2013年4月9日

リリース概要

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの村上匡且教授と中部大学工学部の田中基彦教授らは、カーボンナノチューブの内部に水素化合物を充填するなどしたナノ構造体に強力なレーザーを照射すると、正に帯電したナノチューブと水素化合物が電気的に反発し合う結果、水素イオン(プロトン)が高い指向性とエネルギー均一性を持ってナノチューブの両端から射出されるという新たな粒子加速機構を発見しました。こうして得られるプロトンビームの研究は、将来、医療や産業などへの応用を目指したコンパクトな粒子線源の開発へと発展することが期待されます。

図1 「ナノチューブ加速器」概念図

 

研究の背景

1980年代後半のチャープパルス方式と呼ばれるレーザーパルスの圧縮技術の発明により、レーザーの超短パルス化・超高強度化が目覚ましく進展した結果、かつては実現不可能とされていた様々な物理現象が実験室での研究対象となってきています。レーザーによるイオン加速もその一つで、近年、世界各国の多くの研究機関がしのぎを削ってその研究を展開しています。というのも、粒子線がん治療、イオン駆動レーザー核融合、計測・非破壊検査、物質創成など学術・医療・エネルギー・産業といった幅広い分野への応用が期待されているためです。従来、レーザーによるイオン加速研究には、平板ターゲット、クラスター(球状)ターゲット等の形状物質を使った代表的な3〜4方式がありますが、そのいずれも将来の応用に必要とされる指向性、エネルギー均一性といった条件をバランス良く満たすレベルに至ってないのが現状です。

図2 1990以降、レーザー照射強度(縦軸)は十年で十万倍という割合で増加している。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

上述の現状に対して、今回のナノチューブという特殊形状故に可能である加速原理を使うと,指向性と単色性の高いプロトンビームが得られることが詳細な3次元数値シミュレーションによって明らかとなりました。こうして得られるプロトンビームの研究を進める事で,将来、例えば超小型粒子線がん治療装置の開発や、核融合反応を媒介させる事でコンパクトな中性子源開発にも繋がり、燃料電池開発や材料開発といった産業応用への展開など、社会へ与えるインパクトとしては高いポテンシャルを有しています。

カーボンナノチューブは、従来の物質に比べて特異な電気的・機械的特性を持つことから、その発見以来、電子デバイスや機能材料として多様な基礎研究と産業応用が進められてきました。しかし、殆どの場合、その動作環境は常温固体状態という我々の生活環境に近いものです。今回の発見は、高々原子100個程度を直列にしたサイズのカーボンナノチューブが10フェムト秒(=100兆分の1秒)、数百億度という温度に匹敵する極限的物理環境下でナノスケールの「粒子加速器」として活用できることが明らかとなったという点で、また、高エネルギー物理学・高強度レーザー技術・ナノマテリアルというこれまで見られなかった新たな学際融合領域の形成に繋がるという点においても各分野への波及効果・インパクトが期待されています。

 

特記事項

今回の「ナノチューブ加速器」の論文は、4月22日(月)に米国物理協会速報紙『Applied Physics Letters』に掲載され(オンライン版:http://apl.aip.org)、その表紙を図1が飾る予定です。

なお、本研究は日本学術振興会・科学研究費補助金による支援のもとで実施されました。

 

参考URL

http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/csn/

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