自然科学系

2017年4月14日

研究成果のポイント

・ガラス状態を高密度まで圧縮するとエネルギー地形※1の複雑な分裂が起こり、非常に奇妙な力学的性質が出現することをコンピューターシミュレーションによって世界で初めて実証
・最新のアルゴリズムとスーパーコンピューターの力で高密度まで安定化した液体状態を準備
・自然界にも工業製品にも広く見られるガラス状態の最深部にメスを入れる重要なステップ

概要

大阪大学サイバーメディアセンターのYuliang Jin(特任研究員)、吉野元(准教授)は、ガラス状態を圧縮するとエネルギー地形の複雑な分裂が起こり、これを反映した特異な力学現象が起こることを世界で初めて実証しました。

身近にある「窓ガラス」だけでなく、「液体」を急冷あるいは急圧縮すると「結晶」ではなく「ガラス」(アモルファス固体)ができる例が、自然界にも工業製品にも数多く見られます。

ガラスは、結晶と同様に硬く、固体です。一方、結晶では原子・分子が規則的に並んでいるのに対し、ガラスは、液体と同じように無秩序です。最近、この無秩序な固体であるガラスをさらに圧縮していくと、ある臨界圧力でエネルギー地形が複雑化(ガードナー転移※2)するという驚くべき理論的予言がなされました(図1)。さらに圧縮を続けるとある密度で圧力が無限大になる、ジャミング状態※3と呼ばれる状態に達しますが、理論によればそこに至る前にこのガードナー転移が起こると予想されています。

本研究では、「剛体球」という、パチンコ玉のように互いに反発力しか働かない最も単純な粒子の集団を高密度まで圧縮したものを用いて、①「圧縮」してから「シア」をかける数値実験(ZFC)、②この順番を逆にした数値実験(FC)の2つの数値実験を行い、復元力を比べました。

その結果、臨界圧力以上でZFC/FCの2つに違いが現れることが明らかになりました(図2)。これはすなわち、ガラス状態の圧縮によってエネルギー地形の複雑な分裂が起こり、復元力が強く残るガラス状態(ZFC)、弱くしか残らないガラス状態(FC)が作れることを意味します。

本研究成果により、幅広く見られるガラス(アモルファス固体)の最深部の理解が進み、ガラスの物理学および材料工学の発展に寄与することが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「NatureCommunications」に、4月11日(火)18時(日本時間)に公開されました。

図1 模式的なエネルギー地形:
「水は方円の器に従う」と言うように、液体は容器の形、シア※4ひずみを変えても逆らわない。エネルギー地形はひずみに対して全く平坦である。この液体を圧縮すると結晶ができ、また急圧縮するとガラスが出来る。どちらもシアを掛けるとエネルギーが増大し、押し戻そうとする復元力が発生する。つまりどちらも「硬さ」をもつ固体である。理論上は、このガラスをさらに高密度まで圧縮し、「ガードナー転移」が起こると、エネルギーの谷が分裂し、複雑な多谷構造が出現する。本研究では、もしこれが実際に起こるならば、シアに対する応答、復元力に反映されるはずであるとの仮説に基づき、シミュレーションを行った。

図2 シアに対する復元力に現れた異常:
縦軸は復元力をシアひずみの大きさと圧力で割ったもの、横軸は圧力。2つの数値実験(ZFC/FC)の結果は、圧力が低い時は予想通り一致する。ところが、ある臨界圧力PGを境に、二つが明確に分かれている。もし圧縮によってエネルギー地形が図1のように複雑化するならば、ひずみを掛けてから圧縮した方が(FC)、圧縮してからひずみを掛ける(ZFC)よりもエネルギーの増大が抑えられると期待される。結果は、この予想と整合している。実線は理論的な予想(Yoshino-Zamponi,2014)。

図3 雪崩的に粒子が動く地震的なイベント:
図1のように多谷構造がある場合、シアひずみを掛けてゆくと小さな谷と谷の間の山を乗り越え、次の谷底に落ちてゆく。その際にこのような雪崩現象が発生する。

研究の背景

この数年の間に、空間次元が無限大の極限で厳密になるガラスの理論が急速に発展し、上記のガードナー転移が見いだされました。しかし、無限大次元は我々の住む3次元の世界からは遥かに遠く、この転移が現実に存在するかどうかは全く明らかではありませんでした。

今回の研究では、高密度まで安定な過冷却液体状態※5を最初に準備し、これをガラス化させることが必須でした。これは、スワップ法※6と呼ばれる最新のアルゴリズムと、最新のスーパーコンピューターの力を組み合わせることによって可能になりました。

また、岡村諭氏、中山大樹氏(いずれも当時、大阪大学大学院理学研究科博士前期課程)らによる吉野准教授との共同研究(2012年度、2015年度)も本研究に重要な示唆を与えました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ガラス(アモルファス固体)は未だ多くのチャレンジングな問題を物理学に突きつけています。一方、ガラスは液体と連続的につながっていることから、加工しやすく工業的に大変重要な材料です。本研究を契機にガラス状態の最深部の理解が進むことは、科学のフロンティアを広げ、材料工学にもヒントを与える可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2017年4月11日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。http://dx.doi.org/10.1038/NCOMMS14935 (オープンアクセス)

タイトル:“Exploring the complex free energy landscape of the simplest glass by rheology”
著者名:Yuliang Jin and Hajime Yoshino

なお、本研究は、「ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立」(平成25-29年度科学研究費補助金「新学術領域」)の一環として行われました。本研究の数値計算には、大阪大学サイバーメディアセンターおよび計算科学研究センター(自然科学研究機構岡崎共通研究施設)における大規模計算サーバー、スーパーコンピューターが用いられました。

用語説明

※1 エネルギー地形
自然界ではエネルギーが下がるように「力」が働く。例えば、等高線が書き込まれた山岳の地形図を見ると、等高線に垂直に谷底に下がる方向に重力を感じることがわかる。

※2 ガードナー転移
エネルギー地形が一つの谷から多谷構造に分裂する現象。高次元極限で厳密になる理論によって見出された。ダイナミックスにも定性的な変化をもたらすと予想されている。

※3 ジャミング状態
例えばパチンコ玉を容器にざっと流し込むと玉が、ランダムに、しかしぎっちりと詰まった状態になる。これがジャミング状態の簡単な例である。砂山もジャミング状態にある。ガラス転移とジャミングの関係は一つの重要な問題である。

※4 シア
圧縮あるいは減圧すると物の体積が変わるのに対し、シア(剪断)とは、図1右上の図のように、形のみを変え、体積を変えない操作である。気体・液体は、圧縮に対して復元力を示すが、シアに対しては復元力を示さない。シアに対して復元力を示すのは、固体の特徴である。

※5 過冷却液体状態
ガラスが形成されるためには、まず急冷や急圧縮によって、本来結晶になっているべき、温度、密度で、準安定な液体状態に系を持ち込むことが必要である。これを過冷却液体状態と呼ぶ。

※6 スワップ法
粒子サイズが複数あるものを用意し、混ぜて使う。その上で、サイズの異なる粒子の位置を交換するプロセスを導入することにより、系の緩和を大幅に促進することができる。

参考URL

大阪大学サイバーメディアセンター 大規模計算研究部門
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/

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