規則配列した粒々が壊れる「前ぶれ」を理論で解明

規則配列した粒々が壊れる「前ぶれ」を理論で解明

壊れる寸前の結晶ではゆるやかな波ほど音が遅くなる

2026-8-27自然科学系
理学研究科助教仲井 文明

研究成果のポイント

  • 目に視える粒々(粉粒体)を整列させてできる結晶せん断変形すると、壊れる直前で特定の二つの向きに沿って多くの振動(フォノン)が一斉にやわらかくなり(小さな力で大きく揺れる)、ゆるやかな波(長波長)ほど遅く伝わるという、ふつうの固体では起こらない性質(結晶が壊れる「前ぶれ」)が現れることを発見
  • 砂や粉のような目に視える大きさの粒の集まりも、きれいに並べると結晶のような固体になり、バラバラのときより強くなることが知られているが、この「粒の結晶」に力を加えたとき、壊れる直前に内部で何が起きているのかは分かっていなかった
  • 粉粒体やコロイド結晶など、粒が規則正しく並んだ材料がいつ・どのように壊れ始めるのかを理解し、予測するための基礎になることに期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の仲井文明助教と桂木洋光教授、島根大学の大槻道夫教授、京都産業大学の齊藤国靖教授の研究グループは、粒が規則正しく並んだ結晶が力を受けて壊れる直前に、特定の方向の波の振動が一斉にやわらかくなり(低周波になり)、音の伝わり方が通常の固体と異なる異常な状態が現れることを理論的に明らかにしました。

砂や粉のような粒の集まり(粉粒体)も、きれいに並べると強い結晶になります。しかし、この結晶に力を加えて壊れる直前、内部で何が起きているのかは分かっていませんでした。

今回、研究グループは、マクロな粒々から成る完全結晶をゆっくりとせん断変形し、壊れる直前の状態を、結晶内部の振動に注目して詳しく調べました。その結果、壊れる直前には、特定の2つの方向に沿って多くの振動(フォノン)が一斉にやわらかくなる(小さな力で大きく揺れる)ことを発見しました。さらに、ふつうの固体では、波長が十分に長い音は、波の細かさによらず同じ速さで伝わるのに対し、壊れる直前の結晶では、ある向きに沿って細かい波よりもゆるやかな波のほうが遅く伝わるという異常な性質が現れることを、数式で導きました。

この成果は、粉粒体やコロイド系など、粒が規則正しく並んだ材料がいつ・どのように壊れ始めるのかを理解し、予測するための基礎になると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Physical Review E」に、8月27日(木)午前0時(日本時間)に公開されました。

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図1. 研究の概要:粒子を規則正しく並べ、トランプの山を横にずらすようなせん断変形を加える。そのうえで系を小さくゆさぶり、どのような周波数で振動するかを理論的に調べた。その結果、壊れ始める直前には,通常の固体とは異なる特異的な振動特性が現れることが分かった。

研究の背景

砂や粉のような粒の集まり(粉粒体)は、食品や薬品、地盤など私たちの身の回りにあふれています。こうした粒々も、大きさを揃えてきれいに並べると結晶のような強い固体になります。一方で、固体に大きな力を加えると、あるところで変形が元に戻らなくなり、壊れ始めます。この壊れ始めを「降伏」と呼びます。

材料が壊れるかどうかは、これまで主に「硬さ」の指標を使って判定されてきました。しかし、粒が規則正しく並んだ結晶が降伏する直前に、内部でどのような力学的状態の変化が起きているのかは分かっていませんでした。

研究の内容

研究グループは、結晶の規則正しさを利用すると、あらゆる振動を数式で厳密に扱うことができることから、粒が三角格子状に規則正しく並んだ二次元の完全結晶を対象とし、これをゆっくりずらして(せん断)壊れる直前の状態を、結晶内部の振動に注目して理論的に詳しく調べました。

