自然科学系

2019年3月13日

研究成果のポイント

・物質が有するわずかな磁気力の差異を利用して、希少資源を磁気分離する原理を提案。
・これまで鉄、ニッケル、砂鉄など一部の物質でのみ利用されていた磁気分離が、物質全体に拡大。
・地球外物質などの希少試料で、ロスが少なく、汚染フリーの精密分析が可能に。
・安価で効率の高い装置の導入で、磁気分離の普及が拡大。

概要

大阪大学大学院理学研究科の植田千秋准教授、寺田健太郎教授、大阪府立大手前高等学校定時制の課程教諭久好圭治(本研究科・特任研究員)らの研究チームは、運搬が容易な小型の装置を用いて、固体粒子の混合物から、金、プラチナ、ビスマスなどのレアメタル粒子が抽出できることを、世界で初めて実証しました(図1)

これまで磁気分離の利用は、磁気力が強いごく一部の物質に限られてきましたが、植田准教授らは、一般の物質が有するわずかな磁気力の差異を利用して、上記の分離を実現しました。今回開発した装置は、既存の磁気分離装置に比べ安価なうえに、運搬が容易で、しかも実用化に十分な分離効率を有します。また永久磁石を用いるため、これまでのような大電力も必要としません。今後、分析技術、資源探査あるいは資源リサイクル技術として現場での活用が期待されます(装置の全景は※1を参照)。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、3月8日(金)21時(日本時間)にオンライン公開されました。

図1 一般の物質が有するわずかな磁気力の差を利用してレアメタルを抽出する原理。水平方向の磁場強度は、N極およびS極から遠ざかる方向に単調減少する。

研究の背景および成果

従来の磁気分離は、鉄、ニッケル、砂鉄など、強い磁性を有する一部の物質に限られてきました。これらと比較して私たちの周りに存在する大多数の物質は、格段に磁気力が弱いため、磁気分離の対象にはなって来ませんでした(※2)。しかし精密な測定をすると、これらの物質でも、磁場に反発する磁気力や引き付けられる磁気力がわずかながら発生し、しかもその大きさは、物質ごとに少しずつ異なります(※3)。植田准教授たちはこの性質を利用して、レアメタルの分離・抽出を、小型ネオジム磁石と試料容器のみで構成された装置(図1~図4、※1参照)を用いて試みました。

試料容器は、磁場が一方向に減少する空間に設置し、内部に自然界の様々な物質(即ち土砂、岩石、有機物)からなる粒子の集団をセットします。それらの粒子は、容器底部の穴から一個ずつ落下します。その中で土砂・岩石には、磁場に引き付けられる力を受けるため、落下しながら磁場が増加する方向(右奥方向)へ並進します(図1)。一方、木片などの有機物は磁場に反発する力を受けるため、磁場が減少する方向に並進します。ところが目的とするレアメタルに関しては、上記の物質に比べ磁気力がケタ違いに小さいため、水平方向の力を受けず、垂直に落下します。このようにして落下した粒子を、装置底面に設置したプレートに回収すると、それらは物質の種類ごとの集団に分かれて採集されます。実験の結果、金、銀、プラチナ、インジウム、ビスマスなとのレアメタルは、図4に示すように、試料容器の直下付近で抽出されることが確認されました。

自然界の物質の中では、黒鉛が最も大きい反発の磁気力を有しますが、図4ではその粒子が回収板上に採集されています。一方、地上で採集される岩石は、鉄濃度が概ね1~10モル%の範囲にありますが、回収板上では、それらの岩石も回収され、しかも鉄の濃度差による分離も実現しています。即ち図2に示した小型の永久磁石だけで、自然界に存在する大多数の物質の分離・抽出が、原理的に可能であることが確認されました。

図2 開発した磁気分離装置の平面図

図3 粒子分離の連続写真(図2右側の状態を撮影).

