\生分解性プラスチックの強度と分解性の両立へ/ ポリカプロラクトンの酵素分解速度を自在に設計

\生分解性プラスチックの強度と分解性の両立へ/ ポリカプロラクトンの酵素分解速度を自在に設計

分子のリングサイズで強さと寿命を制御

2026-9-1自然科学系
理学研究科教授高島 義徳

研究成果のポイント

  • 分子の輪の大きさ(リングサイズ)が、生分解性プラスチックであるポリカプロラクトン(PCL、脂肪族ポリエステル)の酵素分解速度を決定する新しい設計因子であることを明らかに
  • ロタキサン構造による「動く架橋」を導入することで強靱性と再利用性を両立し、熱再成形性も保持。
  • 用途に応じて寿命を設計する次世代の生分解性材料の開発や産業副産物を高機能な超分子材料へアップサイクルすることで、資源循環やサーキュラーエコノミー実現への貢献に期待

概要

JST CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」の一環として、大阪大学大学院理学研究科のBin Sunさん(博士後期課程2年)、高島義徳教授らの研究グループは、産業副産物である環状ポリフェニレンスルフィド(c[n]PS)を生分解性プラスチックの可動性架橋(動く架橋)として導入し、分子の輪の大きさ(リングサイズ)を変えるだけで、生分解性プラスチックの寿命(酵素分解速度)を自在に設計できる新しい材料設計法を示しました(図1)。

これまで、生分解性プラスチックでは、実用的な強度と使用後の分解性を同時に設計することは困難でした。今回、研究グループは、PPS(ポリフェニレンスルフィド)製造時に副産物として生じる環状ポリフェニレンスルフィドを、有機溶媒を用いない環境調和型プロセスによって生分解性ポリエステル(PCL)へ「動く架橋」として導入しました。その結果、材料の剛性(ヤング率)を維持したままタフネスを約2倍向上させるとともに、リングサイズを変えるだけで酵素分解速度を自在に制御できることを明らかにしました。

本研究成果は、未利用の産業副産物を高機能材料へアップサイクルするとともに、用途に応じて寿命を設計できる次世代生分解性プラスチックの実現につながる成果として期待されます。

本研究成果は、米国化学誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」に、2026年9月1日(火) 14時(日本時間)に公開されました。

20260901_1_1.png

図1. PPS製造時の副産物である環状ポリフェニレンスルフィド(c[n]PS)を「動く架橋」として生分解性プラスチックへ導入した。分子の輪の大きさを変えるだけで、材料を強靭化するとともに、酵素分解速度(寿命)を自在に設計できる。

研究の背景

現代社会においてプラスチックは不可欠な材料ですが、環境中への蓄積や資源循環の観点から、生分解性プラスチックへの期待が高まっています。しかし、生分解性ポリエステルは実用的な強度(タフネス)が十分ではなく、高性能化が大きな課題となっていました。

これまで、ブレンドや共重合などによって材料を強くする研究は数多く行われてきましたが、強度の向上と生分解性の両立は容易ではありませんでした。さらに、材料を「いつ」「どのくらいの速さで」分解させるかという寿命そのものを設計する研究はほとんど行われていませんでした。

そこで本研究では、産業副産物である環状ポリフェニレンスルフィド(c[n]PS)を動く架橋として利用し、分子の輪の大きさ(リングサイズ)を変えるだけで、PCLをモデル材料として、強靱化と酵素分解速度の制御を同時に実現する新しい材料設計法に挑戦しました。

研究の内容

本研究グループは、JST CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」の一環として、PPS(ポリフェニレンスルフィド)製造時に副産物として生じる環状ポリフェニレンスルフィド(c[n]PS)に着目しました。リングサイズごと(c[5]PS、c[7]PS、c[9]PS)に単離し、有機溶媒を用いない環境調和型プロセスによって、生分解性ポリエステル(PCL)の主鎖へ可動性架橋(動く架橋、ロタキサン構造)として導入しました。

その結果、分子の輪が応力に応じて滑る「滑車効果」により、材料の剛性(ヤング率)を維持したまま、タフネスを約2倍まで向上させることに成功しました。さらに、この材料は熱再成形が可能であり、繰り返し利用できることも確認しました。

