2016年12月8日

本研究成果のポイント

・単純かつ安価な方法で、固体粒子の混合物を、物質の種類ごとに磁気分離する原理を実証
・粒子の磁気運動が発現する実験的環境を実現し、それを用いて砂鉄のように強い磁性がない、どんな物質(反磁性体※1や常磁性体※2)でも、磁気分離できることを実証
・今後、資源探査、資源リサイクル、「固体版クロマトグラフィ※3」などの技術開発への応用に期待

リリース概要

大阪大学大学院理学研究科の植田千秋准教授、寺田健太郎教授、大阪府立大手前高等学校定時制課程教諭 久好圭治(研究当時:招へい研究員)らの研究チームは、小型ネオジム磁石および小型・微小重力発生装置を用いて、固体粒子の混合物を、物質の種類ごとに分離できる事を実証しました。今後、資源探査技術、資源リサイクル技術あるいは「固体版クロマトグラフィ」などの開発への応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、日本時間12月8日(木)19時にオンライン公開されました。

研究の背景

これまで固体物質に関する磁気利用は、強磁性体など、磁気的作用が強い一部の物質のみで行なわれてきました。これに対し現存する物質の大多数は、磁場の作用が微弱な反磁性体や常磁性体に分類されるため、磁場の効果は検討されませんでした。反磁性体は、磁場中で不安定であるため、単調に変化する磁場の中では、磁場が減少する方向に運動する性質を有します(図1)

しかし地球上の条件では、摩擦力や空気抵抗が大きいため、極端な強磁場を作用させない限り、このような運動は起こりません。一方、常磁性体は、(強磁性体同様)磁場が増加する方向に力を受けますが、地上条件では、(上記作用のため)多くの場合、運動は観測されません。そこで当グループでは、上記の反磁性体や常磁性体が磁気運動を起こす環境を検討し、その結果、微小重力(μg)および真空条件での磁気分離を試みました。

図1 単調に変化する磁場中に開放された物体が受ける力を示す概念図

研究の詳細

図2に示すように、真空密閉した装置の中の磁場空間の一点に、反磁性物質および常磁性物質の粒子の混合物をセットし、その運動を、微小重力下で観察しました。その結果、同一の初期位置を出発した粒子混合物は、磁場の内外に向かって並進運動を開始しました。最終的には物質の種類ごとの集団に分かれて飛行し、その状態で回収板に到達しました(図3)。このように分離が実現するのは、物質固有の磁化率※4χに起因する磁気体積力※5により、粒子の加速度aが一義に決定するためです。
a=χH(dH/dx)(詳細は用語解説を参照)

逆に、試料が回収された位置から粒子の磁化率χが得られ、その値から物質の種類が推定できます。図3に示したように、現存する物質の中で最も大きい絶対値をもつ黒鉛の粒子が回収できたことで、全ての反磁性物質の磁気分離が、本装置で実施できることが確認されました。一方、自然界に存在するほとんどの常磁性体は鉄濃度が1~10mol%の範囲にあり、本装置での分離が可能であることがわかりました。即ち、鉄濃度が低い物質は、今まで磁気分離が困難でしたが、それも濃度別に分離できます。

図2 左:微小重力下で粒子の並進運動を観察するための装置 右:落下式の小型微小重力発生システム(μg時間<0.6秒)

図3 図2の回収板上に付着した粒子試料
物質ごとの分離が実現しているのが確認される(5回の実験で再現性確認)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで一般の反磁性&常磁性物質で、顕著な磁気現象が検討されることはありませんでした。しかし近年、磁気浮上効果やアルキメデス効果に見られるように、超強磁場を印加することで、上記の物質にも磁場の作用が及ぶ事が認識されるようになりました。今回、顕著な並進運動が、室内での自由落下という「安価な」μg環境(図2)を利用することで、ネオジム磁石レベルの実用的な低磁場でも達成されることは、注目に値します。これまでは金属鉄や砂鉄などの強い磁性を示す物質に限定されてきた磁場効果の実用化が、今後は物質全体で検討されることが期待されます。以下に、その可能性の具体例を示します。

1.「固体版クロマトグラフィ」としての新しい固体物質分離法の確立
生化学の分野では、溶液中の微量のタンパク質を抽出するのに、クロマトグラフィ技術が広く用いられています。本研究で報告する「固体物質の磁気分離」の原理は、「固体版クロマトグラフィ法」とも言えるイノベーティブな固体物質分離法です。

このような、比重分離や溶解/蒸発などの化学処理を用いず、ロスなく物質を分離/回収できる技術は、貴重な地球外物質の分析前処理法として極めて有効です。例えば、アポロ計画で回収した月表土(レゴリス)や、はやぶさ1が回収した小惑星表土は、メテオロイドの衝突によって破砕した、様々な細粒物質の集合体です(右写真は、アポロ17号が回収したレゴリス試料79035)。これまで、磁石による金属粒子(強磁性体)の抽出はなされているものの、強い磁性を示さない大部分のケイ酸塩粒子の集合体を、地球環境による汚染なく、ロスなく分離することは極めて困難でした。本装置を最適化することにより、はやぶさ2計画での採取が予想される、希少な有機物/ケイ酸塩鉱物/金属球の混合物を、ロスなく有効に分離する手法としても注目に値します。

