2014年10月7日

リリース概要

大阪大学大学院生命機能研究科細胞分子神経生物学研究グループ・早野泰史研究員(現所属:大阪大学医学系研究科研究員)、山本亘彦教授は、脳機能の基礎をなす神経細胞(ニューロン)によるネットワーク形成の研究において、視覚や触角などの感覚刺激によってネトリン4と呼ばれるタンパク質が大脳感覚領で分泌され、発達期の脳神経ネットワーク形成に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

研究の背景

発達期の子供の脳では、神経細胞(ニューロン)から成長した軸索はその末端で枝分かれを作り、複数の標的ニューロンと結合します。分岐が活発であればその軸索は多数のニューロンと結合することができますが、分岐が少なければ数少ないニューロンとしか結合できません。このように、軸索分岐は神経回路の機能を左右する発達期に必須の現象であり、この過程に異常が生じると様々な機能障害を引き起こすと考えられます。しかし、軸索分岐をコントロールする分子機構については不明でした。この問題に立ち向かうため、大阪大学大学院生命機能研究科・細胞分子神経生物学研究グループは、北海道大学や鳥取大学と協力し、網羅的な遺伝子探索、組織培養法、遺伝子改変動物による解析などを駆使し、視床から大脳皮質への投射系における軸索分岐のメカニズムを研究しました。

その結果、ネトリン4と呼ばれるタンパク質が生後の大脳皮質で作られ、視床ニューロンの軸索分岐を促進すること、その遺伝子が欠損したネズミの脳内ではその軸索分岐が減少していることを突き止めました。さらに、ネトリン4の量は暗闇で飼育したネズミの大脳皮質では少なく、逆に光刺激を与えると増えることから、視覚などの環境入力によってその量が変化することが分かりました。以上のことから、ネトリン4は生後発達期の環境に合わせてその量を変化させ、脳神経回路形成を調節していることが明らかになりました。

図:感覚刺激によって大脳皮質ニューロンの神経活動が活発になると(右)、ネトリン4の産生が増加し、入力線維である視床軸索の分岐が増大する。それにより、大脳皮質における神経回路が強化される。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

「氏か育ちか(nature or nurture)」という言葉にもある通り、環境が人にどのような影響を与えるのかは非常に重要な研究テーマです。しかし、環境要因が脳神経回路にどのように作用するのか、その具体的な分子メカニズムはほとんど明らかにされていませんでした。本研究結果から、環境入力に応じてネトリン4が大脳皮質細胞から分泌され、脳神経回路を適切化することが明らかになりました。この研究結果は遺伝的な要因だけでなく、幼少期において周囲の環境から適切な刺激を受けることが正常な脳発達に寄与することを分子レベルで証明するものです。本成果は、子供の脳発達のメカニズムを理解するために重要であると共に、精神神経疾患における環境要因の理解に対しても光明をもたらすものとして期待されます。

特記事項

本研究成果は、2014年10月6日発刊の米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences USA)に掲載されます。報道解禁は同年10月7日午前4時(日本時間)に設定されております。

用語解説

軸索
ニューロンの細胞体部から成長する突起で電気信号を伝播する

視床
感覚情報を中継する脳部位であり、その軸索は大脳皮質へ投射する。大脳皮質への主要な入力線維である。

参考URL

研究室HP
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/neurobiol/index.html

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