\持続可能な触媒反応に一歩前進!/ 典型元素ガリウムによる遷移金属型反応で ヨウ化アリールの光活性化に成功

\持続可能な触媒反応に一歩前進!/ 典型元素ガリウムによる遷移金属型反応で ヨウ化アリールの光活性化に成功

典型元素を基盤とする結合活性化の新戦略

2026-7-2自然科学系
工学研究科助教兒玉 拓也

研究成果のポイント

  • 13族に属する典型元素であるガリウム種が、可視光照射によって、遷移金属に特徴的な「酸化的付加」を示すことを実証
  • 有機合成で重要なヨウ化アリールの炭素-ヨウ素結合を活性化し、13族元素では世界初となるヨウ化アリールの酸化的付加反応を達成
  • 光励起されたガリウム種が基底状態のガリウム種と電子を授受する「光誘起不均化反応」という新しい反応機構を発見
  • 典型元素による遷移金属型反応の新たな設計指針を提示し、希少で高価な遷移金属に代わる持続可能な触媒反応の実現に向けた重要な一歩に

概要

大阪大学大学院工学研究科の向井虹渡さん(博士後期課程)、岩崎草太さん(博士前期課程)、兒玉拓也助教、鳶巣守教授らの研究グループは、同大学院基礎工学研究科の岸亮平准教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の安倍学教授らの研究グループとの共同研究により、典型元素である有機ガリウム種が光照射によってヨウ化アリールの炭素―ヨウ素結合を活性化し、遷移金属に特徴的な「酸化的付加」と呼ばれる反応を示すことを明らかにしました。

ヨウ化アリールの炭素―ハロゲン結合を活性化する酸化的付加は、パラジウムやニッケルなどの遷移金属錯体を触媒とするクロスカップリング反応の反応機構における重要な素過程の1つです。一方、アルミニウムやガリウムなどの典型元素では、ヨウ化アリールを活性化することは困難であり、特にガリウムなどが属する13族元素によるヨウ化アリールの活性化は、これまで知られていませんでした。

研究グループは、電子の授受が可能なレドックス活性配位子の1つであるフェナレニル型配位子を導入した1価ガリウム化合物に可視光を照射すると、励起状態のガリウム種と基底状態のガリウム種との間で電子移動が起こり、「ラジカルイオン対」が生成する「光誘起不均化反応」という新しい反応機構を発見しました。このラジカルイオン対がアリールヨウ化物の炭素-ヨウ素結合を活性化し、最終的に酸化的付加生成物を与えることを明らかにしました(図)。

本成果は、遷移金属に特有と考えられてきたハロゲン化アリールの酸化的付加反応を典型元素へと拡張するものであり、希少金属に依存しない持続可能な分子変換技術の開発につながることが期待されます。本成果は、希少で高価な遷移金属に代わる、典型元素を活用した持続可能な触媒反応の実現に向けた重要な一歩となります。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」に、7月2日(木)午後9時(日本時間)に公開されました。

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図. ガリウム(Ga)(I)錯体上で進行するヨウ化アリールの光誘起酸化的付加反応

研究の背景

ヨウ化アリールは医薬品、農薬、機能性材料などの合成に広く利用される重要な化合物群です。これらの化合物を有効利用するためには、アリール炭素-ヨウ素結合を切断する酸化的付加と呼ばれる過程が不可欠です。この過程はパラジウムやニッケルなどの遷移金属錯体を触媒とするクロスカップリング反応の重要な素過程の1つとして知られています。一方、ガリウムをはじめとする典型元素では、同様の反応を実現することは難しいと考えられてきました。特に13族元素上におけるヨウ化アリールの酸化的付加は、これまで知られていませんでした。

研究グループはこれまで、電子を蓄積・放出できるレドックス活性配位子の1つであるフェナレニル型配位子を用いた低原子価ガリウム錯体を開発し、その独特な光反応性を報告してきました。今回は、その光化学的性質を活用することで、従来は困難だったヨウ化アリールの活性化に挑戦しました。

研究の内容

研究グループは、フェナレニル型配位子を有する1価ガリウム錯体に青色LED光を照射しながらヨウ化アリールを反応させたところ、ガリウム中心への酸化的付加が進行することを発見しました。詳細な分光学的解析と理論計算の結果、反応は従来予想されていたような「励起状態のガリウム錯体が直接ヨウ化アリールと反応する機構」ではないことが判明しました。代わりに、光照射によって生じる三重項励起状態のガリウム錯体が基底状態のガリウム錯体へ電子を移動させることで、ラジカルアニオンとラジカルカチオンからなるラジカルイオン対が生成していることが示唆されました。

