\AIが切り拓くバイオハイブリッドナビゲーション/ リアルタイム地形認識AIにより 昆虫サイボーグのナビゲーション性能を向上

\AIが切り拓くバイオハイブリッドナビゲーション/ リアルタイム地形認識AIにより 昆虫サイボーグのナビゲーション性能を向上

昆虫の登攀能力を活かす新技術

2026-8-21工学系
工学研究科教授森島 圭祐

研究成果のポイント

  • 昆虫が持つ高い登攀(とうはん)能力とAIによるリアルタイム地形認識(平地・登り・下り・穴)を組み合わせることで、従来よりも高速かつ効率的に障害物を通過できる昆虫サイボーグの新たな自律ナビゲーションシステムを開発。
  • 従来の自律ナビゲーションは、衝突回避を目的とした経路生成が中心で、安全性は高い一方、昆虫が乗り越えて通過可能な障害物も回避するため経路が長くなり、探索効率が低下するという課題があった。
  • 本技術が提案するバイオハイブリッドフィジカルAIによる、災害現場や都市インフラ、未踏破の洞窟などの複雑地形における自律探索ロボットやサイボーグ昆虫による効率的な探索・点検への応用や、長期的には生物とAIが協働する新たな探索プラットフォームの構築に期待。

概要

インドネシアディポネゴロ大学のモハメド・アリヤント助教授(研究当時:大阪大学大学院工学研究科招へい教員)と大阪大学大学院工学研究科の森島圭祐教授らの研究グループは、昆虫が本来持つ高い登攀能力とAIによる地形認識を組み合わせることで、従来よりも高速かつ効率的に障害物を通過できる昆虫サイボーグの新たなナビゲーションシステムを開発しました(図1)。

従来のナビゲーションシステムは、センサとアルゴリズムによって周囲の環境を認識し、障害物を回避する移動経路を生成する手法が主流であり、昆虫サイボーグにも同様の手法が用いられていました。しかし、この方法では昆虫が本来持つ障害物を自然に乗り越える能力を十分に活用できず、探索経路が非効率になるという課題がありました。

本研究では、多層パーセプトロン(MLP)によって地形(平地・登り・下り・穴)をリアルタイムで分類し、地形に応じて昆虫への刺激制御を適応的に切り替えることで、障害物の登攀や穴の横断を大幅に高速化しました。

本研究が提案するバイオハイブリッドフィジカルAIは、昆虫の自然な行動能力とAIを統合することで、省電力かつ高機動な新しいバイオハイブリッドロボットの実現に寄与するとともに、生物とAIが協働する新たな探索プラットフォームの構築につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Device」に、8月21日(金)夜0時(日本時間)に公開されました。

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図1. 登攀する昆虫サイボーグ

研究の背景

これまでのロボット制御における自律ナビゲーションシステムは、障害物との衝突を避ける経路生成を基本としており、昆虫サイボーグにも同様の手法が用いられてきました。しかし、この手法では素体となる昆虫が本来乗り越えられる障害物まで回避してしまうため、探索経路が長くなり、移動効率が低下するという課題がありました。特に、障害物が密集した複雑な環境では、この課題がより顕著となります。

研究の内容

本研究では、IMUとToFセンサから得られるデータをMLPで解析し、地形を平地・登り・下り・穴の4種類にリアルタイムで分類することで、地形に応じて昆虫への刺激制御を動的に切り替える新たなナビゲーションシステムを開発しました(図2)。地形認識はオフライン評価で92%の分類精度を達成し、実環境に近い条件下でも運用可能な分類精度を維持することができました。

提案手法では、平坦地では昆虫サイボーグが停止した場合にのみ尾葉へ刺激を与え、上り坂や穴では尾葉刺激を継続することで前進を促し、登攀時や穴の横断時におけるためらいを低減しました。一方、下り坂では尾葉刺激を抑制することで転倒リスクを低減し、昆虫本来の歩行能力を活かした安全な降下を実現しました。これらの適応的な刺激制御により、従来手法と比較して障害物登攀および穴横断の高速化と刺激量の削減を達成しました。

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図2. 地形認識を用いた高度な移動制御戦略。(A)平坦面、登り、下り、穴を識別するMLP分類器 (B) 地形認識の結果に基づき、移動および登攀効率を高めるよう刺激戦略を調整。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、災害現場や都市インフラ、未踏破の洞窟などの複雑地形において、自律探索ロボットや昆虫サイボーグを用いた効率的な探索・点検への応用が期待されます。また、本研究が提案するバイオハイブリッドフィジカルAIは、昆虫の自然な行動能力とAIを統合することで、省電力かつ高機動な新しいバイオハイブリッドロボットの実現に寄与するとともに、生物とAIが協働する新たな探索プラットフォームの構築につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年8月21日(金)夜0時(日本時間)に米国科学誌「Device」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Biohybrid Navigation through Real-Time Terrain Recognition and Natural Climbing in Cyborg Insect”
著者名:Mochammad Ariyanto, Xiaofeng Zheng, Ryo Tanaka, C. M. Masum Refat, Keisuke Morishima
DOI:https://doi.org/10.1016/j.device.2026.101277

なお、本研究は、本研究は、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業(課題番号:JPMJMS223A)、および日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:22H04951)の支援を受けて行われました

参考URL

森島圭祐教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/90351526dc15ef59.html

森島研究室ホームページ
http://www-live.mech.eng.osaka-u.ac.jp/

SDGsの目標

  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

バイオハイブリッドフィジカルAI

昆虫が本来備える高度な身体的適応能力と人工知能による環境理解を統合し、AIがリアルタイムに把握した状況に応じて、生物の身体を通じた柔軟で適応的な運動生成を行うことで、生物の身体そのものを物理的プラットフォームとして活用する概念。 これにより、従来のロボットでは対応が難しい複雑地形や不確実環境においても、 高い適応性と自律性を備えた行動を可能にする。

尾葉

腹部末端にある感覚器官