本研究で最も興味深い発見は、分子の輪の大きさ(リングサイズ)が、生分解性プラスチックの寿命を決定する新しい設計因子であることを明らかにした点です。中程度のリングサイズ(c[7]PS)では分子運動が適度に抑えられることで酵素分解が抑制され、材料の長寿命化が実現しました。一方で、より大きなリングサイズ(c[9]PS)では、予想に反して分子鎖の自由度が高まり、酵素が作用しやすくなることで分解が著しく促進され、48時間以内に完全分解することを見いだしました(図2)。

本成果は、JST CRESTが推進する「分解・劣化・安定化の精密材料科学」において、材料寿命を分子設計によって自在に制御する新しい設計指針を示すものです。

20260901_1_2.png

図2. 廃棄環状ポリフェニレンスルフィドを活用した高機能ポリエステルの創製コンセプト。
廃棄環状ポリフェニレンスルフィド(c[n]PS, n = 5, 7, 9)を、ε-カプロラクトンの溶媒フリー重合に利用することで、環状ポリスルフィドが分散したPCL-c[n]PSエラストマーを作製した。環状ポリスルフィドの導入により材料の力学特性が向上するとともに、環サイズに応じて酵素分解速度を加速または抑制できることを示し、廃棄物を高機能材料へと転換する「Waste-to-Value」の新しい設計指針を提案した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、分子の輪の大きさ(リングサイズ)という新しい設計因子によって、生分解性プラスチックの寿命を自在に設計できることを示した成果です。従来は、材料を「丈夫にすること」と「分解しやすくすること」は相反する特性と考えられてきましたが、本研究は、その両方を分子レベルで制御できる新しい材料設計の可能性を示しました。

この考え方は、使用期間中は十分な耐久性を保ち、役目を終えた後は速やかに分解させるなど、用途に応じて寿命を設計する次世代の生分解性材料の開発につながることが期待されます。また、PPS製造時に副産物として生じる環状ポリフェニレンスルフィドを高機能な超分子材料へアップサイクルすることで、資源循環やサーキュラーエコノミーの実現にも貢献することが期待されます。本成果は、JST CRESTが目指す「分解・安定化を自在に制御する材料科学」の実現に向けた重要な基盤技術となることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年9月1日(火) 14時(日本時間)に米国化学誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Upcycling Waste Cyclic Poly(phenylene sulfide) as Valuable Movable Crosslinkers for Toughening and Ring-Size-Controlled Enzymatic Degradation of Polycaprolactone”
著者名:Bin Sun, Jiaxiong Liu, Kenji Yamaoka, Koki Nishida, Akihide Sugawara, Sho Ito, Hiroshi Uyama, Yu Fukunaga, Yoshinori Takashima
DOI: 10.1021/acssuschemeng.6c05417

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR22L4)、国際ポリウレタン技術振興財団、トヨタ理研などの支援を受けて行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

酵素分解

生体触媒である酵素によって触媒される分解反応。酵素とは生体内外で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。

ロタキサン構造

環状の分子の中に軸状の分子が通り、その両端に脱落防止の巨大な基(キャップ)がついた超分子構造。分子同士が化学結合で固定されていないため、環が軸上を自由に動くことができる。

強靭性

材料が強くて良く伸びる性質。材料が破壊するまで延伸した時の応力‐ひずみ曲線において、強度と伸びの積分値により算出した値(タフネス)が高い状態。

アップサイクル

不要なものや廃棄物を、より良い品質と環境価値の新しい材料または製品にアップグレードして役立てるプロセス。

生分解性プラスチック

微生物の働きによって分子レベルまで分解され、最終的に二酸化炭素と水となって自然界へ循環していくポリマー素材のこと。PCL等が該当する。

可動性架橋

架橋とはポリマー鎖間を連結することであり、「紐が輪を貫通した構造」により連結した場合、可動性架橋となる。ポリマー鎖上をリング状分子(例:シクロデキストリン)が滑ることにより、材料に印加された力を分散するため、可動性架橋によるポリマー鎖の強靭化が可能である。