このような現象は「光誘起不均化反応」と呼ばれます。このうち生成したラジカルアニオンがアリールヨウ化物の炭素-ヨウ素結合を活性化し、生じるアリールラジカルとヨウ素アニオンを、ラジカルカチオンが捕捉することで最終的に酸化的付加生成物が形成されるという機構が示唆されました。さらに、電子供与性置換基を持つ反応性の低いヨウ化アリールや、立体的に混み合った基質に対しても反応が進行し、本手法の高い適用性が示されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、ヨウ化アリールの酸化的付加を13族元素で実現した世界で初めての成果です。特に重要なのは、反応の鍵が「光誘起不均化」という新しい活性化機構である点です。従来、典型元素の光化学反応では、励起状態そのものの反応性が主に議論されてきましたが、本研究は光によって生成するラジカルイオン対が重要な役割を果たすことを示しました。この概念はガリウムだけでなく、アルミニウム、インジウムなど他の典型元素にも応用できる可能性があります。

将来的には、希少で高価な遷移金属への依存を低減し、地球上に豊富に存在する典型元素を利用した持続可能な触媒反応の開発につながることが期待されます。また、光エネルギーを活用した低環境負荷型の分子変換技術として、SDGs達成にも貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年7月2日(木)午後9時(日本時間)に米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Photoinduced Disproportionation Enables Oxidative Addition of Aryl Iodides at a Gallium(I) Center”
著者名:Nijito Mukai, Sota Isawaki, Manaya Kawasaki, Ryohei Kishi, Manabu Abe, Takuya Kodama and Mamoru Tobisu
DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.6c08303

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「典型元素とπ電子の協奏が拓く革新的物質機能材料創製」(課題番号:JPMJFR236I)および日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学」(課題番号:JP23H04901、JP26H00884)の一環として行われました。

参考URL

兒玉助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/cdf4081e0ada99d6.html

大阪大学先導的学際研究機構 触媒科学イノベーション研究部門
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/ics_otri/publication/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任

用語説明

典型元素

元素周期表で1族、2族、13族から18族に属する元素の総称。アルミニウム、ガリウム、ケイ素、リン、硫黄などが含まれる。近年、これらの元素を用いた遷移金属を使わない新しい触媒反応や電子材料の開発が進められている。

遷移金属

元素周期表で3族から12族に属する元素の総称。触媒として有用な元素が多く存在するが、典型元素に比べ一般に希少で高価という欠点がある。

酸化的付加

金属や低原子価元素が化学結合を切断しながら結合間に挿入し、新たな2つの結合を形成する反応。中心元素の酸化数が増加することから酸化的付加と呼ばれる。クロスカップリング反応など多くの有用な分子変換の重要な素過程の1つである。

ヨウ化アリール

ベンゼン環などの芳香環(アリール基)にヨウ素原子が直接結合した有機化合物。ハロゲン化アリール(芳香環にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子が結合した化合物)の一種であり、医薬品、農薬、機能性材料などの合成に広く用いられる重要な合成中間体である。アリールヨウ化物とも呼ばれる。

光誘起不均化反応

不均化反応とは同じ化学種同士が反応し、一方が酸化されると同時に、もう一方が還元され酸化状態の異なる2つの生成物が生じる反応。このうち光によって促進される反応を光誘起不均化反応と呼ぶ。

レドックス活性配位子

配位子とは、金属などの中心元素のまわりに結合している有機分子や原子団のことを指す。通常、電子のやりとり(酸化還元)は中心元素が担うが、レドックス活性配位子は自ら電子をやりとりできるため、中心元素の酸化数を変えずに新しい酸化状態や反応性を引き出すことができる。

フェナレニル型配位子

芳香族ケトンの一種である9-ヒドロキシフェナレノンを母体とする有機分子を配位子として利用したものであり、レドックス活性配位子の一種と分類される。

三重項励起状態

分子が光を吸収して高いエネルギー状態になったときの電子状態の一種。電子にはスピンと呼ばれる性質があり、三重項励起状態では不対電子のスピンが同じ向きを向いている。一般に寿命が長く、高い反応性を示すため、光化学反応において重要な役割を果たす。