2014年10月15日

本研究成果のポイント

・ナノ構造化により、シリコンの熱電変換効率が三倍以上向上
・熱電発電技術の実用化によって、工場やごみ焼却施設からの排熱を利用した直接発電システムや、自動車の燃費向上のための排熱回生システム等への応用に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の黒崎健准教授、エクバル・ユスフ特任研究員、山中伸介教授のグループは、九州工業大学・大阪府立大学と共同で、シリコンをナノ構造化することで、シリコンの持つ熱電変換効率※1を三倍以上向上させることに成功しました。これにより、様々な場所に多量に存在する排熱を回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する熱電発電技術の実用化が期待できます。本研究成果は、2014年10月14日付で英国王立化学会が発行するNanoscale誌(オンライン版)に掲載されました。

研究の背景

既存熱電変換材料はテルルや鉛といった有毒で希少な元素から構成されており※2、このことが、熱電発電の実用化の一つの障壁となっています。一方シリコンは、無毒で資源量も豊富であるという利点を有しながらも、熱伝導率が高いことが原因で、これまでその熱電変換効率はよくありませんでした※3。材料をナノ構造化することで、電気的性質には影響を及ぼすことなく、熱伝導率のみが低減できることが理論上わかっています※4。今回、極めて簡単で再現性の高い手法でナノ構造化されたバルク状のシリコンを作製することに成功し※5、結果、シリコンの熱電変換効率が三倍以上向上しました。

ナノ構造化によるシリコンのzTの向上(zT:熱電変換効率に相当する指標)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

熱電発電技術は、小型・軽量、高信頼性、メンテナンスフリーといった特徴から、これまでは主に惑星探査機に搭載される原子力電池※6の電源として利用されてきました。今回、無毒で資源量も豊富なシリコンで熱電変換効率の大幅な向上が達成されました。このことは、様々な場所で多量に捨てられている低品位な熱エネルギーを回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する技術(いわゆる、熱電発電技術)の実用化を加速させるものです。具体的には、工場やごみ焼却施設からの排熱を利用した直接発電システムや、自動車の燃費向上のための排熱回生システム※7等への応用が考えられます。

特記事項

本成果は、独立行政法人科学技術振興機構先端的低炭素化技術開発(ALCA)「ナノスケール構造制御による高効率バルクシリコン熱電材料の開発」(代表:山中伸介教授)及び大阪大学未来知創造プログラム「ナノ構造シリコン高効率熱電変換材料の開発」(代表:黒崎健准教授)の一環で得られたものです。

今回発表した論文

Bottom-up nanostructured bulk silicon: A practical high-efficiency thermoelectric material, Aikebaier Yusufu, Ken Kurosaki, Yoshinobu Miyazaki, Manabu Ishimaru, Atsuko Kosuga, Yuji Ohishi, Hiroaki Muta, and Shinsuke Yamanaka, Nanoscale, DOI: 10.1039/C4NR04470C.
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/nr/c4nr04470c

補足説明

※1
熱電変換材料では、固体のゼーベック効果を利用して、温度差から直接電力を生み出します。熱電変換材料においては、材料中に効果的に温度差を設けるために、材料自身の熱伝導率は低いほど良く、一方で、発生した電気を効率よく取り出すために、材料自身の電気伝導率は高いほど良いとされています。従って、熱電変換材料の高効率化のためには、熱は通さないが電気はよく通すという一見矛盾した状況を材料中に創り出す必要があります。なお、熱電変換材料の性能は、以下の式で表される熱電変換性能指数zTという指標で決定されます。 (数式) ここで、Sはゼーベック係数(単位温度差あたりに生じる電力)、σは電気伝導率、κは熱伝導率、Tは絶対温度です。zT向上のためには、高いSはもちろんのこと、高いσと低いκを同時に達成することが求められます。

※2
既存熱電変換材料の代表格は、Bi2Te3とPbTeです。これらは、高い熱電変換性能指数(zT = 0.8~1程度)を示しますが、構成元素であるテルル(Te)の毒性と希少性、鉛(Pb)の毒性、ビスマス(Bi)の資源偏在性が問題となっています(右表)。熱電発電技術の広範な産業化のためには、無毒で資源量が豊富な元素から構成される高効率熱電変換材料の開発が望まれています。

