2019年5月29日

遺伝子操作技術により雄化の仕組みが明らかに

加藤泰彦助教の専門は「環境分子生物学」。環境の変化が生物に与える影響を、分子レベルで理解し応用する学問分野だ。2017年11月に、ミジンコの性決定(雄化)の鍵となる「ダブルセックス遺伝子(Dsx1)」の働きを生きたまま観察することに成功。次いで、環境要因(個体密度や温度など)による、ミジンコの性決定の仕組みを世界で初めて明らかにした。
この快挙を生み出したのが、生物の体内で起きている環境応答の解明に必要となる遺伝子操作技術だ。加藤助教らは、約0.3ミリという極小かつ非常に割れやすいミジンコの卵に、自分たちで作製した極細針を刺し、遺伝子を操るための物質を注入することに成功。「この遺伝子操作技術の開発には何年も費やしました。環境刺激により蛍光たんぱく質が働くよう遺伝子を改変したミジンコを観察し、雄化を誘導するダブルセックス遺伝子が活発に働いている場所(雄に特徴的な触角や生殖器)を特定できたことが、性決定の仕組みの解明につながりました」

ダブルセックス遺伝子を活性化するRNAを発見

また2018年5月には、ミジンコのダブルセックス遺伝子のスイッチをオンにする「長鎖ノンコーディング(非翻訳)RNA、ダパール」を発見。これまでは、ダブルセックス遺伝子の翻訳領域から作られるタンパク質が働き、ミジンコの雄化を誘導すると考えられていたが、「タンパク質を合成しないとされるノンコーディングRNAがダブルセックス遺伝子を活性化させ、雄化が生じる現象を発見しました」。また、ヒトのような遺伝性決定の生物も実は類似した性決定遺伝子を使っているが、スイッチをオンにする仕組みはミジンコとは異なり、性決定を決める仕組みの多様性が判明したという。

生物の環境応答を追究し生態系の保全に貢献したい

加藤助教の興味の対象は生物の性決定に留まらない。「今後、生物が様々な環境要因にどのように応答するのかを追究していきたい。生物の遺伝子や細胞で起きている現象を分子レベルで解明することで、生物群集とそれを取り巻く環境である生態系の仕組みを理解したい。そうすれば、分子生物学の視点から生態系の保全に新たなアプローチができるのではないかと思います」

諦めないこと、丁寧に観察することが大事

加藤助教は「小さい時から自然や生きものが好きだった」。そして高校生の時、環境問題に興味を持ち、環境について研究できる大学に入学。大学時代に環境汚染に警告を発した「沈黙の春/レイチェル カーソン」を読んで感銘を受け、ミジンコに対する環境ホルモンの影響を研究テーマとしたのが、現在の研究につながっている。
研究者としての強みは「諦めないこと」。大切にしているのは、「よく調べ、見逃さないよう丁寧に観察すること。意外なところに発見があったりしますから」。後輩の研究者には「研究材料を大切にしてほしい。ミジンコの研究なら、ミジンコを大切にして常に良い状態を保ち、いつでも実験に使えるようにすることが大事」とアドバイスしている。

●加藤泰彦(かとう やすひこ)
2000年 東京薬科大学卒業。05年 同大生命科学研究科修了(生命科学博士)。同年 自然科学研究機構 基礎生物学研究所研究員。09年 日本学術振興会特別研究員(PD)。12年4月 大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻・特任研究員。同年7月より現職。

(2018年10月取材)

 

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