自然科学系

2018年8月8日

研究成果のポイント

・小惑星探査機「はやぶさ」MUSES-C※1が小惑星イトカワ※2から採取した微粒子の局所U-Pb年代分析に成功
・リン酸塩鉱物※3が約46億年前に結晶化し、約15億年前に変成を受けたことを発見
・長年謎であった地球近傍小惑星の歴史に、物質科学的な年代情報を与えた

概要

大阪大学大学院理学研究科の寺田健太郎教授、東京大学大気海洋研究所の佐野有司教授/高畑直人助教らの研究チームは、小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから採取した微粒子中のリン酸塩鉱物の局所U-Pb年代分析を行い、約46億年前に結晶化し、約15億年前に衝撃変成を受けていたことを発見しました。前者は、イトカワ母天体の熱変成年代、後者はカタストロフィックな破砕イベントの年代と解釈できます。長年謎であった地球近傍小惑星の歴史に年代学的な制約を与えました。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に2018年8月7日18時(日本時間)にオンライン公開されました(論文題目「Thermal and impact histories of 25143 Itokawa recorded in Hayabusa particles」)。

研究の内容

小惑星イトカワは、近日点が地球軌道の内側に入る地球近傍小惑星です。地球軌道との最小距離が小さく、大きさも535m×294m×209mであるため、潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)にも分類されています。2003年に打ち上げられた日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、2005年に小惑星イトカワへの着陸を試み、2010年には人類初の小惑星微粒子を地球に持ち帰ることに成功しました(図1図2)。

今回、寺田教授らの研究グループは、直径約50ミクロン※4のイトカワ微粒子中にごく稀に含まれる数ミクロンサイズのリン酸塩鉱物に着目し(図3)、2次イオン質量分析計(SIMS)※5を用い、ウラン(U)と鉛(Pb)の精密同位体分析(U-Pb年代分析)を行いました。238U-206Pb系(半減期44.7億年)、235U-207Pb系(半減期7億年)の2つの放射壊変系を組み合わせることにより、リン酸塩鉱物が小惑星イトカワ母天体の熱変成年代46.4±1.8億年に結晶化し、15.1±8.5億年前に他の天体のインパクトによるショック変成(衝撃変成)を受けたことを、微粒子4粒から明らかにしました(図4)

これまでイトカワ微粒子は、鉱物学的/地球化学的研究から、地球に高い頻度で飛来するLLコンドライト隕石※6グループとの類似性が報告されてきました。しかし、今回得られたイトカワ微粒子のショック年代は、LLコンドライト隕石の大多数で報告されている42億年前のショック年代とは異なっており、小惑星イトカワはLLコンドライト隕石の母天体とは異なる進化史を経験してきたことが明らかになりました。一方、2013年にロシア/チェリャビンスクに落下したタイプのLLコンドライト隕石では約15億年前のショック変成が報告されており、小惑星イトカワとの関連性が明らかになりました。

図1 はやぶさの着陸想像図(illustration; JGarry from Wikipedia)

図2 針先につけたイトカワ微粒子

図3 研磨後のイトカワ微粒子(直径約50μm)

図4 SIMSによる局所U-Pb年代分析の結果

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

小惑星イトカワは、地球軌道との最小距離が小さく、半径も160メートル以上あるため、潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)にも分類されています。しかしこれまで、地球環境に甚大な影響を及ぼす可能性のあるPHAの起源や軌道進化の時間スケールは数値計算から得られたものしかなく、物質科学的な検証は皆無でした(隕石研究では放射年代情報は得られるものの、隕石母天体である小惑星の軌道までは特定できません)。

今回の寺田教授らの研究グループの成果は、人類が初めて小惑星から採取したサンプルに年代学的な制約を与えるもので、軌道のよくわかっている地球近傍小惑星の進化に世界で初めて具体的な数値(絶対年代)を与える知見となります。

今回の寺田教授らの研究グループの結果と、これまでに報告された種々の年代情報をまとめると、小惑星イトカワの歴史は(図5)のようになります。今から46億年前、直径20km以上のイトカワ母天体が小惑星帯で誕生し、今から14-15億年前に壊滅的な衝突イベントを経験しました。その後、破片が再集積して「族」を形成、今から40万年以内に頭部と腹部が合体、その後、地球軌道を横切る軌道へ移動し、現在に至ったと考えられます。数値計算より、地球近傍小惑星の寿命は最大1千万年程度と見積もられており、将来イトカワは地球型惑星に衝突する可能性が高いと予想されています。

2018年夏、小惑星探査機「はやぶさ2」がC型小惑星リュウグウに到達しました。今後小惑星試料を採取し2020年には地球に帰還する予定になっています。今回の我々の多角的な分析体制や、局所U-Pb年代分析技術は、「はやぶさ2」が持ちかえる微粒子の分析にも威力を発揮すると期待されます。

図5 小惑星イトカワの歴史(赤字はイトカワ微粒子の分析から得られた知見)

特記事項

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に2018年8月7日18時(日本時間)にオンライン公開されました。
タイトル:“Thermal and impact histories of 25143 Itokawa recorded in Hayabusa particles”
著者名:K. Terada, Y. Sano, N. Takahata, A. Ishida, A. Tsuchiyama, T. Nakamura, T. Noguchi, Y. Karouji, M. Uesugi, T. Yada, M. Nakabayashi, K. Fukuda, H. Nagahara

本研究は、寺田健太郎(大阪大学)、佐野有司(東京大学)、高畑直人(東京大学)、石田章純(東北大学)、土`山明(京都大学)、中村智樹(東北大学)、野口高明(九州大学)、唐牛譲(JAXA)、上椙真之(JASRI/SPring-8)、矢田達(JAXA)、中林誠(大阪大学)、福田航平(ウィスコンシン大学)、永原裕子(東京大学)によって行われました。

なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(No.17K18805)の一環として行われました。

用語説明

※1 小惑星探査機「はやぶさ」MUSES-C
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2003年5月に打ち上げた工学技術実証探査機。2005年9月に小惑星イトカワとランデブー。その表面を詳しく観測したのち、サンプル採集を試み、2010年6月、地球に帰還した。人類初の小惑星微粒子の直接採取に成功した。

※2 小惑星イトカワ
地球に接近する地球近傍小惑星(地球に近接する軌道を持つ天体)。大きさは535m×294m×209mで、スペクトル型からS型小惑星に分類される。地球軌道との最小距離が小さく、半径も160メートル以上あるため、潜在的に危険な小惑星(PHA)にも分類されている。人類が初めて着陸しサンプルを直接採取した小惑星である。

※3 リン酸塩鉱物
カルシウム(Ca)とリン(P)を主成分とする鉱物。本研究ではイトカワ微粒子中にアパタイト(Ca5(PO4)3(F, Cl, OH))とウィットロカイト(Ca9(MgFe)(PO4)6PO3(F, Cl, OH))の2種類が確認された。いずれも閉鎖温度が高くウラン(U)を濃集する特徴をもつことから、U-Pb放射年代分析に適している。

※4 ミクロン(μm)
1mmの1000分1の長さの単位。

※5 2次イオン質量分析計(SIMS)
数ミクロンに絞った酸素イオンビーム(1次イオン)をサンプル表面に照射し、スパッタされた2次イオンを検出する装置。本研究では東京大学大気海洋研究所のNanoSIMSを用いた。

※6 LLコンドライト隕石
地球に飛来する隕石の約90%を占める普通コンドライト(Ordinary chondrite)の中で、特に鉄が少なく酸化的環境で形成されたタイプ。

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 惑星科学グループ
http://planet.ess.sci.osaka-u.ac.jp/

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