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脱炭素化への秘策「バイオものづくり」

進化の謎解明にも挑む開拓者

生物工学国際交流センター 教授 本田孝祐

CO₂を食べる人工微生物があるとどうなるだろう? 生物由来の素材を用いて燃料やプラスチックなどを生産する「バイオものづくり」がいま注目されている。地球温暖化防止に向けた「脱炭素化」の鍵になる技術と目され、各国で研究が進む。本田孝祐教授は細菌や酵母、微細藻類といった微生物を使って有用化合物を作り出す研究に長年取り組んできた。「研究は娯楽みたいなところもあります」。環境保護へ貢献する可能性を秘めた最先端の研究であっても、楽しむことを忘れない姿があった。

脱炭素化への秘策「バイオものづくり」

「微生物探し」から始まった

本田教授は学生時代から微生物の研究を続けてきた。「いわゆる発酵生産です。発酵というと食べ物のイメージが強いですが、むしろバイオ燃料やバイオプラスチックなどの有用化合物につながる研究です」。「何か環境保護に役立つことができれば」と選んだ道だった。

微生物はさまざまな働きをする。糖を食べて代謝し、アルコールの一種であるエタノールや、アミノ酸の一種のグルタミン酸をつくる微生物などは、既に商業製品の生産に利用されている。人間にとって役立つ未知の代謝機能を持つ微生物を探す研究者もいる。本田教授自身、「学生時代は近所の土を100カ所ぐらいからとってきて微生物を探していた」という。

最近は遺伝子組み換え技術を用いて、新たな機能を創り出す研究をしている。この10年ほどでよく使うのは「好熱菌」。文字通り高熱を好み、普通の生物であれば細胞を構成するタンパク質が壊れて死滅するような、温泉など高温の環境に生息する。一般に55度以上、種類によっては90度以上でも生きるという。

本田教授はこの性質を利用し、大腸菌の遺伝子組み換えによって好熱菌の酵素を発現させたうえで加熱。大腸菌や途中で生じた不要な反応物を死滅させて好熱菌の酵素だけを取り出した。それら複数の酵素を組み合わせることで、天然には存在しない代謝経路を生み出す「in vitro代謝工学」という技術体系を開発。生産に必要な酵素だけを残すことによって生産効率を高める技術であり、これを使ってアミノ酸の一種であるシステインなど化学物質の生産に成功した。

社会実装を目指すGteXの研究

現在、「微生物を中心とした次世代バイオものづくりプラットフォームの確立」という課題に取り組む。2050年の脱炭素社会実現をにらみ、GX※技術の開発を目指す国立研究開発法人科学技術振興機構の「革新的GX技術創出事業(GteX)」で、「バイオ領域」の事業の一つとして2023年10月、採択された。本田教授は、大阪大学をはじめ神戸大、京都大、東京大など全国13大学・研究所などで構成する共同チーム約30人のリーダーを務める。

チームは2027年度まで、CO₂などを原料に、燃料、樹脂、繊維などを生産できる人工微生物の開発と、バイオものづくり産業の基盤技術の確立に取り組む。生きた細胞による発酵生産や、光合成をする藻類を使って燃料を作る方法を探る。チームには、電気を使ってCO₂を固定する微生物を探す研究者もいる。「本来は糖ばかり食べる大腸菌に、少しだけCO₂を食べさせる方法なども考えたい。割合は少しであっても、大量生産できればGX的には役立ちます」。日本が伝統的に得意としてきた、微生物を使った発酵製造などの技術をさらに向上させることも考えていく。

※グリーントランスフォーメーション

深まる「人間進化」への関心

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GteXは社会実装に向けた研究そのものであり、本田教授自身、社会の「役に立つ」研究を続けてきた。しかし、必ずしもそればかりを追究してきたわけではない。

「基礎研究として微生物の代謝経路を明らかにしていく中で、こんな酵素が見つかった、それを使うとこんな物質ができる、というのが普通の道筋とすれば、僕は逆です」。何らかの物を作るためにいろいろな酵素を評価していくうち、変わったものに出会い、調べてみるとこれまで報告がないものだった、というケースもある。

例えば、好熱菌ではこんな経験をした。高温の環境に棲むのに、酵素が代謝する途中の物質が熱で分解されないのはなぜかという点に関心を持った。調べるうち、そのメカニズムを支える遺伝子を見つけることができた。好熱菌自体は安定性が高く、生産反応が長時間続くため、古くから物質生産などに使われてきた歴史があり、研究者も多い。ところが、「好熱菌が好熱菌たる原因遺伝子の一つ」を見つけたのは「脇道から来た」自分だった。

「応用研究をしている途中で基礎研究にスピンアウトした感じです。普通とは逆の順番ですね」。そんな部分にも、研究の面白さがあると感じている。

好熱菌に関してはもう一つ、自身に影響を与えたことがある。「生命の進化」についての関心が、より深まったのだ。全生物の進化の道筋を描いた図「系統樹」の根元部分には、何種もの好熱菌が現れる。それは、好熱菌が最古の生物であることを示唆している。「好熱菌からは、生物のプロトタイプ的な痕跡がしばしば見つかります。全生物の共通祖先がいたとすれば、それは好熱菌かもしれない。やはりサイエンスとして面白い」。

現状で「進化」はメインの研究ではない。しかし、微生物の可能性を探る研究のプロセスで遭遇するさまざまな事象に対し、本田教授の関心は尽きることがない。

「よく例えるのですが、僕が作っているのは車ではなく、チョロQです。車じゃできないこんな走り方ができますよ、というのが面白い。それが将来的に発展して何か新しいものになればいい」。その笑顔は、研究を心から楽しんでいるように映った。

本田教授にとって研究とは?

「続きが楽しみ」です。連続ドラマを見ているように。自分の仮説を実証するのが研究なので、仮説が合っているか、結果を見るのはドキドキします。たまに斜め上の答えが出ることもあって、それがたまらないですね。

◆プロフィール
京都大学農学部卒業後、2003年、同大学大学院応用生命科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。05年、大阪大学大学院工学研究科助教。10年6月、同学科准教授を経て19年11月から現職。この間の11年4月から3年間、JST特別研究員も務めた。

◆生物工学国際交流センター
1978年工学部の付属組織、95年現センターに。ASEANを中心に研究者らとの学術交流を通じ、アジアにおけるバイオテクノロジー研究のハブ機能を担う。これまでユネスコの研修講座(1973~2003年)など多くの国際プログラムを主導、アジア地域の若手研究者らに対し、当該分野の専門教育も行ってきた。本田教授は「東南アジアでセンターは有名です。多くの修了生が指導的な立場の学者になっていて、留学生の呼び込みにも一役買っています」と話す。02年にはタイ・マヒドン大学内に共同研究拠点(ラボ)を設け、周辺諸国との学術交流や日本人研究者・大学院生の現地滞在型研究も進める。

■参考URL

生物工学国際交流センター

https://www.icb.osaka-u.ac.jp/

(本記事は、2024年2月発行の大阪大学NewsLetter90号に掲載されたものです。

(2023年11月取材)