脳の多領域の同時刺激でより豊かな感覚が生じることを発見

脳の多領域の同時刺激でより豊かな感覚が生じることを発見

多彩な感覚を生み出す新しい脳刺激法へ

2026-10-21●生命科学・医学系
医学系研究科特任研究員岩田 貴光

研究成果のポイント

  • 脳の一次体性感覚野と島皮質を同時に電気刺激すると、いずれか一方のみを刺激した場合よりも、複数の要素を含む豊かな体性感覚が生じる可能性をヒトで示した。
  • これまで脳を電気刺激して作り出す感覚は、「ピリピリする」「しびれる」といった単純な感覚が中心だったが、本研究では、「やさしく手で触れられている」「しびれと温かさを同時に感じる」など、より複雑な感覚が報告された。
  • 2か所の刺激による感覚には、単にそれぞれの刺激で得られる感覚を足し合わせただけでは説明できない例もみられ、脳の複数の領域を組み合わせて刺激することで、体性感覚を構成する「位置」「温度」「圧力」などの要素を組み合わせて生み出せる可能性が明らかに。
  • 将来的には、神経義手などで得られた情報を脳へ直接伝え、多様な感覚を再建する感覚神経補綴(感覚再建)への発展や、複数の脳領域の相互作用を利用した、新しい脳機能マッピングや脳刺激技術につながる可能性に期待。

概要

大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科学の岩田 貴光特任研究員、栁澤 琢史教授、貴島 晴彦教授らの研究グループは、脳の一次体性感覚野と島皮質を同時に電気刺激すると、1か所だけを刺激した場合に比べて、複数の要素を含む体性感覚が生じる可能性を明らかにしました。

私たちが普段感じている「触覚」は、単純な「触った・触っていない」だけではありません。「どこに触れたか」「どのくらい強く触れたか」「温かいか冷たいか」など、さまざまな情報が組み合わさって作られています。

これまで、脳の一次体性感覚野を電気刺激することで人工的な触覚を生じさせる研究が行われてきました。しかし、1か所だけを刺激する方法では、「ピリピリする」「しびれる」といった単純な感覚になることが多く、触覚の「質」を自在に作り分けることは難しいという課題がありました。

今回研究グループは、難治性てんかんの検査のために頭蓋内電極を留置していた3名を対象として、一次体性感覚野と、その奥にある島皮質をそれぞれ刺激するとともに、2つの領域を同時に刺激しました。その結果、一次体性感覚野だけを刺激した場合には局所的なしびれなどが生じたのに対し、同時刺激では、ある症例で「やさしく手で触れられているような感覚」が生じ、また別の症例では、「しびれ」に加えて「温かいものをそっと当てられたような感覚」が生じました。

これらの感覚は、2つの脳領域をそれぞれ単独で刺激したときの感覚を単純に足しただけでは説明しにくいものでした。この結果は、脳の複数の領域を同時に刺激することで、体性感覚を構成する複数の要素の組み合わせ方を変えられる可能性を示しています。

将来的には、本研究で示した多領域同時刺激の考え方を発展させることで、神経義手などから脳へ、「どこに触れたか」だけでなく、「どのように触れたか」「温かいか」といった複数の感覚要素をより豊かに伝える感覚神経補綴(感覚再建)や、脳内の感覚ネットワークをより精密に調べる新たな脳機能マッピング技術への応用が期待されます。

本研究成果は、2026年9月7日(月)に米国科学誌「Brain Stimulation」(オンライン)に掲載されました。

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図. 一次体性感覚野(S1)単独刺激と、S1・島皮質同時刺激で生じた感覚の違い
S1単独刺激では局所的なしびれなどが生じたのに対し、S1と島皮質を同時に刺激すると、やさしく触れられる感覚や、しびれと温かさが組み合わさった感覚が生じました。

研究の背景

私たちは物に触れたとき、「どこに触れたか」「硬いか柔らかいか」「温かいか冷たいか」といった多くの情報を同時に感じています。これらの感覚は、脳の1か所だけで生じているわけではありません。

特に一次体性感覚野(S1)は、体のどの場所が刺激されたかなどの情報に強く関係しています。一方、脳の深い場所にある島皮質は、温度、圧力、痛み、体の内部から生じる感覚などに関係することが知られています。両者は脳内で互いにつながっています。

