ばねのような多孔質らせん単結晶を作製

ばねのような多孔質らせん単結晶を作製

水素結合と分子配座を利用した結晶工学の新展開

2026-9-18●自然科学系
基礎工学研究科教授久木 一朗

研究成果のポイント

  • 結晶化条件の制御により、ばねのようならせん形状をもち、1gあたり1185 m2の比表面積と、300 °Cを超える耐熱性を達成した多孔質結晶材料を創出
  • 多孔質結晶材料において、らせん形態をもつ結晶はほとんど報告例がなく、らせんという巨視的な形状を活かした材料の性質や機能の開発は未開拓だった
  • 化学物質の吸着・脱離によって結晶が伸び縮みするマイクロ材料への応用や、らせん形態がもつ機能と多孔性を組み合わせた新たな材料への展開に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の村田優月さん(博士前期課程)、橋本泰利さん(博士後期課程)、桶谷龍成講師、久木一朗教授の研究グループは、同大学院工学研究科の成岡未来さん(博士後期課程)、藤内謙光教授、大阪公立大学の田村僚祐さん(博士前期課程)、酒巻大輔准教授、NIMSの長田裕也博士、金沢大学の山下美桜さん(博士前期課程)、森本将行助教、淺川雅教授らと共同で、ピレン骨格をもつカルボン酸誘導体の結晶化温度を調整することにより、ばねのようならせん状の多孔質結晶を世界で初めて構築しました(図1)。さらに、このらせんが、内部空間への分子の出し入れによって伸び縮みすることを発見しました。

一般に、結晶とは直線的な辺で構成される柱状の形をイメージしますが、有機分子ではらせん状やねじれた結晶が生じることもあります。しかし、多孔質結晶材料においてはらせん形態をもつ結晶はほとんど報告例がなく、らせんという巨視的な形状を活かした材料の性質や機能の開発は未開拓でした。

今回、研究グループは、ピレン骨格をもつカルボン酸誘導体の溶液を、120 ℃で比較的速く蒸発させることにより、結晶の内部にチャネル状の空間をもつ多孔質結晶がらせん状に成長することを見出しました。さらに、らせん結晶を加熱して結晶内部の溶媒分子を除去すると、らせんが伸び、溶媒に浸漬させると縮むという、ばねのような伸縮挙動を示すことを明らかにしました。これにより、結晶の内部構造だけでなく、サブミリメートルスケールの結晶の形状やその変化を利用した新たな機能の創出が期待されます。

本研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に、9月7日(月)に公開されました。

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図1. 本研究で使用した分子の構造と、結晶構造および結晶写真。

研究の背景

結晶というと、一般的には平らな面と直線的な辺からなる、角ばった形状を思い浮かべます。しかし実際には、比較的小さな有機分子の約4分の1から3分の1は、らせん状やねじれた形態をもつ結晶を形成すると言われています。らせん状結晶は、その特徴的な形状だけでなく、光学的・電子的な性質や、分子を認識する性質、外部刺激に対する応答性などの観点からも注目されています。近年では、金属有機構造体(MOF)や共有結合性有機構造体(COF)といった多孔質結晶材料においても、らせんなどのねじれた形態をもつものが報告されています。しかし、これらの材料ではナノメートルサイズの小さな結晶や、複数の結晶が集合した凝集体・束が形成されやすく、単一のらせん結晶の構造と形態との関係を明らかにすることは困難でした。
有機分子が水素結合で連結した多孔質結晶である水素結合性有機構造体(HOF)は、MOFやCOFに続く新たな多孔質結晶材料として興味がもたれています。HOFは、可逆的な水素結合の形成と解離によって構築されるため、サブミリメートルサイズの大きな結晶を形成しやすく、精密な結晶学的解析や光学顕微鏡による結晶形態の観察が可能です。この特徴により、分子の配列(結晶構造)と、結晶の形状との関係を明らかにできる可能性があります。さらに、HOFの多孔性とらせん形態を組み合わせることで、空孔への分子の吸着・脱離に応じた結晶形態の変化など、新しい機能の発現が期待されます。

