工学系

2017年12月11日

研究成果のポイント

・メタンガスを空気燃焼による二酸化炭素排出無しで液体燃料のメタノールとギ酸へ変換。二酸化塩素を反応剤とすることで常温・常圧でメタン酸化がほぼ100%の収率で可能に。
・従来はメタンガスは空気燃焼によって二酸化炭素や一酸化炭素に変換され、途中に生成するメタノールやギ酸などの有用物質を得ることは不可能であった。
・貴重な天然炭素資源の飛躍的な有効活用や、日本近海に豊富に埋蔵しているメタンハイドレートなどを活用することによってエネルギー問題解決に向け大きく前進。

概要

大阪大学高等共創研究院・先導的学際研究機構の大久保敬教授らの研究グループは、常温・常圧で空気とメタン※1からメタノール※2を作り出すことに世界で初めて成功しました(図1)

これまでメタンガスからメタノールへの酸化反応は、化学反応のため最も高難度で、世界中の化学者が挑戦してきた夢の反応でした。これは、空気中でメタンを酸化させると、二酸化炭素や一酸化炭素を与える燃焼反応が優先して起こってしまうためであり、その研究開発は困難を極めていました。

今回、大久保教授らの研究グループは、二酸化塩素※3に光照射※4することによって得られる化学種をフルオラス溶媒※5中でメタンガスと空気を作用させることにより、ほぼ100%の収率で液体燃料であるメタノールとギ酸へ変換できることを発見しました。これまで、大部分が燃焼による熱エネルギーとして消費されていたメタンガスが、これにより有用な化学物質へ変換できる方法が確立されたこととなります。

本研究成果により、貴重な天然炭素資源の飛躍的な有効活用、および、エネルギー問題解決に繋がる技術となることが期待されます。

本研究成果は、ドイツの化学誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に、12月11日(月)20時(日本時間)に公開されました。

図1 メタンからメタノールおよびギ酸を製造するプロセスの模式図。メタンと空気、二酸化塩素からメタノールとギ酸が合成される。反応はフルオラス溶媒で起こり、その後生成物は水中に濃縮される。

研究の背景

近年、メタンハイドレートやシェールガスなどの非在来型天然ガス資源が注目を浴びています。その掘削技術の開発・進展に伴い、今後産出量が顕著に増大することが予想されています。従って、メタンやエタンなどの低級アルカンを多く含む天然ガスの有効利用法の開発は、一刻を争う重要研究課題となっています。

日本近海には日本人が使う天然ガスの100年分以上のメタンハイドレートが埋蔵していると言われており、これを有効に掘削することが出来れば日本は資源大国となります。しかし、これまでメタンを燃焼する際の途中の化合物であるメタノールなどへ直接酸化する方法は未だ見いだされておらず、メタンを有用な化成品に変換、すなわち酸化する次世代の技術の構築が喫緊に必要となると言われています。

研究の内容

これまで、メタンの酸化方法についての報告は数例ありましたが、高温・高圧を必要とし、酸化剤は過酸化水素や一酸化二窒素などを使用するものでした。省エネルギー化の観点から常温・常圧の反応系が望まれており、さらに酸化剤は安全で無料の空気中の酸素を用いることが理想です。しかし、常温・常圧、あるいは分子状酸素による酸化法は未だ達成されていませんでした。

本研究では、除菌・消臭剤の有効成分として知られている二酸化塩素の特異な反応性に着目して、光照射下、常温・常圧、かつ酸素による、メタンガスからメタノールへの酸化法の開発に成功しました。メタノールの収率は14%に達し、それ以外にもギ酸が85%得られるのでほぼ100%のメタンガスが二酸化炭素の排出なしに有用な液体化学物質に変換されることが分かりました。