※3
シリコン(Si)は代表的な環境調和型元素であり、毒性が低い、資源量が豊富である、流通量が多い、低価格で高品質な材料が入手可能であるといった多くの利点を有します。ところが、シリコンの熱伝導率は室温で150 Wm-1K-1程度あり、これは、既存熱電変換材料であるBi2Te3の熱伝導率の約100倍に相当します。この高い熱伝導率ゆえに、これまで、シリコンのzTは最大でも0.2程度に抑えられていました。

※4
1993年、マサチューセッツ工科大学のDresselhaus教授らは、材料をナノスケールで精密に制御することで、電気伝導率に影響を及ぼすことなく熱伝導率のみが低減できることを理論的に見出しました [1]。その後、既存熱電変換材料であるBi2Te3やPbTeといった材料においてこの理論が実験的に実証され、非常に高い熱電変換性能指数zTが達成されました [2]。本研究において、はじめて、シリコンでこの理論が実証されました。
[1] L. D. Hicks & M. S. Dresselhaus, Phys. Rev. B 47, 12727 (1993).; Phys. Rev. B 47, 16631 (1993).
[2] R. Venkatasubramanian et al., Nature 413, 597 (2001).; K. Biswas et al., Nature 489, 414 (2012).など

※5
本研究における最大の発見は、極めて簡便で再現性の高い手法で、バルク状(つまりある程度の大きさを持った塊状)のシリコン内部に、均一にナノスケールの析出物を創出する手法を見出した点にあります。この析出物が、材料中で電気を伝える電子は散乱せずに熱を伝えるフォノンのみを散乱することで、熱電変換性能指数zTの大幅な向上を達成しました。

本研究で開発したナノ構造シリコンを作製する手法は、以下のとおりです。まず、シリコンにごく少量のリンとゲルマニウムを混ぜ合わせ、高温で溶解させ冷却します。冷却後試料を粉砕した後、放電プラズマ焼結法という方法で、高温下で粉末状試料を加圧成形し高密度の焼結体を得ます。重要なのは、リンとゲルマニウムの添加量と、放電プラズマ焼結の条件です。これらを最適化することで、シリコンとリンからなる化合物のナノドットがシリコン中に均一に析出したナノ構造シリコン(図)を作製することに成功しました。本研究で最適化した組成は、仕込み組成でSi97Ge3P3、放電プラズマ焼結の条件は、アルゴン雰囲気下で1080℃、3分間焼結、焼結時の圧力は100 MPaとなります。


左:本研究で開発したナノ構造シリコンの透過型電子顕微鏡像(コーヒー豆のように見えるものが、シリコンとリンからなる化合物のナノ析出物。これが試料全面にわたってほぼ均一に分散している。)
右:ナノ析出物による電子とフォノンの散乱の様子。ナノ析出物によって、材料中で電気を伝える電子は散乱されずに熱を伝えるフォノンのみが散乱される。結果、熱電変換性能指数が向上し、通常のシリコンのzTの三倍以上となるzT > 0.6が達成された。

※6
惑星探査機においては、Pu-238(プルトニウム238)のα崩壊(半減期87.7年)で生じる崩壊熱を熱電発電技術によって直接電気エネルギーに変換して利用しています。現状、熱電変換効率は低いものの、数十年間安定して電力を供給できるため、惑星探査機や僻地における電源として活用されています。

※7
平均すると、全一次エネルギーの約三分の二が熱として捨てられています。特に自動車においては、総投入エネルギーの約七割が未利用熱エネルギーとなっています。このため、自動車からの排熱を回収し電気エネルギーとして再利用できる熱電発電が、近年注目を集めています。

参考URL

研究者に関するWEBサイト
http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seems/seems/kurosaki
研究内容に関するWEBサイト
http://thermoelectric-nanosilicon.jp/index.html
研究室のWEBサイト
http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seems/seems/

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