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国際的なプロジェクトを立案・実現・検証し地球規模の保健医療課題を解決

COデザインセンター・特任講師・金森 サヤ子

さまざまな格差による保健医療問題の総合的解決が、国際社会における重要な課題となっている。金森サヤ子特任講師の専門は、公衆衛生学と国際保健学を融合した「グローバルヘルス」。開発途上国の衛生や保健医療を取り巻く環境そのものに目を向け、効果的かつ効率的に課題を解決する仕組みを次々と実現している。

国際的なプロジェクトを立案・実現・検証し地球規模の保健医療課題を解決

革新的な資金調達メカニズムを立案

金森特任講師が2011年頃から関わり始めたのが「ポリオ(小児麻痺)根絶活動」。ポリオは日本では1960年代に猛威を振るったが、ワクチンの普及により、1980年以降野生の(ワクチンによらない)ポリオウイルスによる新たな患者は出ていない。しかし、アフガニスタン・パキスタン・ナイジェリアの三カ国では未だ常在している。そのため「日本でも予防のためのワクチン接種が不可欠で、膨大な医療費が投入されています」

金森特任講師は、外務省で保健医療政策を立案する立場にあったとき、「ポリオが世界で最も根絶に近い病気で、人類が英知を結集して根絶しようとしている」ことを知った。そして「ローン・コンバージョン」という革新的な資金調達メカニズムによるポリオ根絶支援の仕組みづくりに携わることになる。この仕組みは「日本の融資によってパキスタンがポリオ根絶に取り組み、一定の成果を挙げると、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(米国)がパキスタンの代わりに日本にお金を返すというものです」。ポリオ根絶のための資金が必要なパキスタン政府にとっても、ポリオ根絶を進めたいゲイツ財団にとっても、そして自国の予算を効率よく活用し、国際貢献ができる日本にとっても大きなメリットがあり、スタート以降、パキスタンのポリオ発生地域が減少するなど順調に成果をあげている。

持続可能なビジネスモデルを構築

また金森特任講師が2013年頃から携わっている活動として、「ミャンマーの白内障プロジェクト」がある。ミャンマーは世界で最も失明率が高い国の一つで、「その原因の多くは白内障。日本ではお年寄りが罹る病気と思われがちですが、ミャンマーでは紫外線や糖尿病などにより働き盛りの世代での発症も多くみられます」

金森特任講師は、白内障手術に必要な眼内レンズを製造している企業と協働し、2018年、ミャンマーに眼科クリニックを開院。現地の医師による持続可能な形での白内障予防・治療の仕組みづくりに貢献してきている。「3〜5年で黒字化が可能なビジネスモデルを構築できていると思います。医療機器などの無償供与や技術移転だけでは、支援国の撤退後は持続できないことが多い。被支援国も身銭を切る仕組みを作ることが大事なんです」


みんなが心地よく生きて死んでいける社会に

金森特任講師がグローバルヘルスの分野で活動するきっかけとなったのは、大学時代に学内掲示板で目にした張り紙。「『世界では、1時間にジャンボジェット機1機分ほどの数の子どもが感染症による下痢で死んでいる』とあり、解決方法は石けんを使った手洗いなど、新たな薬や治療の開発に限らなかった。当時、大学では基礎研究を行っていましたが、その莫大なお金と時間で、何万人もの子どもたちの命を救えるなと思いました」
基本姿勢は「面白いと思うこと、やりたいことは、誰彼かまわず話します。すると、意外なところで実現につながることが結構あるんです」。やり甲斐は、「人の生死に関わる分野なので、国・宗教・考え方などを超えた、人間としての共感がある。普通なら出会えなかったような人たちと一緒に、新しいプロジェクトを創り出す作業も、とても楽しいですね」
今後については「大げさなことではなく、みんなが心地よく生きて死んでいける社会が作れたらいいなと思っています」と語った。

金森特任講師にとって研究とは

趣味で花を活けていて、研究は左脳でやる華道かなと。研究も華道も、日々の暮らしに不可欠なものではない。でも研究があることで人間の社会は発展し、部屋に花があることで生活に潤いが生まれる。研究は理論で華道は感性。ですから研究は理論でやる華道。

●金森サヤ子(かなもり さやこ)
2002年筑波大学第二学群生物学類卒業。04年ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院修士課程修了、09年東京大学医学系研究科博士後期課程修了(保健学博士)。アビームコンサルティング株式会社、外務省国際協力局、一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ(JIGH)を経て、17年から現職。「開発途上国•新興国における持続可能なヘルスケアビジネスに関する実装の研究」で2018年度大阪大学賞(若手教員部門)を受賞。

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(2019年2月取材)