「仕掛け」で問題解決へと人をいざなう
「つい行動したくなる」を研究する仕掛学
経済学研究科・准教授・松村真宏
ゴミ箱にバスケットボールのゴールがついていたら、 ゴミを投げ入れてみたくなる─。 「つい行動したくなる」ように仕向ける仕掛けを設置して、 効果を検証する仕掛学。松村真宏准教授が提唱する新しい研究分野だ。
人の行動を変えることが解決策に
「仕掛け」の定義について、松村准教授は「問題解決に資するよう人の行動をいざなうもの」と説明する。「日常生活で不便だな、面倒だなと感じることなどを、どうしたら解決できるかと考えたときに、不便・面倒という問題を作り出している人の行動を変えたらいいと考えました。強制的ではなく、ついしたくなるよういざなうんです」
例えば、尿の飛散を防ぐため、つい狙いたくなる「的」がついた男子トイレの小便器▽ファイルボックスの背表紙に斜線を1本引くと一目で順番通りに並んでいるかが分かり、ラインが乱れているとつい直したくなる─などだ。路地の塀などに小さな鳥居が置かれていると、心理的にごみを捨てにくくなるという「行動しない」ケースもある。
天王寺動物園の1本の筒がきっかけ
元々は人工知能を研究したいと、大阪大学基礎工学部に進学。東京大学でも人工知能の研究を続けたが、大阪大学大学院経済学研究科では経営に関するデータ分析の講座を担当している。仕掛学を研究テーマにと思いついたのは2006年。データ分析を専門とする一方で、「世の中のほとんどの事象はデータになっていない」と気づき、研究テーマの変更も視野にもやもやしていた。たまたま遊びに行った天王寺動物園(大阪市天王寺区)で、地上1㍍の高さに望遠鏡のように立てられている1本の筒を見つけた。つい筒をのぞきたくなるように仕向けてあり、のぞくと精巧な象のフンが筒の先に置かれていて、子供たちが楽しそうにのぞき込んでいた。「『あっ、これや』と思いました。筒は人にゾウのフンを発見してもらうための装置になっている。コンピュータに頼るのではなく、人の意識を変えるだけで、普段目が行かないものも発見できるようになるのだと気づきました」と振り返る。
自らの仕掛けで阪大坂をランドマークに
さまざまな仕掛けの事例を集めるだけでなく、自らもバスケットゴール付ゴミ箱を大学のキャンパスに置いたり、ライオン型手指消毒器を作って天王寺動物園に設置したりするなど、いろいろな仕掛けを試し、利用頻度などのデータを集め検証している。また、西宮神社の「開門神事福男選び」になぞらえ、豊中キャンパスへと続く登り坂、通称「阪大坂」を駆け上がる「ゑびす男選び」などのイベントを地元商店街と一緒に企画しているが、これも実は阪大坂に親しんでもらうことで、阪大坂を大阪大学のランドマークにしようという一種の仕掛けでもある。
仕掛学のマンガ本で小学校の自由研究に
マーケティングなど様々な分野で応用が期待できる仕掛学。「誰に説明しても分かってもらえるのが魅力。仕掛けの考え方や物の見方を広めたいので、わかりやすい名称であることが必要。だから『仕掛学』にしました」と話す。昨年出版した著書「仕掛学 人を動かすアイデアのつくり方」(東洋経済)に続き、近く仕掛学のマンガ本を出版し、小学校の夏休みの自由研究に取り入れてもらえないかと考えている。「子供の素直な感性を活かして仕掛けを考えてほしい。できればコンテストを開きたいですね。身の回りの問題に気づき、仕掛けという解決策を考えるプロセスを通じて、学問に興味をもってもらえたら」と仕掛学を広める仕掛けを模索している。
●松村真宏(まつむら なおひろ)
1998年大阪大学基礎工学部システム工学科卒業。2003年東京大学工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。04年大阪大学大学院経済学研究科講師。07年から現職。12〜13年スタンフォード大学客員研究員。
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(2017年3月取材)