研究の内容

研究グループでは、2,7位に4,4''-ジカルボキシ-m-テルフェニル(DmT)基を有するピレン誘導体の結晶化条件を制御することで、らせん状の単結晶形態をもつHOFを構築しました。具体的には、この化合物を、N,N-ジメチルホルムアミドと1,2,4-トリクロロベンゼンの混合溶液を用いて60 ℃で結晶化すると、直線的な針状の単結晶が得られるのに対して、120 ℃で結晶化すると、ねじれた結晶が得られることを見出しました。熱力学的に安定な二次元ネットワーク構造の中に、速度論的に捕捉された対称性の低い三次元ネットワーク構造が局所的な欠陥として生じることで、非対称な結晶成長が進み、らせん状の結晶が形成されるというシナリオを提案しています。このらせん結晶は、1g当たり1185 m2の比表面積をもつ多孔質材料であり、350 ℃まで加熱してもその多孔質構造を維持できるほど安定です。

さらに、らせん状HOFの内部に取り込まれた溶媒分子を除去するとらせんが伸び、再び溶媒分子を取り込ませるとらせんが縮むという、ばねのような伸縮挙動を示すことを見出しました。また、ピレンとは異なる光物性を示すナフタレンジイミド類縁体とともに共結晶化することで、らせん構造を維持したまま蛍光発光特性を変調したり、ダブルヘリセンと呼ばれる2つのらせん構造をもつ分子と共に共結晶化することで、二重らせん形態の結晶を得ることにも成功しました。これらの結果は、分子レベルの微視的な設計にとどまらず、巨視的な結晶の形態を制御することで、新たな機能をもつ有機材料を創出できる可能性を示しています。

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図2. らせん形成のメカニズム(上)と加熱によりらせんが伸長する様子(左下)、および多成分のドープによる蛍光色・形態の変化(右下)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、らせん形態がもつ機能と多孔性を組み合わせた新たな材料への展開が期待されます。例えば、分子の吸着・脱着によって伸縮する性質を利用した、化学物質に応答して動くマイクロサイズのアクチュエータや、結晶内部のらせん状の空孔を利用して分子やイオンをらせん状に配列させる鋳型材料などへの応用が考えられます。

特記事項

本研究成果は、2026年9月7日(月)にドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Helical Single Crystals of Porous Hydrogen-Bonded Organic Frameworks as a Candidate for Morphologically Functional Organic Materials”
著者名:Yuzuki Murata, Taito Hashimoto, Ryusei Oketani, Miki Naruoka, Yuuya Nagata, Ryosuke Tamura, Mio Yamashita, Masayuki Morimoto, Daisuke Sakamaki, Norimitsu Tohnai, Hitoshi Asakawa and Ichiro Hisaki
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.7959451

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP23H04029、JP24K01468、JP25H01672、およびJP25H02042)の助成を受けて実施されました。蛍光測定は、大阪大学 大学院基礎工学研究科 草本哲郎教授および松岡亮太講師の協力を得て行われました。また、大阪大学D3センターの、「Supercomputer for Quest to Unsolved Interdisciplinary Datascience(SQUID)」を利用して行われました。HR-MS測定は、大阪大学 大学院理学研究科 質量分析センターの装置を用いて実施しました。SCXRD測定は、JASRIの許可(課題番号2025A1137)を得て、SPring-8(BL41XU)で行いました。JASRIの一柳光平博士、佐々木俊之博士、馬場清喜博士、河口彰吾博士の協力を得て行われました。計算は、岡崎市にある理化学研究所計算科学研究センター(課題番号:25-IMS-C115、26-IMS-C106)を用いて行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

多孔質結晶

内部に分子が入り込める微細で規則的な空間(細孔)をもつ結晶。

金属有機構造体(MOF)

金属イオンと有機配位子が配位結合によって連結して形成される多孔質材料。

共有結合性有機構造体(COF)

有機分子が共有結合で連結して形成される多孔質材料。

水素結合性有機構造体(HOF)

有機分子同士が水素結合で連結して形成される多孔質結晶。可逆的な水素結合を用いているため、結晶性が高く、大きな結晶を形成しやすいという特徴をもつ。