2012年10月24日

リリース概要

大阪大学大学院生命機能研究科・星子麻記(現所属:慶應義塾大学医学部柚崎研究室)と山本亘彦は、フランスパリ大学Etienne Audinat教授らとの共同研究で、グリア細胞※1の一つであるミクログリアが、本来の役割である脳内環境の維持だけでなく、神経の配線が作られるときにも一役買っていることを見出しました。

ネズミで口髭からの信号は、最終的に大脳皮質の触覚を司る領域(大脳皮質体性感覚野)に伝播されますが、その神経回路が作られるとき、ミクログリアはケモカイン※2と呼ばれる誘引分子によって、入力線維と大脳ニューロンの結合部位に集積し、神経伝達を未熟型から成熟型へと推移させることがわかったのです。すなわち、生後の発達期においてミクログリアは神経細胞から放出されるケモカインによって導かれ、神経回路網の機能発達、成熟を促進することが明らかになりました。

 

研究の背景

脳は神経細胞とグリア細胞から構成されます。グリア細胞の一つであるミクログリアは、死細胞や異物を貪食する掃除屋として知られていますが、脳の機能発現にも深く関わっていることが示唆されるようになってきました。しかし、その役割については不明な点が多く残されています。細胞分子神経生物学グループは、この問題を解明するために、フランスパリ大学のEtienne Audinat教授らとの共同研究として発達期のマウス大脳皮質で研究を行いました。

マウスなどのげっ歯類の大脳では、口髭の1本1本に対応して神経細胞が塊を成して分布し(バレル構造)、生後間もない時期に髭からの入力線維がその細胞塊に侵入します。その後、入力線維は塊内の細胞と結合し、髭の感覚情報が正確に伝播されるようになります。私たちは、ミクログリアが蛍光を発するように仕組んだ遺伝子改変マウスを用いて、その挙動と神経伝達に対する働きを追跡しました。その結果、脳の発達初期にはミクログリアは細胞塊の外側で待機していますが、その後、神経細胞からケモカインが分泌されると、ミクログリアはその細胞塊のシナプス形成部に侵入し、入力線維から大脳神経細胞へのシナプス伝達(グルタミン酸受容体を介する伝達)の成熟を促すことが明らかとなりました。

このように、ミクログリアは脳内の環境を整えるだけでなく、生後の健全な脳発達に必要な存在であることがわかったのです。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果から、大脳の機能発達には、神経細胞同士の結びつきだけでなく、食細胞として知られていたミクログリアが脇役として重要な役割を果すことが明らかになりました。子供の脳発達のメカニズムや環境要因の役割の解明に一石を投ずる成果であります。

 

特記事項

本研究成果は、2012年10月24日(米国東部標準時)発刊のジャーナル・オブ・ニューロサイエンス誌(the Journal of Neuroscience誌、米国神経科学会誌)に掲載されます。本成果は、大阪大学大学院生命機能研究科・細胞神経生物学研究室(山本亘彦研究室、筆頭著者は星子麻記)とパリ大学Etienne Audinat研究室との共同研究によるものです。

 

用語解説

※1 グリア細胞
神経系を構成する神経細胞(ニューロン)ではない細胞の総称。一般に神経細胞の支持、栄養補給、伝達物質やイオンの取り込みなどの役割を果たしているが、ミクログリアだけは白血球の仲間で侵入した菌や死細胞を捕食することが主たる役割である。

※2 ケモカイン
もともと白血球などの細胞が遊走する際、それを誘引するタンパク質として知られているが、最近脳内の神経細胞の動態にも関与することが明らかになってきている。

 

参考URL

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/neurobiol/

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