自然科学系

2018年2月12日

研究成果のポイント

・高強度の光と物質の相互作用において、物質が星の内部に匹敵する超高圧のプラズマ※1状態に加熱され、プラズマの表面張力が光を押し戻すという概念を提唱。
・これまでの高強度レーザーのエネルギーでは、光に匹敵する圧力まで物質を加熱することができず、光を押し戻す状況は考えられてこなかった。
・光と物質が創る極限的な高圧力状態の理解に基礎科学として貢献し、レーザーを用いた核融合※2など応用研究に指標を与える。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の岩田夏弥(いわたなつみ)特任研究員(常勤)、千徳靖彦(せんとくやすひこ)教授らの研究グループは、高強度の光と物質の相互作用において、物質が星の内部に匹敵する超高圧のプラズマ状態に加熱され、プラズマの表面張力が光を押し戻すことを、世界で初めて理論的に明らかにしました。この理論は、これまでに発表されている実験に新解釈を与えるものです。

従来の高強度レーザーのエネルギーでは、光に匹敵する圧力まで物質を加熱することができず、加熱された物質がレーザー光を押し戻す状況に達するとは考えられていませんでした。

今回、岩田夏弥特任研究員らの研究グループは、レーザー科学研究所の最先端の高強度レーザーを物質に照射すると、超高圧のプラズマ状態に加熱された物質がレーザー光を押し戻す条件が成立することを、プラズマの表面張力という新しい概念を用いて理論的に解明しました。強い光と物質との相互作用の基本的な性質の一つを明らかにした本成果は、高温・高密度プラズマ中で起こる様々な現象の解明に貢献するものです。レーザー光で超高圧プラズマを生成し、その特性を理解して制御することで、星の内部や宇宙空間に満たされているプラズマが作り出す様々な天文現象を解明し、実験室宇宙物理学※3の進展に寄与することができ、また高効率の粒子加速とその医療応用や、核融合エネルギー開発など革新的な技術の進展に繋がることが期待されます。

本研究成果は、スプリンガー・ネイチャー社が発行するオープンアクセスジャーナル「Nature Communications」に、2月12日(月)日本時間19時に公開されました。

研究の背景

高強度レーザー装置を用いると、1キロジュール(0.25キロカロリー)のエネルギーを持つ光を半径100分の1ミリメートルに集光し、1兆分の1秒(1ピコ秒)の時間に圧縮することで、ギガバール※4(約10億気圧)という高いエネルギー密度(=高い圧力)を持つ高強度の光を生成することができます。この光の圧力は、地上で実現できる最強の圧力です。

このような高強度の光を物質に照射すると、物質は一瞬のうちに電離し、プラズマ状態となります。弱い光は、プラズマの密度が遮断密度※5以下の領域しか伝播することができず、金属表面などと同じように光は反射されます(図1(a))。光の強度が強くなると、光の圧力でプラズマを押し込み、遮断密度を越えてプラズマ中に異常侵入します(図1(b))。この過程は、光が物質を押し進む様子からホールボーリング※6と呼ばれ、プラズマの奥深くまでレーザー光のエネルギーを与えることができる方法として20年以上研究されてきました。これまで、高強度の光は、照射時間中はプラズマを押し進み続けると考えられてきました。

図1 光とプラズマの相互作用の模式図。(a)弱い光の反射、(b)強い光によるホールボーリング(従来の理解)、(c),(d)本研究で提唱したプラズマ表面張力によるホールボーリング停止の概念。

本研究の成果

本研究では、高強度の光をプラズマに照射し続けると、プラズマが星の内部に匹敵する超高圧状態に加熱されて光の圧力とプラズマの圧力がつり合い、光の異常侵入が停止して(図1(c))、プラズマが光を押し戻すことを理論的に提唱しました。光がプラズマを押す過程を詳細に見ると、光はプラズマ表面の電子だけを前方に押し込み、表面に電場を励起します(図1(d))。電子より重いイオンは、電子が作った表面電場に引っ張られて後からゆっくりと前方に移動し、この過程でプラズマに穴が開いていきます。この表面電場が、表面張力としてプラズマの圧力を助けることで、光の圧力とバランスし、光の異常侵入が停止することを発見しました。この状態を方程式で表して、密度について解くことで、異常侵入が停止する密度が初めて明らかになりました。