その結果、壊れる直前には、特定の向きに沿って多くの振動が一斉にやわらかくなることを発見しました。ここでいう「やわらかい」とは、小さな力でも大きく揺れてしまう状態のことです。この様子は、波数空間と呼ばれる波を整理した「地図」の上に描くと、はっきり見えます。中心からの向きが波の進む向きを、中心からの距離が波の細かさを表し、色がやわらかさを表します。ふつうの固体では、中心のまわり(ゆるやかな波)だけがやわらかく見えます。ところが壊れる直前には、やわらかい領域が二つの向きに沿って中心から細長く伸び、「十字形」に広がることが分かりました(図2)。

さらにこのとき、音の伝わり方にも異常が現れます。ふつうの固体では、波長が十分に長い音は、波の細かさによらず同じ速さで伝わります。ところが、壊れる直前の結晶では、ある向きに限って、細かい波よりもゆるやかな波のほうが遅く伝わるようになることがわかりました。

また、やわらかい振動の割合が、ふつうの固体で成り立つ法則(デバイ則)から予測される割合に比べて大幅に増えることも分かりました。研究グループは、これらの異常な法則を、係数まで含めて数式で導きました。この結果は、別の種類の粒同士の力(相互作用)を仮定した場合にも成り立つことを確認しており、幅広い系に現れ得る性質と考えられます。

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図2. 波数空間という波を整理した「地図」の上に見える、やわらかさ(=小さな力でどれだけ大きく揺れるか)の分布。中心からの向きが波の進む向きを、中心からの距離が波の細かさを表し、色がやわらかさを表す(黄色ほどやわらかい)。変形を加える前(左)は、中心のまわりだけがやわらかい。壊れる直前(右)では、やわらかい領域が二つの向きに沿って細長く伸び、「十字形」に広がる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、マクロな粉粒体から構成された結晶が壊れる直前に、多くの振動が一斉にやわらかくなり、ゆるやかな波ほど遅く伝わるようになることを明らかにしました。

この成果は、秩序立った粒子系が壊れる直前にどんな変化を示すのかを理解する手がかりになります。とくに、コロイド結晶や、粒がきれいに並んだ粉粒体など、欠陥の少ない秩序立った粒子系のふるまいを読み解く土台になると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年8月27日(木)午前0時(日本時間)に米国科学誌「Physical Review E」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Anomalous phonon dispersion near yielding in athermal crystals”
著者名:Fumiaki Nakai, Michio Otsuki, Kuniyasu Saitoh, and Hiroaki Katsuragi
DOI: https://doi.org/10.1103/3lnj-1ml1

なお、本研究は、JSPS科研費(JP24KJ0156、JP25K17359、JP24H00196、 JP23K03248、JP26K06964、JP25K01158、JP22K03459)およびJST ERATO(JPMJER2401)の研究の一環として行われ、本研究における計算は東京大学物性研究所スーパーコンピュータセンターの設備を利用して行われました(2025-Ba-0063)。

参考URL

仲井文明助教 ホームページ
https://fumiaki-nakai.net/ja/index.html

桂木洋光教授 ホームページ
http://life.ess.sci.osaka-u.ac.jp/

大槻道夫教授 ホームページ
https://nonlin.shimane-u.ac.jp/#team

齊藤国靖教授 ホームページ
https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~sithuny/

SDGsの目標

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

粉粒体

砂や米粒、粉のように、小さな固体の粒がたくさん集まってできたもの。一粒ずつは固体だが、全体としては流れたり積もったりして、液体とも固体とも異なるふるまいを見せる。

結晶

粒子(原子や分子、粒など)が規則正しく、くり返しのある形に並んだ状態。並び方が乱れているアモルファス(非晶質)と対になる概念。

せん断

物体の上下や左右を、たがいに逆向きにずらすように加える力、またはその変形。トランプの束を横にずらすときのような変形をイメージするとよい。

フォノン

物質を構成する多数の粒子が、足並みをそろえて振動するときの決まった揺れ方のこと。揺れ方ごとに固有の振動数をもつ。物質の中を進む音は、こうした揺れ方がいくつも合わさってできている。

波数空間

振動や波を、「進む向き」と「波長(波の細かさ)」で整理して表すための空間。ふつうの地図が場所を縦・横で表すのに対し、波数空間は波の性質を座標で表す。