自然科学系

2018年12月8日

研究成果のポイント

・スーパーコンピューターで高密度コロイドの超安定ガラス状態を生成
・大変形に対してコロイド粒子が渋滞を形成し、流動化が阻止される現象(シアジャミング)を発見
・自然界から工業製品にまで広く見られる高濃度ソフトマターのレオロジーを理解する鍵

概要

大阪大学サイバーメディアセンターのユリアン・ジン招へい准教授と吉野元准教授は、ピエールフランチェスコ・ウルバニ博士(パリ大学サクレー校)、フランチェスコ・ザンポニ博士(パリ・エコールノルマル)とともに、コロイドのガラス状態に変形を加えて流動化させるコンピューターシミュレーションを行った結果、コロイド粒子が渋滞を引き起こし、流動化しなくなる現象(シアジャミング※1)を発見しました。本研究により、コロイドなどソフトマターの力学的性質の基礎的理解が進むことが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、12月8日(土)午前4時(日本時間)に公開されました。

図1 シアひずみによる(I)降伏現象と(II)シアジャミング現象
(I),(II)ともに、小さなひずみに対しては、応力σが比例して増加し、弾性的に振舞っている。十分大きなひずみに対して(I)の場合は、「降伏」して応力が大きく降下し、(II)の場合では応力が逆に急上昇してジャミングする。ひずみをサイクル状にかけると、小さなひずみに対しては可逆的なのに対し、γGを越えると、雪崩的な塑性変形が発生して部分的な非可逆性を示す。降伏線を超えると完全に不可逆になる。左パネル右側は、模式的なエネルギー地形※2の図。降伏すると、となりの谷に遷移する。シアジャミングは、エネルギーの垂直な壁があることを意味する。

本研究成果の詳細

コロイドはマイクロメーターの大きさを持つ粒子の集まりです。コロイドを分散させた溶液で、コロイド粒子の密度を高めていくとガラス状態(アモルファス固体)になります。こうなるとコロイド粒子は、まわりの粒子たちに囲まれた籠状の限られた狭いスペースの中でしか動けなくなります。さらに圧縮していくと、粒子が全く身動きできない「すし詰め状態」になります。これが一般に「ジャミング」と呼ばれる現象です。結晶の最密充填のガラス版、と言えるものです。この状態は、図2の横軸、垂直ひずみεの軸に沿った変化のみを考えた場合に発生します。今回、縦軸のシアひずみγ(図1右パネル参照)を含めて詳しい解析を行ったところ、これまでの常識を覆す結果が得られました。シアは、圧縮と異なって体積(密度)を全く変えず、形だけを変える操作です。固体はシアひずみを元に戻そうとする復元力を発生します。しかし十分大きなひずみを加えると「降伏」と呼ばれる破壊、流動化を示し、復元しなくなります。吉野准教授らの研究グループのシミュレーションでもこれは観測されました。ところが、場合によってはシアによってジャミングを起こし、流動化を阻止してしまうことがわかりました。これまで、このような「シアジャミング」は摩擦のある粉体では知られていました。しかし今回の系には摩擦がなく、シアジャミングに摩擦が必須ではないことが明らかになりました。重要なポイントは、今回用いた系が、非常に高密度で安定なガラス状態にあるということです。より低密度で不安定なガラスの場合、図2のジャミング線がより垂直に近づき、シアジャミングが起こらなくなることもわかりました。

関連する現象として、シアシック二ング※3と呼ばれる現象があります。これは、濃厚なコーンスターチで満たしたプールの上を走って渡るデモンストレーションなどで良く知られています。本研究により、コロイドなどソフトマターのレオロジーの基礎的理解が進むことが期待されます。

図2 高密度コロイドガラスの安定性マップ
パネル(A)は、高密度コロイドガラス状態(原点)に垂直およびシアひずみ(図1右パネル参照)を加えた場合の相図。例えば矢印(I)に沿って行くと図1(I)のようにγYで降伏し、その後はパネル(B)のように破壊面の上下がスライドする。一方、矢印(II)に沿って行くと図1(II)のようにジャミング線γJで系は渋滞し、流動化が阻止される。また、ガードナー転移線γG※4を越えたところで、系はマージナル安定な状態になり、パネル(C)のようなある種の雪崩的な塑性変形を示し、図1に示した部分的な非可逆性が現れる。

研究の背景

摩擦なしの系でのシアジャミング現象は、理論的に予想されていましたが見つかっていませんでした。今回の研究では、安定な高密度のガラスが必須でした。これは、スワップ法※5と呼ばれる最新のアルゴリズムと、最新のスーパーコンピューターの力を組み合わせることによって生成可能になりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ガラス(アモルファス固体)は未だ多くのチャレンジングな問題を物理学に突きつけています。一方、ガラスは液体と連続的につながっていることから、加工しやすく工業的に大変重要な材料です。本研究を契機に高濃度ソフトマターの基礎物理の理解が進むことは、材料工学にもヒントを与えると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年12月8日(土)午前4時(日本時間)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されます。(オープンアクセス)

http://advances.sciencemag.org/content/4/12/eaat6387

タイトル:”A stability-reversibility map unifies elasticity, plasticity, yielding, and jamming in hard sphereglasses”
著者名:Yuliang Jin, Pierfrancesco Urbani, Francesco Zamponi and Hajime Yoshino

本研究は、「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」(平成 25-29 年度科学研究費補助金「新学術領域」)の一環として行われました。また中国科学技術院、米サイモンズ財団の助成も受けています。本研究の数値計算には、大阪大学サイバーメディアセンターおよび計算科学研究センター(自然科学研究機構 岡崎共通研究施設)における大規模計算サーバー、スーパーコンピュータが用いられました。

Yuliang Jin招へい准教授は、現在、中国科学院理論物理研究所にて准教授として勤務しています。

用語説明

※1 ジャミング
例えばパチンコ玉を容器にざっと流し込むと玉が、ランダムに、しかしぎっちりと詰まった状態になる。これがジャミング状態である。コロイド溶液のガラス状態では、まだ隙間があり、ジャミングには至っていないことに注意。

※2 エネルギー地形
自然界ではエネルギーが下がるように「力」が働く。例えば、等高線が書き込まれた山岳の地形図を見ると、等高線に垂直に谷底に下がる方向に重力を感じることがわかる。

※3 シアシックニング(shear thickening)
シアによって粘性が増大する現象。https://youtu.be/RIUEZ3AhrVE

※4 ガードナー転移
エネルギー地形が一つの谷から多谷構造に分裂する現象。高次元極限で厳密になる理論によって見出された。最近の数値シミュレーションでもその存在が示されている。

※5 スワップ法
粒子サイズが複数あるものを用意し、混ぜて使う。その上で、サイズの異なる粒子の位置を交換するプロセスを導入することにより、系の緩和を大幅に促進することができる。

参考URL

大阪大学 サイバーメディアセンター 大規模計算研究部門
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top