Fe3++-Fe2++-Fe3++]と記述される。高温の金属状態ではトライメロンは存在しないため、トライメロンの破壊/生成のダイナミクスが、マグネタイトのフェルベー転移の機構解明の鍵であると考えられる。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 産業科学ナノテクノロジーセンター ナノ機能材料デバイス研究分野 田中研究室
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bis/

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