自然科学系

2020年10月20日

研究成果のポイント

・これまで現象が複雑すぎるため長い間実現していなかった強相関金属酸化物※1のナノ相転移特性解明を、独自のナノ立体造形技術でのナノ構造試料の実現により達成
・機能増大化したナノ材料の開発、また高感度センサ、低消費駆動急峻応答スイッチなど現行の半導体デバイスより2桁以上効率を増大化したナノデバイスへと展開
・第25回日本女性科学者の会奨励賞を受賞

概要

大阪大学産業科学研究所の服部梓准教授らの研究グループは、世界最高精度の立体ナノ造形技術を駆使して強相関金属酸化物のナノメートル(10-9m)領域で発生する相転移特性の解明に取り組んでいます。強相関金属酸化物はわずかな外部刺激で金属-絶縁体転移※2を起こし、巨大な抵抗変化を示すことから将来の高速スイッチング・メモリ材料として注目されていますが、相転移発現機構が複雑であるなどの理由から研究があまり進んでいませんでした。服部准教授らは、「試料サイズを対象とする物性の起源であるサイズまで微細化することで物性発現の最小単位にアクセスできるという一見単純に思えますが、実現には高度な技術を必要とするアプローチで、強相関金属酸化物の金属絶縁体相転移特性(MIT)の起源解明を実現するに至りました。

世界最高精度のナノ立体造形技術によって、未踏であった50nmサイズの強相関金属酸化物ナノ構造体の作製を実現し、物性起源にアクセスすることで、物性発現最小単位である数十nmサイズのナノ電子相の直接計測(図1)を達成し、一次相転移特性、転移点の分布などのナノ相転移特性を実験的に初めて解明しました。これは、2019年7月にNano Latters誌に発表された「定説覆す発見!10nmサイズの高品質マグネタイト作製で明らかに」(A. N. Hattori et al., Nano Lett., 19 (2019) 5003)に引き続く成果で、最新の研究成果は2020年7月のCrystals誌に掲載されました。(A. N. Hattori et al., Crystals (2020) 10, 631)。

本研究成果などから服部梓准教授は、第25回日本女性科学者の会奨励賞を受賞しました。この賞は、広く理系の分野において研究業績をあげ、その将来性を期待でき、かつ同会の趣旨に賛同し、その達成のために努力していると認められる会員に与えられます。日本女性科学者の会は、「女性科学者の友好を深め研究分野の知識の交換を図り、その地位向上を目指すとともに、女性と男性がともに個性と能力を発揮できる環境とネットワークの構築を推進することで、社会と世界の平和に貢献すること」を目的にしています。

図1 (a)50nm線幅(La,Pr,Ca)MnO3ナノ細線と薄膜(挿入図)の抵抗変化。(b)実験的に解明したナノ電子相MIT特性分布。

研究の背景

試料をナノメートルサイズまで縮小すると、よく知られている量子効果以外にも新たな物性変化が発現します。これはバルクや薄膜と言ったマクロサイズの試料中では埋没(平均化)していた性質が顕在化するなど、ナノ領域での特異構造に起因する特性が現れるためです。強相関金属酸化物では、これらのナノ領域での特性は議論されながらも、複雑すぎるなどの理由で本質に迫る研究が実現していませんでした。服部准教授らのグループは、独自の3次元ナノ構造創製技術を開発し、多様な機能性酸化物材料に対して50nm以下サイズで完全位置制御3次元ナノ構造体(図2)の作製を実現してきました。これらの位置・形状・サイズを規定した立体ナノ構造体の創製が可能なのは当該グループのみである独創的なものです。これにより強相関金属酸化物の物性起源であるナノ電子相ドメインの閉じ込め(隔離)を可能とし、単一ナノ電子相の金属-絶縁体転移特性の計測に成功してきました。

図2 実現した金属酸化物の3次元ナノ立体構造:
(a)ナノボックス、(b)ナノ細線、(c)エピタキシャルナノ細線、(d)ナノ狭窄、(e)ナノ多層細線。

本研究成果が社会に与える影響

強相関酸化物という動的不均質系でのデバイスの実現は、終焉が見えつつある0/1応答するシリコンの代替だけではなく、相転移現象を利用した多値応答(0, 1, 2…., n)かつ選択的な機能創出という知能デバイス(脳型チップ)への展開が期待できます。また、ナノ構造と物性の関係の解明は、ナノ物性物理学術分野の発展だけでなく、その特異性を安定化させる機能活性化の方法論を確立することで、機能活性化した材料の開発、また高感度センサ、低消費駆動急峻応答スイッチなど現行の半導体デバイスより2桁以上効率を増大化したナノデバイスの具現化として産業界に貢献できるものです。

用語説明

※1 強相関金属酸化物
主に3d遷移金属で構成される金属酸化物で、物質の中で電子同士の間に働く有効なクーロン相互作用が強いもの。電子・スピン・軌道の秩序状態は僅かな摂動(温度、磁場、キャリア濃度)で融解し、相転移を起こす。相転移に付随して、電気的、磁気的、光学的に劇的な変化を示す物質群。

※2 金属-絶縁体転移
温度によって水が氷に変化するように、同じ物質でありながら金属⇔絶縁体へと相変化する事。温度や磁場変化、キャリア注入によって引き起こされる。

参考URL

産業科学研究所 服部研究室HP
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/tdn/index.html

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