排熱を今までの二倍の効率で電気に変換

排熱を今までの二倍の効率で電気に変換

廃熱発電効率化や自動車の燃費向上への応用に期待

2012-6-13

<リリース概要>

大阪大学大学院工学研究科の黒崎健准教授と山中伸介教授のグループは、大阪府立大学、カリフォルニア工科大学、NASAジェット推進研究所と共同で、熱エネルギーから電気エネルギーを直接生み出す熱電発電材料 において、従来材料の二倍の効率の新材料の開発に成功しました。これにより、様々な個所に多量に存在する排熱を回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する技術の実用化が期待できます。成果は、2012年6月12日付でAdvanced Materials誌にオンライン出版されました。

<研究の背景>

ダイヤモンドに類似する結晶構造を有するCuGaTe 2 において、高い電気伝導率と低い熱伝導率の同時達成とそれにともなう熱電変換性能指数(ZT)の倍増に成功しました。特徴的な結晶構造に起因する比較的大きなキャリアの移動度と、高温において十分に低減された熱伝導率によって、高いZTが導かれています。これまで約半世紀にわたってZT = 0.8(変換効率7~8 %相当)がバルク熱電発電材料の限界とされていたのですが、本研究においてその限界を大幅に超えるZT > 1.5(変換効率15 %相当)の達成に成功したことになります。

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図 CuGaTe 2 の結晶構造とZTの温度依存性

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

熱電発電技術は、小型・軽量、高信頼性、メンテナンスフリーといった特徴から、これまでは主に惑星探査機に搭載される原子力電池 の電源として利用されてきました。今回、従来材料と比べて効率二倍の新材料が開発できたことから、今後は、様々な個所で多量に捨てられている低品位な熱エネルギーを回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する技術としての実用化が期待できます 。具体的には、工場やごみ焼却施設からの排熱を利用した直接発電システムや、自動車の燃費向上のための排熱回生システム等への応用が考えられます。

<掲載論文>

Chalcopyrite CuGaTe 2 : A high-efficiency bulk thermoelectric material, Theerayuth Plirdpring, Ken Kurosaki, Atsuko Kosuga, Tristan Day, Samad Firdosy, Vilupanur Ravi, G. Jeffrey Snyder, Adul Harnwunggmoung, Tohru Sugahara, Yuji Ohishi, Hiroaki Muta, and Shinsuke Yamanaka, Advanced Materials, Article first published online: 12 JUN 2012, DOI: 10.1002/adma.201200732.

<参考URL>

用語説明

熱電発電材料

熱電発電材料では、固体のゼーベック効果を利用して、温度差から直接電力を生み出します。熱電発電材料においては、材料中に効果的に温度差を設けるために、材料自身の熱伝導率は低いほど良く、一方で、発生した電気を効率よく取り出すために、材料自身の電気伝導率は高いほど良いとされています。従って、熱電発電材料の高効率化のためには、熱は通さないが電気はよく通すという一見矛盾した状況を材料中に創り出す必要があります。なお、熱電発電材料の性能は、以下の式で表される性能指数ZTという指標で決定されます。

ZT = S2σT/κ

惑星探査機に搭載される原子力電池

惑星探査機においては、Pu-238(プルトニウム238)のα崩壊(半減期87.7年)で生じる崩壊熱を熱電発電技術によって直接電気エネルギーに変換して利用しています。現状、熱電発電効率は低いものの、数十年間安定して電力を供給できるため、惑星探査機や僻地における電源として活用されています。

低品位な熱エネルギーを回収し高品位な電気エネルギーとして再利用

平均すると、全一次エネルギーの約三分の二が熱として捨てられています。特に自動車においては、総投入エネルギーの約七割が未利用熱エネルギーとなっています。このため、自動車からの排熱を回収し電気エネルギーとして再利用できる熱電発電が、近年注目を集めています。