
\リングを積み重ね、血管の足場に/ メニスカス現象を利用した 細動脈スケールのチューブ造形に成功
複雑形状・マルチマテリアルに対応
研究成果のポイント
- マイクロ流路内で生じるメニスカス現象を利用し、従来技術では作製が困難だった、複雑な形状や多材料構造の作製にも柔軟に対応できる細動脈スケールの血管様チューブを光造形する新技術を開発
- マルチスケール血管系の構築に不可欠な、毛細血管と人工血管をつなぐ細動脈スケールの複雑形状・多材料の管状構造を、メニスカス界面でのリング構造の連続形成により実現
- 人工臓器や再生医療分野における血管化組織の開発を促進するとともに、創薬評価や疾患モデルの構築などの分野のみならず、フードテック、ソフトロボティクス、バイオハイブリッドシステムへの応用も期待
概要
大阪大学工学部の神谷優樹研究生(当時)、同大学院工学研究科王穎哲特任助教(常勤)、森島圭祐教授の研究グループは、マイクロ流路内でメニスカス現象を利用することにより、複雑な形状や多材料構造の作製にも柔軟に対応できる細動脈スケールのチューブ状のハイドロゲルを光造形する新手法を開発しました。
これまでマイクロ流路内で微小なハイドロゲル構造体を成形し、その構造体を足場として生体組織を構築する手法が開発されてきました。しかし、血管のような曲線・分岐を持つチューブ状構造や、複数の材料から構成される構造の作製は困難でした。
今回、研究グループは、マイクロ流路内に形成されるメニスカス界面においてハイドロゲルリングを連続形成することで、チューブ状構造を構築する新たな手法を開発しました。本手法により、分岐部や曲線部を有するハイドロゲルチューブに加え、軸方向および半径方向に異なる材料分布を持つハイドロゲルチューブの作製に成功しました。
本技術は、細動脈スケールにおける生体模倣血管モデルの構築に寄与し、形状や組成をより忠実に再現することで、人工臓器や再生医療分野への応用も期待されます。本研究成果は、ドイツの科学誌「Advanced Materials」に、7月28日(水)(日本時間)にオンライン公開されました。
図1. メニスカス界面へのUV照射
研究の背景
血管の再現は、人工臓器の実現に不可欠な要素です。生体内の血管ネットワークは太さによって階層化された構造を有しており、これを工学的に構築する有望なアプローチとしてモジュール組み立て方式が挙げられます。これまでにバイオプリンティング技術によって直径1mm以上の大きな血管を作製する手法や、血管細胞の自己組織化を利用して直径50µm以下の毛細血管を形成する手法が確立されてきました。しかし、これらの中間スケールに位置する血管の作製は技術的に困難で、組織工学における課題となっていました。
このスケールの血管構造を実現するために、微小量の流体を精密に制御できるマイクロ流体デバイスを用いて、液体状のハイドロゲルをゲル状に硬化し、生体組織の足場として利用する技術が開発されてきました。しかし、この方法では血管のような曲線や分岐構造の再現に加え、血管の組成を反映するために必要な複数のハイドロゲル材料を組み込んだ中空構造を作製することが困難でした。
研究の内容
今回、マイクロ流路内においてメニスカス現象を利用し、1mm以下のスケールでハイドロゲルチューブを成型する新たな技術を開発しました。
親水性の流路に光硬化性のハイドロゲルとミネラルオイルを導入すると、ハイドロゲルが凹面、オイルが凸面となるメニスカス界面が形成されます。この界面に紫外線 (UV) を照射することで、流路内壁付近のハイドロゲルを選択的にリング状へ硬化させることができます。さらに、このハイドロゲルリングを流路軸方向に沿って連続的に形成することでチューブ状ハイドロゲルの作成に成功しました (図2)。
図2. (a)マイクロ流体デバイスへのUV照射の模式図(b)(i)流路内のメニスカス形成 (ii)メニスカス界面へのUV照射 (iii)ハイドロリング形成 (iv)ハイドロゲルチューブ形成 scale bar, 500 µm
また、曲線部や分岐部を有する流路内においても同様の手法を適用し、曲線構造および分岐構造を有するハイドロゲルチューブの作製に成功しました (図3(a, b))。さらに、青色のハイドロゲルチューブの内部や隣接領域に赤色のハイドロゲルチューブを作成することで、半径方向および軸方向に異なる材料分布を持つチューブ構造の作製も実現しました(図3(c, d))。
図3. (a)曲線部を有するチューブ (b)分岐部を有するチューブ (c)作製したチューブの正面, 半径方向の材料分布 (d)作製したチューブの側面, 軸方向の材料分布 Scale bars, 1 mm in (a), (b), and (d), and 500 µm in (c)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究により、ハイドロゲルを用いて構造的安定性と複雑な形状を両立した複数材料からなる中空ハイドロゲルチューブが作製可能になりました。今後、このハイドロゲルチューブを足場として血管構成細胞を播種・培養することで、より生体に近い血管組織の再現が期待されます。
本技術は人工臓器や再生医療分野における血管化組織の開発を促進するとともに、創薬評価や疾患モデルの構築などの分野のみならず、新興のフードテック、ソフトロボティクス、バイオハイブリッドシステムへの応用も期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年7月28日(水)(日本時間)にドイツ科学誌「Advanced Materials」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Meniscus-Guided Interfacial Ring-by-Ring Assembly for In Situ Fabrication of Tubular Hydrogel Structures”
著者名:Yuki Kamiya, Yingzhe Wang, and Keisuke Morishima
DOI:https://doi.org/10.1002/adma.74064
なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費「22H04951, 24K17229」の支援を受けて行われました。
参考URL
森島圭祐教授 研究者総覧
http://www-live.mech.eng.osaka-u.ac.jp/
森島研究室
http://www-live.mech.eng.osaka-u.ac.jp/
本研究に関するYouTube解説動画
https://youtu.be/RFDdAzpMO6U
SDGsの目標
用語説明
- メニスカス現象
表面張力によって液面が屈曲する現象

