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大人の歯のつけ根のむし歯「根面う蝕」に注意

「ちょっとミミヨリ健康学」Column Entry No.008

歯学研究科 教授 林美加子

身近な健康・医療情報を、大阪大学の研究者がちょっとミミヨ リとしてお届けするコラム。

大人の歯のつけ根のむし歯「根面う蝕」に注意

超高齢社会における大人のむし歯の増加

超高齢社会において、口の健康の大切さが認識されるようになってきました。 昨今では半数以上の80歳の方が20本以上の歯をキープできていますが、多くの歯が残るようになった高齢者には、歯のつけ根にできるむし歯「根面う蝕」が急増しています。特に、歯周病で歯を支える骨が目減りすると、それまで歯ぐきに覆われていた歯のつけ根が現れるようになります。「歯が長くなった」と感じるのは歯のつけ根の露出のためであり、その象牙質は、かみ合わせ部分のエナメル質と比べて明らかにむし歯になりやすいのです。

また、高齢者の根面う蝕は、唾液(つば)の減少と大きな関係があります。唾液は食事の際の飲みこみをスムースにしたり、免疫力を発揮したりと体に欠かせないものであると同時に、むし歯予防の観点からは酸を中和する大切な役目があります。唾液は、加齢とともに減少することに加えて、高血圧やアレルギーに対する薬を服用したり、頭や首のがんに対する放射線治療を受けた場合には、その減少は著しく、一気に根面う蝕が進行しやすくなります。

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         ▲前歯の根面う蝕;歯周病治療の後、露出した歯のつけ根に発症した。

根面う蝕の削らない治療

根面う蝕治療の基本は、従前の「削って詰める」治療よりは、早期にむし歯の兆候を発見して、削らずに失ったミネラル成分を歯に取りもどす「再石灰化(さいせっかいか)療法」が第一です。とりわけ、初期むし歯の進行停止には、フッ化物配合の歯磨き剤でのブラッシングに加えてフッ化物配合洗口剤によるセルフケアが効果的です。通常の歯磨き剤にはフッ化物が950ppmF程度配合されていますが、大人の根面う蝕の予防あるいは進行停止のためには、1450ppmFのフッ化物配合歯磨剤が適しています。

年々増加する根面う蝕について、効果的な予防とメインテナンスのためには、かかりつけ歯科医院においてう蝕リスク(むし歯になりやすさ)のチェック、食生活に代表される生活指導、そして初期むし歯の早期発見など、一人ひとりにあわせたテーラーメイドのケアを受けることが重要です。歯科医師や歯科衛生士から、歯並びに合った歯ブラシの選び方や当て方はもちろんのこと、歯間ブラシなどの補助器具を用いたていねいな磨き方の指導を受けると良いでしょう。

人生100年時代において、生涯を通して口の健康を見守る、かかりつけ歯科医をもつことをお勧めいたします。

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       ▲奥歯の根面う蝕; 歯ぐきのがんに対する放射線治療の後、唾液が減少して急速に進行した。


大阪大学大学院 歯学研究科 口腔分子感染制御学講座(歯科保存学教室)

歯科保存学教室では、名前の通り『歯を抜くことなく保存する』ことを目指した研究および診療を行っています。


(本記事の内容は、2021年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)