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可視化の「道具」を化学でデザイン

工学研究科・教授・菊地 和也

化学と生物学が融合した研究領域「ケミカルバイオロジー」。世界的に注目され、日本においても急速に進展している。菊地和也教授は、「生きた状態で細胞や分子の機能を可視化する化学プローブ(ある物質を検出するための物質)研究」に取り組み、病気の原因解明や、新しい治療法の研究に役立つ化学物質のデザイン・合成に成果をあげている。

可視化の「道具」を化学でデザイン

生きた細胞を検証できる化学物質を開発

さまざまな疾病の原因などを調べるには、生体内における分子レベルの機能や相互作用を究明する必要がある。しかしこれまでは、採取した細胞をすり潰して調べていたため、得られる情報は限定されていた。菊地教授は生きた細胞で分子の機能を調べようと考え、1992年、対象となる分子と出会うと色や輝度が変化する「蛍光プローブ分子」のデザイン・開発を始めた。「当時生体内で産生されることが着目されていたNO(一酸化窒素)と反応して光り始める『スイッチ』を分子にデザインしたのが、まず初めでした」

(↑動画)酸性のレモン果汁を滴下するとH+付加により緑色に明るく光る『スイッチ』(蛍光プローブ分子)の変化の様子。

独自のプローブ分子で病気の原因を明らかに

菊地教授は、この蛍光プローブ分子により、骨粗鬆症における破骨細胞(骨を破壊する役割を担っている細胞)の動態を明らかにした。「破骨細胞は酸により骨を溶かしています。PHが下がった瞬間に光る分子を作ったことで、破骨細胞が骨を溶かしている現場を可視化できました」
ほかにも、さまざまな標的に対する蛍光プローブ分子を開発。2016年、「タンパク質に張り付くと素早く光り出す」スイッチをデザインしたことで、Ⅱ型糖尿病の発症に、糖鎖(糖が鎖状に連なってできた分子)の機能異常が関わっている可能性を示唆した。

生物学における未知の現象を解明したい

現在、初期がんなどの発見をめざし、MRI(磁気共鳴画像装置)のコントラストを上げられるスイッチをデザインしたプローブ分子を開発中。「生体内に殆ど存在しないフッ素に着目し、がん細胞が出す酵素に反応してコントラストが変化するよう改良しています」。MRIでがんの早期発見が可能になれば、PET(陽電子放出断層撮影)のような被爆の心配がなく、必要な検査費も大幅に抑えることができる。
この研究の面白さは、「自分が作った化学物質が機能して、未知の現象を明らかにできること」。今後については、「可視化しないとわからない生物学の現象は沢山あります。それらを検証できる多様なプローブ分子を開発・高性能化し、生物学や医療分野に貢献できれば嬉しいですね」


菊地教授にとって研究とは

自己表現。一生の殆どの時間を費やし、成功するまで努力し続けられるもの。本当にやりたいことを見つけて仕事にできるのは、とてもハッピーなことだと思います。

●菊地和也(きくち かずや)
1988年、東京大学薬学部卒。94年3月、東京大学大学院 薬学系研究科 博士課程修了、博士(薬学)。同年7月からカリフォルニア大学サンディエゴ校 博士研究員。95年、スクリプス研究所 博士研究員。97年、東京大学大学院薬学系研究科助手。2000年、同助教授。05年より現職。09年、大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授(兼任)。

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(2019年2月取材)