工学系

2019年6月27日

ポイント

・大阪大学先導的学際研究機構(機構長:八木 康史(やぎ やすし))と、北海道興部町(おこっぺちょう)(町長: 硲一寿(はざま かずとし))は、6月26日に連携協定を締結。
・同機構大久保敬教授らの研究グループが開発した、メタンガスを液体燃料のメタノールとギ酸へ変換する技術を用いて、バイオガスからメタノールを製造する技術の開発並びに実用化検討を共同で実施。
・乳用牛などの家畜ふん尿から得られるバイオガス中に含まれるメタンガスを、二酸化塩素を反応剤とすることで常温・常圧で有用化学物質へ変換する技術開発を共同で推進。
・興部町では、従来、バイオガスから得られるメタンガスをガス発電で事業化していたが、売電以外の方法による事業化のため、バイオガスの新規有効利用方法を模索していた。

概要

北海道興部町の興部北興バイオガスプラントと大阪大学が開発したメタン酸化技術を利用して、バイオガスに含まれているメタンガスから有用な化学物質であるメタノールやギ酸を製造する実証試験を実施します。

北海道興部町では、現在560頭分の家畜ふん尿から年間54万立米のバイオガス※1を得ることのできる興部北興バイオガスプラントを運営しています。ここで得られるバイオガスの約60%に含まれているメタンガスは現在発電に利用していますが、さらなる産業的有効利用法の開発を大阪大学と共同して実施します。

大阪大学高等共創研究院・先導的学際研究機構の大久保敬教授らの研究グループは、常温・常圧で空気とメタン※2からメタノール※3を作り出すことに世界で初めて成功し2018年2月に発表しています(図1)。これまでメタンガスからメタノールへの酸化反応は、化学反応のため最も高難度で、世界中の化学者が挑戦してきた夢の反応でした。これは、空気中でメタンを酸化させると、二酸化炭素や一酸化炭素を与える燃焼反応が優先して起こってしまうためであり、これまで当該研究の開発は困難を極めていました。

大久保教授らの研究グループは、二酸化塩素※4に光照射※5することによって得られる化学種をフルオラス溶媒※6中でメタンガスと空気を作用させることにより、ほぼ100%の収率で液体燃料であるメタノールとギ酸へCO2排出無しで変換できることを発見しています。

この化学反応技術はバイオガス中に含まれるメタンガスにも適用可能で、本協定により、バイオガスから産業的に有用な液体燃料を簡便に製造できることが期待されます。

図1 二酸化塩素によるバイオガス中に含まれるメタン酸化の反応式

連携協定締結の背景

北海道興部町の興部北興バイオガスプラントでは560頭分の家畜ふん尿のバイオガスから得られるメタンガスをガス発電で事業化していましたが、売電以外の方法による事業化のため、バイオガスの新規有効利用方法を模索していました。2018年10月に興部町長らが大阪大学を訪問し第1回の会合を開き、大阪大学側から興部町を視察するなど複数回議論を交わしました。その結果、興部北興バイオガスプラント、オホーツク農業科学研究センター、大阪大学先導的学際研究機構にて共同で実証試験が可能であると考え、両者で協定を締結するに至りました。

技術の内容

これまで、メタンの酸化方法についての報告は数例ありましたが、高温・高圧を必要とし、酸化剤は過酸化水素や一酸化二窒素などを使用するものでした。省エネルギー化の観点から常温・常圧の反応系が望まれており、さらに酸化剤は安全で無料の空気中の酸素を用いることが理想です。

大阪大学の研究グループでは、除菌・消臭剤の有効成分として知られている二酸化塩素の特異な反応性に着目して、光照射下、常温・常圧、かつ酸素による、メタンガスからメタノールへの酸化法の開発に成功しました。メタノールの収率は14%に達し、それ以外にもギ酸が85%得られるのでほぼ100%のメタンガスが二酸化炭素の排出なしに有用な液体化学物質に変換されます。

メタンは化学的に極めて安定な物質なので、メタンを酸化するためには、非常に強力な酸化剤を必要とします。しかし、メタンに比べ生成物のメタノールの方がより簡単に酸化されるためにメタノールとして取り出すことができず、メタノールが酸化された二酸化炭素や一酸化炭素に速やかに変換されてしまいます。

大阪大学のこの技術は、メタンからメタノールの空気酸化の科学技術開発において画期的なものであり、メタン酸化の収率はこれまで知られている別の酸化剤を使用した場合と比べても世界最高値を示しています。これにより、貴重なバイオガス資源を有用な液体燃料に容易に変えることができ、これまでに困難であった様々な酸化反応開発の課題解決に向けて重要なステップとなることが期待されます。

北海道興部町の興部北興バイオガスプラント、オホーツク農業科学研究センターの概要

興部町は酪農・漁業を基幹産業とするオホーツク海沿岸の町です。地域に存在するバイオマス資源を活用した産業創出とまちづくりを目指すバイオマス産業都市に平成26年3月に認定され、環境にやさしく災害に強いまちづくりを行っています。

