
\“貼る"も“剥がす"も光で自在に/ 光を当てるだけできれいに剥がれる接着剤
基板を傷つけずに再利用できる光応答接着材料を開発
研究成果のポイント
- 光照射によって接着界面近傍の力学状態を局所的に変化させ、選択的に剥離できる新しい光応答接着材料を開発
- 接着剤が基板へののり残りを低減し、基板の再利用の可能性を広げる
- 電子機器や自動車などの分解・リサイクル技術への応用や次世代接着材料設計の新たな指針となることに期待
概要
JST戦略的創造研究推進事業CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」(研究代表者:髙島 義徳 教授)の一環として、大阪大学大学院理学研究科の髙島 義徳 教授、三重大学の藤井 義久 准教授、山形大学の松葉 豪 教授、および大阪工業大学の上辻 靖智 教授の研究グループは、光照射(紫外線照射)によって接着界面近傍の力学特性を変化させ、選択的に剥離できる接着材料を開発しました。
近年、電子機器や自動車などでは接着剤が広く利用されています。しかし、使用後には接着剤が基板に残るため、材料の再利用が難しいという課題があります。研究グループは、光応答性アクチュエータの設計を接着材料へ応用し、接着剤全体を変化させるのではなく、光照射によって接着界面近傍の力学特性を変化させて、基板へののり残りを低減した新しい接着システムを開発しました。紫外線を照射することによって接着面を基板から選択的な剥離が可能となり、接着剤が基板に残さず、さらに波長の異なる紫外線を照射する再接着も可能であることからリユースも可能であることを実証しました。
本研究は、電子材料やプラスチック製品の循環利用を支えるだけでなく、動的高分子界面(Dynamic Polymer Interfaces)に基づく次世代接着材料設計の新たな指針となることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌Cell Pressの「Matter & Light」に、日本時間(JST) 2026年9月4日(金)0:00に公開されました。
図1. 光応答接着材料の概念図。光照射によって接着界面近傍の力学特性を変化させることで、のり残りのない選択的な剥離と基板の再利用を実現する。
研究の背景
接着剤は製品を組み立てる上で不可欠ですが、一度接着すると剥がしにくく、無理に剥がすと基板や接着剤が損傷します。そのため近年は、「使用後に必要なときだけ剥がせる接着剤」が求められています。しかし従来の刺激応答接着材料は刺激に対して、材料全体の力学強度を下げるために、接着剤が基板上に残るという問題がありました。
研究の内容
研究グループでは、これまでに開発してきた可逆的な架橋を有する光応答性エラストマーに着目し、その光照射面の弾性率が可逆的に変化するという特性を接着材料へ応用しました。これは、光照射によって接着剤全体を弱くするのではなく、接着界面近傍の力学特性を変化させる設計思想(界面スイッチングです。この材料設計により、光照射した部分だけを選択的に剥離し、波長の異なる紫外線照射によって接着性能を回復させることで、繰り返し使用できる光応答接着材料を実現しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、可逆的な結合に基づく分子の組み合わせで接着界面の剥離を制御する一つの新たな接着材料設計です。接着剤全体を変化させるのではなく、接着界面の力学特性を変化させる設計思想は、電子機器や自動車などの分解・修理・リサイクルを容易にするだけでなく、接着材料そのものの回収・再利用も可能にします。本成果は、電子機器・モビリティ・半導体実装など幅広い分野で、資源循環型ものづくりを支える基盤技術となることが期待されます。今後、動的高分子界面に基づく材料設計は、循環型ものづくりや高機能接着材料の創製を支える基盤技術として発展することが期待されます。
特記事項
本研究成果は、米国東部時間(EDT)2026年9月3日(木)11:00、日本時間(JST) 2026年9月4日(金)0:00に米国科学誌Cell Pressの「Matter & Light」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Interfacial Switching-Driven Photoactuator Adhesives for Selective Peeling and Substrate Recycling”
著者名:Yunpeng Qian, Jiaxiong Liu, Kenji Yamaoka, Sho Kosaba, Ryohei Ikura, Shintaro Yasuda, Yoshiki Uegaki, Yoshihisa Fujii, Go Matsuba, Yasutomo Uetsuji, and Yoshinori Takashima
DOI:https://doi.org/10.1016/j.matlit.2026.100094.
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」(研究代表者:大阪大学 髙島 義徳 教授、課題番号 JPMJCR22L4)の支援を受けて実施されました。本成果は、CRESTで推進してきた「分解・劣化・安定化」という課題解決に基づいて展開した接着材料に関する成果です。
参考URL
高分子材料設計学研究室HP
https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/takashima/
研究者総覧URL(髙島義徳)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/a3b35b7b8ef4f77b.html
研究者総覧URL(松葉豪)
https://yudb.kj.yamagata-u.ac.jp/html/100000265_ja.html
研究者総覧URL(上辻靖智)
https://research-db.oit.ac.jp/html/100000771_ja.html
藤井研究室HP
http://www.oms.chem.mie-u.ac.jp/
SDGsの目標
用語説明
- 接着界面
接着剤と基板が接触している境界部分です。本研究では、光照射によって接着界面近傍の力学特性を変化させることで、のり残りのない剥離を実現しました。
- 光応答性アクチュエータ
光を照射すると形状や力学特性が変化する材料です。本研究では、光照射によって材料表面の弾性率が変化し、その結果として材料が屈曲する性質を利用しています。
- 可逆的な架橋
ホスト–ゲスト相互作用。分子同士が共有結合ではなく、分子間相互作用によって可逆的に結び付いた構造です。本研究では、シクロデキストリンとスチルベンの包接錯体形成を非共有結合として利用することで、光刺激に応答する可逆的な架橋構造を構築しています。
- 弾性率
材料の硬さや変形しにくさを表す指標です。本研究では、光照射によって照射面の弾性率だけが可逆的に変化し、この局所的な力学特性の変化を利用して接着界面を制御しています。
- 界面スイッチング
Interfacial Switching。光刺激によって接着剤内部ではなく、接着界面近傍に局所的な力学変化を生じさせる設計思想です。従来のように接着剤全体を弱くする方法とは異なり、接着剤や基板を損傷させずに剥離できることが特徴です。