図4 図2の回収板上に付着した粒子試料。スケールのゼロの位置が容器直下に対応。物質ごとの分離が実現していることが確認される。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

①「固体版クロマトグラフィ(※4)」としての新しい分離法の確立

自然科学や産業界の諸分野では、異なる物質からなる粒子集団を分析・評価する必要がしばしば発生します。その場合、始めに粒子集団を物質の種類ごとに非破壊で分離した後、それらの物質を精密分析する技術が望まれます。有機分子の混合液体に関しては、前処理の方法としてクロマトグラフィ技術が導入された結果、有機化学、生化学およびその関連分野で、分析能力が大きく向上しました。しかし、固体粒子でこれを効率よくかつ精密に実施する方法は、まだ確立していません。その意味で、今回の分離技術は、「固体版のクロマトグラフィ」として発展する潜在性を有しています(図5)。今後、分離の性能が図4よりもさらに向上すれば、混合粒子の集団を、物質の種類ごとの集団に完全に分離し、さらに物質の種類を識別することが、全物質で可能となります。なお有機物の固体粒子に関しては、上記の分離に必要な性能がすでに達成され、その成果は2018年度のサイエンス・インカレで発表されました(特記事項2参照)。

図5 固体版クロマトグラフィのイメージ図

②地球外物質の精密分析

上記①の応用例として、地球惑星科学の分野における希少試料の分析が挙げられます。アポロ計画で回収した月表土や、「はやぶさ」および「はやぶさ2」で得られる小惑星表土を、磁性という観点で検討すると、そのほとんどが隕石の衝突によって破砕した磁気力が弱い岩石の細粒です。これらの試料に対する前処理として、重液による比重分離や、溶解/蒸発などの化学処理が用いられてきました。しかしこれらの方法では、処理過程で残留した汚染物質の除去が難しく、希少な試料の大半が消失してしまうなどの問題がありました。今回報告した原理により物質の種類ごとの分離ができる可能性があります(図4プレート左側を参照)。今後、上記の岩石試料に適合した条件に調整することで、汚染フリーで効率のよい粒子試料の抽出が期待されます。

③資源探査、リサイクルへの応用

これまで磁気分離は、磁鉄鉱など強い磁性をもつ一部の資源を原石から抽出するのに威力を発揮してきましたが、今後は同様の手順でレアアースなど、様々な希少資源の抽出にも適応できることになります。前述のように、現存する固体物質は、磁場中で各々固有の磁気力を有するため、目的とする資源材料に特化した形状の磁石を設計したうえで、試掘の現場へ携帯することで、効率よい資源探査が可能となります。

また、今回の装置(※1参照)を改良することにより、資源リサイクルのシステムを現行より簡略化できる可能性があります。即ち、一般市民が各自で選別した資源ゴミを、自宅もしくは近隣に設置した小型磁気分離装置に投入することで、資源粒子を(自身のゴミの中から)回収することが可能となります。(資源の回収例;電子回路中の金導線)

研究者のコメント

単純な装置により分離技術が普及する可能性:
(図1図2)に示すように、今回提案する装置は磁気科学の専門でない人達でも容易に作成できます(※1参照)。そしてこの装置を用いて、各自の作業現場で取り扱う混合粒子に対し、磁気分離の有効性を試すことができます。即ち室内、野外を問わず、多様な現場で発生する粒子分離のニーズに即応可能です。このように既存の大型の磁気分離装置に比べ、一般への普及能率が圧倒的に高く、分離技術の普及に寄与します。この装置は、小学生以上の就学生であれば自作可能であり、さらに自分で採取した試料の分離実験を、自作の装置で実行することができます。これにより、身の回りにある様々な物質の性質が多様であることが実感でき、これは自然科学教育に大きな効果があると考えます。

特記事項

1.本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、3月8日(金)21時(日本時間)にオンライン公開されました。
タイトル:Separation of gold and other rare materials from an ensemble of heterogeneous particles using a NdFeB magnetic circuit
著者:C Uyeda ,K. Hisayoshi, & K. Terada
DOI:10.1038/s41598-019-40618-2

