マイクロバブルによる新たな粒子加速機構を発見

マイクロバブルによる新たな粒子加速機構を発見

白色矮星級の超高密圧縮による原子サイズの加速器実現の可能性

2018-5-24自然科学系

研究成果のポイント

・マイクロバブルを内包する水素化合物に超高強度レーザーを照射し、個体密度の数十万~百万倍にまでイオンを圧縮した上で、超高エネルギーの水素イオンを放射する粒子加速機構を世界で初めて発見
・従来の加速器であれば数十メートルから数百メートルの加速距離が必要とされる程の高エネルギー粒子が、ナノスケールの正電荷の塊から放射される
・未解明の宇宙物理の解明だけでなく、核融合反応によるコンパクトな中性子線源等として医療・産業への応用研究への貢献に期待

概要

大阪大学レーザー科学研究所の村上匡且教授らの研究グループは、ミクロンサイズのバブル(球状の空洞)を内包する水素化合物の外側から超高強度レーザーを照射すると、バブルが原子サイズにまで収縮した瞬間に超高エネルギーの水素イオン(プロトン)が放射される「マイクロバブル爆縮」という全く新しい粒子加速機構を発見しました。

この機構では、千億度という超高温の電子がバブル内に充満することで生じた強力なマイナスの静電気力により、正電荷を持つイオンがバブル中心に向かって球対称に加速されます。球中心という一種の特異点に無数のイオンが高速で加速し激突する結果、わずか原子数十個を直列にした程度のナノスケールの極小空間内で、固体密度の数十万~百万倍という白色矮星 内部にも匹敵する高密度圧縮 が原理的に可能となります。

さらに、このバブルは数十フェムト秒 の周期で収縮と膨張を繰り返し、ナノメートル サイズにまで収縮して最大圧縮に達した瞬間に高エネルギーのプロトンを放射する「ナノパルサー 」ともいうべき新奇な特徴を持つこともわかりました。

本研究成果により、星の内部や宇宙を飛び交う高エネルギー粒子の起源といった長大な時空スケールにおける未解明の宇宙物理の解明に貢献するだけでなく、将来的には核融合反応によるコンパクトな中性子線源等として医療・産業への応用研究にも貢献することが期待されます。

本研究成果は、英国オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に5月24日(木)18時(日本時間)に掲載されました。

図1
「マイクロバブル爆縮」の概念図

研究の背景

1980年代後半、レーザーパルスの圧縮技術が発明され、レーザーの超短パルス・超高強度化が目覚ましく進展しました。その結果、わずか四半世紀の間に照射強度は一千万倍も増大し、様々な新しい物理現象が実験室での研究対象となってきています。レーザーによるイオン加速もその一つで、近年、世界各国の多くの研究機関がしのぎを削ってその研究を展開しています。というのも、粒子線癌治療、レーザー核融合による新エネルギー開発、燃料電池開発のための断層写真、新物質の開発など幅広い分野への応用が期待されるためです。

図2
世界最高出力レーザー(阪大レーザー研)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

角砂糖大の重さが100kg以上という前人未踏の超高密度に物質を圧縮し、従来の加速器であれば数十メートルから数百メートルの加速距離が必要とされる程の高エネルギー粒子が、ナノスケールの正電荷の塊から放射されるという驚くべきこの物理現象を報告するのはこれが世界で初めてのことです。

この現象では、荷電粒子であるイオンが光速の半分程度の超高速で空間の1点に収縮し激突するという、ビッグバン の真逆のような特異な運動が決定的な役割を果たしており、これまで発見・提唱された他のいかなる加速原理とも本質的に全く異なるものです。ナノメートル・フェムト秒という極小・極短のこの現象を研究することで、星の内部や宇宙を飛び交う高エネルギー粒子の起源といった長大な時空スケールにおける未解明の宇宙物理の解明に貢献するだけでなく、将来的には核融合反応によるコンパクトな中性子線源等として医療・産業への応用研究にも貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国オンライン総合学術誌「Scientific Reports」 https://www.nature.com/articles/s41598-018-25594-3 に5月24日(木)18時(日本時間)に掲載されました。

タイトル:“Generation of ultrahigh field by micro-bubble implosion”
著者名: M. Murakami, A. Arefiev, and M.A. Zosa

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 村上研究室
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/csn/

用語説明

白色矮星

恒星が進化の終末期にとりうる形態の一つ。質量は太陽と同程度である一方、直径は地球と同程度のため、非常に高密度の天体。

高密度圧縮

これまでに人類が達成した高密度圧縮の最高記録は、レーザー核融合研究に使われている米国立点火施設により達成された「固体密度の約3千倍」である(2017年)。

フェムト秒

1フェムト秒は10の15乗分の1秒。

ナノメートル

1ナノメートルは10億分の1メートル。

パルサー

規則的にパルス状の電波やX線を放射する天体。

ビッグバン

宇宙の起源は138億年前のある瞬間、ある一点で起こったとされる大爆発。