寺田教授提供

出典JAXA HP

2.資源探査への応用
これまで磁気分離は、磁鉄鉱など強い磁性をもつ一部の資源を原石から抽出するのに威力を発揮してきましたが、今後は同様の手順でレアアースなど、様々な希少資源の抽出にも適応できることになります。現存する固体物質は、上記のように各々固有の磁化率を有するため、目的とする資源材料に特化した形状の磁石を設計する事で、効率よい抽出が可能となります。

3.一般家庭での資源リサイクルの汎用化
本研究を実用化することで、資源リサイクルは、粉砕・粒子化したゴミを磁気分離にかけるだけで終了するため、ゴミの運搬・分別に関する大幅な省力化が図れます。

出典:経済産業省web site

4.宇宙惑星科学現象の理解の深化
宇宙空間には、様々な強度の磁場と、ナノ~数ミクロンの様々な固体微粒子(グラファイトダイヤモンド、ケイ酸塩、金属粒子)が遍く存在しています。しかしながら、これまでの宇宙/惑星科学では、主に磁場とガス(実際には、イオン化したガス)の相互作用が注目され、磁場と固体微粒子との相互作用については十分に論じられてきませんでした。また、一般に、宇宙空間や星形成現場における有機物/ケイ酸塩鉱物/金属球などの物質分布は、物質の揮発性/難揮発性に起因する「温度勾配」に伴う現象と考えられてきました。しかし、本研究で得られた知見は、物質の磁化率と「磁場勾配」によっても固体微粒子の有意な分離が起こりうることを示唆します。このように、宇宙空間における物質分布機構に、全く新たな視点を提供するものです。

研究者のコメント

今回の研究は、全ての物質が実用的な低磁場で分離できる事を実証するのが目的であったため、比較的大き目のμg発生装置で実験を行いました。しかし今後の技術の向上により、卓上型の分離装置が開発可能です。すなわち場所を選ばず磁気分離が実施できるようになり、上記の資源探査や一般家庭でのリサイクルなどが、現実に可能となります。

特記事項

1.本研究成果は、英国NaturePublishing Group が刊行するオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に、日本時間12月8日(木)19時に、オンライン公開されました。
論文タイトル:Magnetic separation of general solid particles realized by a permanent magnet
著者:K. Hisayoshi, C Uyeda & K. Terada

2.図2のμg発生装置は、大阪府立春日丘高等学校定時制・科学部の研究課題にも導入されました。この装置を用いた研究課題はJSTの振興事業の支援を受け、さらに日本物理学会Jr.セッションや日本惑星科学連合大会高校生セッションで最優秀賞を受賞するなど、高大連携でも成果を上げました(著者の大阪府立大手前高等学校定時制課程教諭久好圭治が担当)。

用語解説

※1 反磁性体
生体を含む自然界の物質および工業的に生産される大多数の物質では、磁性イオンの効果が見いだせず、これに代わって、物質内に局在する電子の作用などにより、印加した磁場と逆方向に弱い磁化が発生する。そのため磁場中で物体は不安定となり、図1のように磁場が減少する方向の力が発生する。

※2 常磁性体
物質が磁性イオンを含み、それらが強磁性体のように磁気秩序を有さない場合、印加した磁場の方向に磁化が発生する。そのため、これらの物質は磁場中で安定となり、図1のように磁場が増加する方向に力が発生する。一般にその大きさは、強磁性体に比べて微弱である。

※3 クロマトグラフィ
固定相と呼ばれる物質の表面あるいは内部を、移動相と呼ばれる物質が通過する過程で物質を分離していく手法。固定相には、固体または液体が用いられ、移動相には気体(ガスクロマトグラフィ)や液体(液体ガスクロマトグラフィ)が用いられる。

※4 磁化率
質量mの反磁性体あるいは常磁性体に磁場Hを印加したとき、内部に誘導される磁化MはM=mχHと表され、m, Hに比例する。ここで比例係数χは、物質ごとに異なる値を有し、単位質量当りの磁化率と定義される。

※5 磁気体積力
物体を、x軸方向に単調減少する磁場中に置くと、磁場勾配による力F=mχH(dH/dx)を受ける。一方で、質量mの物体は、F=maに従う加速度aを得るので、結局加速度はa=χH(dH/dx)で表される。即ち磁場空間が共通の場合、粒子加速度は物質固有のχのみで決まり、質量mに依存しない(本文中の式および※3※4はcgs単位系での表記)。

参考URL

大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 寺田研究室HP
http://planet.ess.sci.osaka-u.ac.jp/index.html

また,YouTubeに下記タイトルで動画をアップロード予定です。
「Magnetic separation of general solid materials using a practical permanent magnet.」

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