これまで、一次体性感覚野を電気刺激すると、手や顔などに人工的な感覚を起こせることが知られていました。しかし、その多くは「ピリピリする」「しびれる」といった単純な異常感覚であり、感覚の場所だけではなく、「温かさ」や「触れ方」といった質まで作り分けることは大きな課題でした。

そこで研究グループは、体のどの場所が刺激されたかなどに関係する一次体性感覚野と、温度や痛みなどに関係する島皮質を同時に刺激することで、より多くの要素を含む感覚を作れるのではないかと考えました。

研究の内容

研究には、難治性てんかんの評価のため頭蓋内に電極を留置していた3名が参加しました。まず、触覚刺激に対する脳波反応などを用いて、一次体性感覚野と島皮質に位置する電極を確認しました。
そのうえで、
① 一次体性感覚野のみを刺激
② 島皮質のみを刺激
③一次体性感覚野と島皮質を同時に刺激
という方法で、電気刺激によって生じた感覚を調べました。複数の脳領域を同時に刺激すると、単一の領域だけを刺激する場合より、複数の感覚要素が組み合わさった体性感覚が生じる可能性が示されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、脳の複数の領域を組み合わせて刺激することで、人工的な触覚の「有無」だけでなく、その質や内容をより豊かに伝えられる可能性を示しました。将来的には、神経義手やロボットハンドなどで得られた触覚情報を脳へ返す感覚神経補綴(感覚再建)への応用が期待されます。

例えば、単に「物に触れた」ことを知らせるだけでなく、どこに触れたのか、どのように触れたのか、温かいのか冷たいのかといった複数の感覚情報を組み合わせて脳へ伝えることができれば、より自然に近い感覚フィードバックにつながる可能性があります。これは、義手を見ながら操作するだけではなく、自分の手で物に触れているような感覚を手がかりに、物を持つ強さや扱い方を調整するといった、より直感的な操作につながることが期待されます。

また、本研究で用いた多領域刺激の考え方は、脳の各部位を個別に調べるだけでなく、複数の脳領域がどのように協力して一つの感覚を作り出しているのかを調べる新しい脳機能マッピングにもつながる可能性があります。将来的な感覚再建技術の発展と、ヒトの感覚を生み出す脳内ネットワークの理解の双方に、新たな研究の方向性を示す成果です。

特記事項

本研究成果は、2026年9月7日(月)に米国科学誌「Brain Stimulation」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Multicomponent somatosensory percepts during simultaneous stimulation of the insular and primary somatosensory cortices”
著者名:Takamitsu Iwata, Takufumi Yanagisawa, Satoru Oshino, Naoki Tani, Hui Ming Khoo, and Haruhiko Kishima
DOI:https://doi.org/10.1016/j.brs.2026.103202

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2012)、戦略的創造研究推進事業 ERATO(JPMJER1801)、K Program(JPMJKP25Y7)ならびに日本医療研究開発機構(AMED)研究費(JP24wm0625207、JP24wm0625517)の支援を受けて行われました。

参考URL

栁澤 琢史教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/ed99bce9a1d58f9e.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

一次体性感覚野

脳の表面にある領域で、手、顔、足など、体のどこが触られたのかといった感覚の処理に重要な役割を果たします。電気刺激すると、対応する体の場所にしびれやピリピリした感覚が生じることがあります。

島皮質

脳の表面から少し奥まった場所にある領域です。温度、圧力、痛み、体の内部の状態に関する感覚など、さまざまな体性感覚に関係しています。また、身体感覚に伴う不快感や心地よさなどの情動的な側面の処理にも関わることが知られています。本研究で注目した一次体性感覚野とも神経回路でつながっており、感覚の強さや質、情動的な意味づけを含む複合的な感覚処理に関与すると考えられています。

体性感覚

皮膚や筋肉などから伝わる「触られた」「温かい」「痛い」「手がどこにある」といった体に関する感覚の総称です。

感覚神経補綴(感覚再建)

失われた触覚などの感覚を、電気刺激などを使って神経や脳に伝え、補うことを目指す技術です。将来、神経義手で物に触れたときに、その触れた場所や触れ方などの情報を脳へ返し、より自然に近い感覚を感じられるようにすることが期待されています。