光を照射し続けると、加熱されたプラズマの圧力がさらに上昇し、プラズマが光を押し戻して高圧力で吹き出し始めます。このとき、吹き出したプラズマ中の電子が光によって強い加速を受け、高いエネルギーを持つ電子が大量に生成されることもわかってきました。異常侵入モードから吹き出しモードへの状態遷移の理解は、プラズマ粒子加速やプラズマ加熱を制御し、効率上昇などの最適化へ導く指針となります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

強い光と物質(プラズマ)との相互作用の基本的な性質の一つを理論的に解明した本研究成果は、光が作る高圧力状態での様々な物理現象の解明に貢献するものです。レーザー光で超高圧プラズマを生成し、その特性を理解して制御することで、星の内部や宇宙空間に満たされているプラズマが作り出す様々な天文現象の解明に寄与することができ(実験室宇宙物理学)、また高効率の粒子加速とその医療応用や、核融合エネルギー開発など革新的な技術の進展に繋がることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年2月12日(月)19時(日本時間)にスプリンガー・ネイチャー社が発行するオープンアクセスジャーナル「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Plasma density limits for hole boring by intense laser pulses”

著者名:岩田夏弥1, 小島完興1,2, 千徳靖彦1, 畑昌育1, 三間圀興3

所属:
1. 大阪大学レーザー科学研究所
2. 京都大学化学研究所
3. 光産業創成大学院大学

なお、本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金(JP15K21767, JP15K17798)および核融合科学研究所・双方向型共同研究(NIFS17KNSS090)の支援のもと実施されました。

研究者のコメント

本研究成果は、レーザープラズマ分野で長年研究されてきた自然現象に対する新しい捉え方・概念を提示するものです。このような物理学の理論的な発見は、私たちのものの見方を深化させ、身近な世界を驚くほど美しく不思議なものに変えてくれます。「雲や水や虫は、なぜ様々な模様を形成するのか。」「私は、なぜ集合体として動いているのか。」物理学は、そんな素朴な疑問に、素直に真摯に向き合う学問であり、そこに魅力を感じて研究をしています。

用語説明

※1 プラズマ
固体、液体、気体に続く第四の物質状態(相)で、電離気体とも呼ばれる。物質を構成する原子の一部または全部がイオンと電子に分離しており、個々の粒子が集団的な振る舞いを行う。宇宙に存在する物質は、質量として99%がプラズマ状態にある。

※2 レーザー核融合
高強度レーザーを用いて、重水素と三重水素のガスを高密度に圧縮するとともに高温に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る方法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシアで研究が行われている。

※3 実験室宇宙物理学
高出力レーザーを用いることで、高温・高密度のプラズマを生成し、宇宙における原子過程、原子核反応、粒子加速、流体運動、乱流現象等を実験室内で再現し、研究する分野。

※4 バール(Bar)
圧力の大きさを示す単位。地球の海面上での標準大気圧は約1.01バール。太陽中心の圧力は約240ギガバール。1ギガバールは1バールの10億倍。

※5 遮断密度
光が反射されるプラズマの密度。

※6 ホールボーリング(Hole boring)
高強度の光が、遮断密度を越えてプラズマを押し込みながら進む過程。異常侵入とも呼ばれる。

※7 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成し、その内部状態を観測して研究する科学分野。生産・医学・生物学応用を目指して、プラズマから放出される X 線及び粒子の高エネルギー化・効率化を目指した研究も行われるなど、学際的な研究領域である。レーザー核融合や実験室宇宙物理学も、高エネルギー密度科学に含まれる。

参考URL

高エネルギー密度輻射プラズマ理論グループ(THR)
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/thr/index.html

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