2.本発表の関連研究が、第8回サイエンス・インカレにおいて文部科学大臣表彰(口頭発表部門)を受けました。
発表者:大阪大学理学部生物科学科 3年生 福山紘基
研究テーマ:「磁場勾配による有機物の分別」
文部科学省HP:http://www.mext.go.jp/b_menu/gyouji/detail/1406066.htm
サイエンス・インカレ HP:http://science-i.mext.go.jp/

3.本研究成果は、下記学会にて発表予定です。
日本物理学会第74回年次大会(2019年)
日時:3月14日会場:九州大学伊都キャンパス
講演題目:小型ネオジム磁気回路を用いた反磁性有機結晶の磁気分離と物質同定
講演番号:14pS-PS-65 発表者:植田千秋 久好圭治 寺田健太郎

4.本研究の予備的な実験が、微小重力条件を用いて行われ、その成果がScientific Reports 6, 38431,(2016)に掲載されました。その内容は、国内数社の報道で紹介されました(詳細は※5参照)。

補足説明

※1 開発した装置の全景

※2 磁気力が弱い通常の物質を、磁気ビーズの付加により磁気分離する試みについて
従来、磁気分離は強い磁性をもつ物質だけに有効とされてきたが、近年は磁気ビーズを付加することでこれらの物質の分離・抽出が、部分的に実現しつつある。さらに磁性イオンの付加などによる生体内のドラッグデリバリーも、古くから試みられてきた。このように磁気力が弱い通常の物質は、磁気的作用が微弱であるにも関わらず、その運動を磁場でコントロールしようとするニーズが大きい。そのため現在は大電力を要する強磁場を用いて、様々な技術開発が進められている。従って、同様の機能が、磁性イオンを付加することなく、しかも電力を要しない永久磁石で実現できれば、一般での磁気応用が大きく進展する可能性がある。

※3 磁気力が弱い物質の分類
反磁性体:生体を含む自然界の有機物および工業的に生産される大多数の物質がこれに属する。これらの物質は、鉄などの磁性イオンを含まず、これに代わって物質内に局在する電子の作用で、印加した磁場と逆方向に弱い磁化が発生する(図6)。そのため磁場中で物体は不安定となり、磁場が減少する方向に磁気力が発生する。そして物体が自由に動ける場合、その方向に並進する(図1)。 常磁性体:物質が少量の磁性イオンを含み、それらが強磁性体のように磁気秩序を有さない場合、印加した磁場の方向に弱い磁化が発生する(図6)。そのため磁場中で安定となり、磁場が増加する方向に弱い磁気力が発生する(図1)

図6 物質の主要な磁気的性質

※4 クロマトグラフィ
固定相と呼ばれる物質の表面あるいは内部を、移動相と呼ばれる物質が通過する過程で物質を分離していく手法。固定相には、固体または液体が用いられ、移動相には気体(ガスクロマトグラフィ)や液体(液体ガスクロマトグラフィ)が用いられる(図5)

※5 先行研究の詳細
当グループでは、以前、上記の反磁性体や常磁性体が磁気運動を起こす環境を検討し直し、その結果、微小重力および真空条件での磁気分離を試みた(特記事項4参照)。即ち図7のように、真空密閉した装置の中の磁場空間の一点に、反磁性物質および常磁性物質の粒子の混合物をセットし、その運動を微小重力下で観察した。その結果、同一の初期位置を出発した粒子の混合物は、磁場の内外に向かって並進運動を開始した。それらの粒子は、最終的には物質の種類ごとの集団に分かれて飛行し、分かれた状態のままで回収板に到達した。上記の分離が実現するのは、物質固有の磁気力により、粒子の加速度が一義に決定するためである。逆に、試料が回収された位置から物質固有の磁化率が得られ、その値から物質の種類が推定できる。[Scientific Reports 6, 38431,2016]

ResOU

図7

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 惑星科学グループ 寺田研究室
http://planet.ess.sci.osaka-u.ac.jp/index.html

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