メタンは化学的に極めて安定な物質なので、メタンを酸化するためには、非常に強力な酸化剤を必要とします。しかし、メタンに比べ生成物のメタノールの方がより簡単に酸化されるためにメタノールとして取り出すことができず、メタノールが酸化された二酸化炭素や一酸化炭素に速やかに変換されてしまいます。そこで本研究では、具体的には、図2に示すようなフルオラス溶媒と水の二相反応系を考案しました。このフルオラス溶媒は、メタンや酸素などのガスを多く溶かす性質を持っています。反応の手順は、まず、水中では亜塩素酸ソーダと酸が反応して二酸化塩素が発生します。その後、二酸化塩素はフルオラス溶媒に溶け易いのでここでメタンと反応します。生成物のメタノールやギ酸は、フルオラス溶媒に溶けにくく、速やかに水中に移動するので、これらが二酸化炭素などへ酸化されることなく生成物は次々に水中に濃縮されます。

本研究成果の、メタンからメタノールの空気酸化は世界で初めての例で、メタン酸化の収率はこれまで知られている別の酸化剤を使用した場合と比べても世界最高値を示しています。この研究成果により、貴重な天然炭素資源を扱いやすい液体燃料に容易に変えることができ、これまでに困難であった様々な酸化反応開発の課題解決に向けて重要なステップとなることが期待されます。

図2 フルオラス溶媒と水の二相反応系によるメタン酸化の概略

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

メタンガスは燃料として火力発電や都市ガスとして使用されていますが、本研究成果により、メタノールなどの液体燃料へ容易に変換ができれば、運搬がしやすくなるだけでなく、自動車燃料などとして従来のインフラで流通させることも出来ます。

また、燃料電池プラントと組み合わせることが出来れば、理論上エネルギー効率は最大になると考えられています。具体的には、経済産業省が現在推進している高温ガスタービンの開発では、エネルギー効率の理論値は84%、現状では57%となっています。一方、アルコールによる燃料電池のエネルギー効率は理論的には最大96%であるので、アルコール製造の過程のエネルギーを極限まで抑えることができれば、現状値を大幅更新することが期待できます。

メタンの酸化反応は最も難しい化学反応の一つと言われています。すなわちこの反応方法を応用すれば、全化学工業プロセスの約30%を占めている酸化反応プロセスの大半を本反応あるいは関連反応によって置き換えることが可能になります。また酸化反応プロセスの多くは、重金属触媒・酸化剤を使用するため、その廃棄処理に多大なコストを必要としていました。本研究成果の酸化反応では、廃棄物は塩化ナトリウム(食塩)のみなので環境にも非常に優しく、常温・常圧プロセスであることから低エネルギーな化学反応の実現に繋がることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年12月11日(月)午後8時(日本時間)にドイツの化学誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Light-driven C-H Oxygenation of Methane into Methanol and Formic Acid by Molecular Oxygen Using Perfluorinated Solvent”
著者名:Kei Ohkubo(大久保敬)、Kensaku Hirose(廣瀬健策)

採択論文の審査委員評価上位5%のみに与えられる Very Important Paper(VIP)に選出され、掲載号表紙絵でもハイライトされる予定です。

なお、本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)エネルギー環境新技術先導プログラム「CO2フリー革新的超高難易度酸化反応の研究開発」の一環として行われ、大阪大学先導的学際研究機構 土井健史教授、井上豪教授、株式会社dotAqua社、株式会社エースネット社、大塚電子株式会社の協力を得て行われました。

用語説明

※1 メタン
天然ガスの主成分。最近日本近海に大量のメタンハイドレートが存在することが判明し、その掘削技術の開発が政府主導で進められている。

※2 メタノール
別名メチルアルコール。燃料や溶剤などとして広く使用されている。また、フェノール樹脂、接着剤、酢酸などの基礎化学品の原料である。最近では、直接メタノール燃料電池の実用化が期待されている。しかし、その合成は高温・高圧を要することが問題となっている。

※3 二酸化塩素
塩素と酸素原子から構成される化学物質(ClO2)。市販の除菌・消臭剤の有効成分であることが知られており、亜塩素酸ソーダから容易に作り出すことが出来る。

※4 光照射
反応容器に光を当てること。光源は、太陽光、室内光、電灯、LED灯などが利用可能で有り、光の強さが大きいほど反応効率は上がる。

※5 フルオラス溶媒
炭素とフッ素原子のみから構成される溶媒。電子機器の洗浄などに使用されている。

参考URL

大久保敬ホームページ
http://www-etchem.mls.eng.osaka-u.ac.jp/mlset010/ohkubo/Ohkubo/Top.html

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