酪農業は、家畜から出るふん尿を有機資源(肥料)として農地還元し飼料を生産する循環型農業を営んでいます。このバイオガスプラントは、家畜ふん尿をメタン発酵させ良質な肥料である“消化液”を生産する施設であり、この消化液は牧草地への負荷軽減による生乳生産量の向上やCO2削減、生活環境の改善などが期待されています。日本の生乳生産を支えていくうえで非常に大きな意味を持っており、町はもとより北海道で広く普及しております。

興部町内では、平成18年、平成27年に町内酪農家による個別型バイオガスプラントが稼働開始。平成28年には町営の興部北興バイオガスプラント(図2)が稼働開始し、3基のプラントにより町内で発生する乳牛ふん尿の約20%が処理されております。

興部北興バイオガスプラントでは、消化液が与える効果検証や、多様なバイオマス資源の受入(町内で発生する下水汚泥、生ごみ、食品加工残渣)、発生するエネルギーの有効活用に向けた研究を進め、バイオガスプラントの普及に努めています。

また、土壌、植生、飼料等の分析を担う町営の農業研究機関であるオホーツク農業科学研究センター(図3)では、多面的な視点による分析を行い、バイオガスプラントと合わせて基幹産業である酪農業の基盤強化に取り組んでいます。

図2 北海道興部町の興部北興バイオガスプラント

図3 オホーツク農業科学研究センター

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

・北海道興部町(人口約3800人)の興部北興バイオガスプラントでは酪農牛560頭のふん尿から年間54万立米のバイオガスを得ていますが、本コア技術を活用すると約80トンのメタノールと400トンのギ酸が得られる試算。
・更には全国の乳用・肉用牛135万頭から得られるふん尿で試算すると350万トン(約1700億円)のメタノールに相当し、日本の総使用量の約2割を賄うことができる。
・メタノールと同時に得られるギ酸は、乳牛の飼料であるサイレージを生産する際に添加剤として使用されており、飼料生産においても酪農業に貢献する技術である。
・発展途上国の非電化地域や電力供給不安定地域への燃料供給に貢献する技術となる。
・電力系統が脆弱な国内地域でのバイオガスプラント普及に貢献する技術となる。

メタンガスは燃料として火力発電や都市ガスとして使用されていますが、本研究成果により、メタノールなどの液体燃料へ容易に変換ができれば、運搬がしやすくなるだけでなく、自動車燃料などとして従来のインフラで流通させることも出来ます。

また、燃料電池プラントと組み合わせることが出来れば、理論上エネルギー効率は最大になると考えられています。具体的には、経済産業省が現在推進している高温ガスタービンの開発では、エネルギー効率の理論値は84%、現状では57%となっています。一方、アルコールによる燃料電池のエネルギー効率は理論的には最大96%であるので、アルコール製造の過程のエネルギーを極限まで抑えることができれば、現状値を大幅更新することが期待できます。

メタンの酸化反応は最も難しい化学反応の一つと言われています。すなわちこの反応方法を応用すれば、全化学工業プロセスの約30%を占めている酸化反応プロセスの大半を本反応あるいは関連反応によって置き換えることが可能になります。また酸化反応プロセスの多くは、重金属触媒・酸化剤を使用するため、その廃棄処理に多大なコストを必要としていました。本研究成果の酸化反応では、廃棄物は塩化ナトリウム(食塩)のみなので環境にも非常に優しく、常温・常圧プロセスであることから低エネルギーな化学反応の実現に繋がることが期待されます。

なお、大阪大学における研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)エネルギー環境新技術先導プログラム「CO2フリー革新的超高難易度酸化反応の研究開発」の一環として行われ、大阪大学大学院薬学研究科土井健史教授、井上豪教授、株式会社dotAqua社、株式会社エースネット社の協力を得て行われました。北海道興部町の興部北興バイオガスプラントは、平成27・28年度農林水産省「農山漁村6次産業化対策事業」及び北海道「地域づくり総合交付金事業」により整備されました。

用語説明

※1 バイオガス
バイオ燃料の一種で、生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚泥、汚水、ゴミ、エネルギー作物などの発酵、嫌気性消化により発生するガス。

※2 メタン
天然ガスの主成分。最近日本近海に大量のメタンハイドレートが存在することが判明し、その掘削技術の開発が政府主導で進められている。

※3 メタノール
別名メチルアルコール。燃料や溶剤などとして広く使用されている。また、フェノール樹脂、接着剤、酢酸などの基礎化学品の原料である。最近では、直接メタノール燃料電池の実用化が期待されている。しかし、その合成は高温・高圧を要することが問題となっている。

※4 二酸化塩素
塩素と酸素原子から構成される化学物質(ClO2)。市販の除菌・消臭剤の有効成分であることが知られており、亜塩素酸ソーダから容易に作り出すことが出来る。

※5 光照射
反応容器に光を当てること。光源は、太陽光、室内光、電灯、LED灯などが利用可能で有り、光の強さが大きいほど反応効率は上がる。

※6 フルオラス溶媒
炭素とフッ素原子のみから構成される溶媒。電子機器の洗浄などに使用されている。

参考URL

大阪大学 高等共創研究院 大久保研究室
http://www.irdd.osaka-u.ac.jp/ohkubo/Ohkubo_Lab/Top.html

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